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法整備からスタートした新規事業の話

こんにちは。現在、音声プラットフォーム「Voicy(ボイシー)」で働いている、AYAです。

Voicyに辿り着くまで、メガバンク(SMBC)や戦略系コンサル(BCG)、メガベンチャー(LINE)で働いていました。
現在は、Voicyで音声プラットフォームづくりの一員として、日々奮闘しています。

初めて新規事業の立ち上げに触れて、その面白さに魅了された話(新規事業立ち上げ in ベトナム)の続きを書きます。


新規事業の概要(おさらい)

ベトナム政府と日本政府の協働覚書を基に、ベトナム郵便と始まったプロジェクト

ベトナム郵便が担っている年金の給付業務(対象者へお金を配る業務)の効率化を目指し、電子マネーを入れよう!という検討を開始。
一方、当時、ベトナムでは電子マネーに関する法律がなく、法整備の交渉からスタートしました。

ちなみに前回の話はこちら👇

誰が国家銀行に具申すべきか?

ベトナムに電子マネーの法律がなかったため、ベトナム国家銀行(日本の日本銀行と金融庁を兼ねた存在)と法律整備の交渉を始めなければいけないわけですが…

他国の企業が直接、外国政府に対して法律整備を具申することは、土足で入り込むようなもので避けるべき行為
そのため、ベトナム郵便に目指す事業のモデルを理解してもらい、そこで必要となる法的後ろ盾をベトナム郵便からベトナム国家銀行に要請してもらう必要がありました。

これが意外に困難を極めたプロセス。
だって、体験したことが無いサービス(事業)だったのですから。
ベトナム郵便へ要点のインプットが始まったのですが…

電子マネーって何?

電子マネーの仕組みを説明するために、日本における電子マネーの導入事例を紹介するところから開始。

日本の事例として、JR東日本の「Suica」をピックアップ。
しかし、全然伝わらない。むしろ混乱。
なぜかというと、通勤電車なんて無い国。
電車を普段使いしない国の人にとって、まず改札だって身近じゃ無いし、何が便利になっているのか?共感しづらいものだったのです。

そこで、セブンイレブンの「nanaco」を紹介。
当時、ハノイでもスーパーなどのチェーン小売店が徐々に出店があり、少しイメージがしやすいケースとなりました。

ただ、まだまだ当時のベトナムはほぼ現金決済だったので、
「現金化もできる」機能が必須と考えました。

デビットカードと何が違う?

あれ?ここで疑問が出てきました。
バリューがチャージされて、そのバリューで買い物(決済)ができるだけでなく、現金化もできちゃう魔法のカード。
これって銀行が発行するデビットカードと何が違うの?という疑問

この疑問を明確にする必要がありました。
なぜならベトナム国家銀行に説明が必要だからです。デビットカードと一緒であれば、銀行免許の取得を要求されることになるのは明白です。

超シンプルに言って、銀行免許は金融領域において最高に厳しい領域。制限事項がとっても多いし、オペレーション体制の負荷も重くなる。
そこまで重いサービスにせずに立ち上げたいという皆の一致した想い。

銀行と違うポイントとは?
それはチャージされたバリューに金利がつかないこと。

日本にいると忘れそうになる銀行預金の金利ですが、当時のベトナムは普通預金ですら年利3~5%程度。
1年定期になると10%超!
インフレ抑制のため、なんと預金金利の上限が国家銀行によって設定されているような状況。

こんな環境下でバリューに金利がつかないことが良いことなのか?議論もしました。
しかし、そもそも銀行口座を持たない人たち向けのサービスであることに立ち返り、金利は捨てることにしました。

いよいよベトナム国家銀行へ

早速、ベトナム郵便による国家銀行との話し合いが開始。
しかし、とにかく一言で言って、手応えの感じられない報告ばかりがベトナム郵便から上がってきます。

日本側から「本当にちゃんと話をしてるの?」という不安と疑念が募るばかり。
一方で、ベトナム郵便は「ベトナムスタイルよ〜。焦っても意味ないよ。」の一点張り。

あまりに進まない様子に痺れを切らした日本側。
国家銀行とのミーティングにオブザーバーとして参加することを打診してみたものの、ベトナム郵便に「警戒されるから、まだ控えてほしい」と。
ますます焦る日本側。

こんな焦らされる日々が数ヶ月続きます。
こうなったら、耐えるしかない。
東京から詰められつつ、耐える日々。
心の中では、OKY (おまえが、来て、やってみろ) と毒づいていたことは言うまでもありません😝

そして、ある日、とうとうベトナム郵便から
「国家銀行と法律の草案について議論したいと言われているから、オブザーバーとして会議についてきてください」と。

やっぱり信頼を勝ち取るには
まず信頼するしかない
、と思いました。

ここから草案をベースとした交渉が進みました。

現場を巻き込んだ要件定義

法律の整備を待たずに、現場では事業開発を並行して進めました。
現金で支給している現状工程を見える化するところから開始。
そして、電子マネーの仕組みを入れて、どのように工程が変化するかを説明しました。

ちなみに、全然、言葉じゃ分かりづらい部分も少なくなく…
結果取り入れた手法はロールプレイ
輸送係や窓口係、年金受給者係などなど。
意外と関係者も整理できるし、理解が一気に進んだ手法。
楽しく言語の違いも乗り越えてチーム一丸となれたきっかけだったと思います。

こんな工夫を重ねながら、工数を整理。
電子マネーを入れるための要件定義が進みました。

裏側でもっと苦労したこと

実は、この裏側でもっともっと苦労したことがあります。
それは、契約の締結に関する調整。
もう政府間でも協力することが確定しているし、民間企業として関わることも決まっている話ではあるものの…

システム開発を誰のお金で実行していくのか?

実はこの一番肝心な部分についての調整がグダグダでした。

契約内容は当然、政府にも内容をお伺いする必要があり、
さらに調印の際は、政府も立ち会いのもとに「調印式」の実施を要求されました。

調印式の日程だけが先に決められました。
偉い人のスケジュールを抑える必要があるためです。

しかし、条件がなかなか擦り合わない。
日本側にコスト負担をひたすら要求するベトナム側。
しかも、午前中に一旦擦りあった条件が午後にひっくり返ることもザラ
一緒に仲良くランチを食べたのに!という感じ。
椅子から落ちそうになったことが何回あったことか…。
そんな経験を通じて、時に強く言い切ることも学びました。

そして、辿り着いた最後の切り札。
「調印式の日程が決まっている。ここに間に合わないとマズい。」
この言葉、政府に迷惑をかけてはいけない!という気持ちが強い社会主義国家の人たちに響きました(笑)
なので、何かもう折り合わなさそうな部分を最後に押し込むときは、切り札を差し込む日々。

結局、調印式の1週間前になんとか契約が擦り合うという、心臓に毛が生えざるを得ないタイミングで滑り込み締結に至りました。


そろそろ長くなってしまったので、この辺りで。
システム開発が始まった後の新たなバタバタを次回は書きます。

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