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高身長女子の話

この小説は、物心ついた頃から姉に可愛がられていた主人公の成長と、姉との近親相姦を描いたものです。
主人公は、姉が自分を可愛がってくれることを嬉しく思っていましたが、やがて自分の感情が変化し始めます。彼は、お風呂上がりの姉の胸元に吸い付いたり、姉のオナニーを観察することで母性を刺激し、姉に甘えることが好きでした。
ある日、姉は自分の性器を主人公に見せ、彼を誘います。主人公は初めて見る姉の性器に戸惑いながらも、彼女に誘われて手を伸ばし、濡れた感触を感じます。姉は主人公に膣に挿入するように促し、何度もトライして最後には入れることができます。二人は互いに愛しあい、性的な行為を楽しみますが、最後には姉が出血するほど激しくなります。

物心ついた時から、俺は姉にべったりだった。
仕事の忙しい両親に代わって、姉さんは俺を可愛がってくれたし、俺もそんな姉のことが大好きだったから。
だけど成長するにつれて、俺の中で少しずつ、その感情に変化が起きていたんだ。
「ん……ちゅぷ……」
お風呂上がりの姉さんの胸元には、小さな膨らみがあった。それは、まだ第二次性徴を迎えてない女の子のもので、俺はいつものようにそこに吸い付く。
「あんっ♡もう、しょうがない子ね」
優しく頭を撫でてくれる姉さんの手を感じながら、俺は必死になって彼女の乳首を吸う。
赤ちゃんみたいだって笑われるけど、そうすることで母性が刺激されてるのか、姉さんは喜んでくれるんだ。
そして、もう片方の手で、自分の股間を弄っていることも知っていた。
俺がこうして甘えている時や、勉強をしている時に、こっそりオナニーしてることにも気付いていたんだ。
「ねえ、見て?弟の目の前なのに、こんなになってるんだよ?」
パジャマを脱いだ姉さんは、裸のままベッドの上に仰向けになる。大きく脚を広げて、大事な部分を指先で開いて見せてくれた。そこはピンク色になっていて、ヒクヒクと痙攣しているように見える。
俺ももう15歳だし、それが何なのかは知っている。でも、まさか姉さんのそこを見る日が来るなんて思わなかった。
恥ずかしくて目を逸らす俺を見て、彼女はクスリと笑う。
「あー、やっぱり男の子だなぁ。私のここ見るの初めてだもんね。いいよ、触ってみて」
誘われるように手を伸ばした。そっと触れると、ぬちゃりと湿った感触がある。そのままゆっくりとなぞっていくと、姉さんが小さく喘ぎ声を上げた。
「あっ……んふぅ……もっと強く擦ってもいいよ」
言われた通りにすると、どんどん愛液の量が増えてきた。同時に膣口がパクパクと開閉していて、まるで何かを求めるように誘ってくる。
「じゃあそろそろ入れようか。ほら、ここにゆっくり腰を落としていくの」
言われるままに挿入していく。初めての経験だから上手く入らない。何度も滑らせて、ようやく先端が入ったと思ったら、今度は中々奥まで入っていかない。焦れば焦るほど難しくなって、結局半分くらいしか入らなかった。
「大丈夫だよ。最初は難しいかもしれないけど、慣れたら出来るようになるからね」
そう言って姉さんは俺を抱きしめると、優しくキスしてくれた。
それから2時間ほどかけてやっと最後まで入った時には、お互いに汗びっしょりになっていた。姉さんのアソコからは血が出ていて、シーツに大きな染みを作っていた。
「うん、ちゃんと全部入ったね。偉いぞ薫♪」褒められて嬉しかったけれど、正直なところ、そこまで気持ち良くはなかった。それよりも痛みの方が勝っていて、今すぐ抜いてしまいたい気分だった。
「それじゃ動くね。痛かったらごめんね」
姉さんが腰を動かす度に、肉同士がぶつかり合う音が響く。次第に痛みよりも快感の方が強くなってきたのか、段々と姉さんの息遣いが激しくなっていった。
「あんっ♡弟チンポきもちぃ♡おまんこキュンキュンしちゃう♡ああイクッ!イッくうう!!」ビクンと身体を大きく跳ねさせて絶頂を迎えたようだ。それと同時に、大量の精液が飛び出して行ったのを感じる。
射精が終わると、姉さんの身体はそのまま倒れ込んできて、俺を強く抱き締めた。
「大好きだよ、薫……」
耳元で囁かれた言葉にドキッとした瞬間、唇を奪われた。舌を差し込まれて絡められる。さっきまでとは打って変わって積極的なキスだ。
「んむ……ちゅぷ……んふぅ……」
しばらく続いた後、姉さんは顔を離した。そして蕩けた表情で言う。
「ねぇ、もう一回しない?」返事をする間もなく押し倒され、再び覆い被された。
そこから先はもう無我夢中だった。とにかく必死になって腰を振り続ける。
「あんっ!激しすぎるよぉ!壊れちゃうぅ!」
そんなことを言いながらも嬉しそうな表情を浮かべる姉。
彼女のこんな淫らな声など、ついぞ聞いたことがなかった。
いつも優しい姉が、今は快楽を求めて腰を振り続けているのだ。そのギャップだけで達してしまいそうになる。
さらに激しくなる抽送。結合部が激しく泡立ち、部屋中に卑猥な音が響き渡る。
「出る!もう出そう!」
限界を迎えそうになったので、姉に伝える。
「いいよ!いっぱい出して!」
姉の言葉を聞き、俺は欲望のまま膣内に射精した。ドクンドクンと脈打ちながら大量に吐き出されていく精液。
「あぁ……出てる……薫くんのおちんちん、すごく元気なんだね……」姉は幸せそうな顔をしながら言った。
そして全てを出し切ったあと、ようやく引き抜くことができた。
「はー……はー……」
息を整えながら隣を見ると、姉は満足げな笑みを浮かべながらこちらを見ていて、目が合うなりこう告げた。
「またしようね」
それからというもの、俺たちは毎日のように求め合った。
朝起きてから夜寝るまでずっと。食事中も、入浴中でも、トイレの中でも、果ては授業を受けている時でさえ頭の中で姉との情事を思い浮かべてしまうほど俺はおかしくなっていた。
次第に俺は、そんな日々が恐ろしくなっていった。
このまま、姉が子供を孕んでしまったら。
親や友達、世間に知られたら。
快感と理性の間で俺の心はグチャグチャになっていった。
そして、恐れていた事態がついに起きる。
姉の生理が来なくなった。
俺の子と言わず、黙って産みたいと言い出した。
「でも――そんなのダメだよ……」
姉には普通の女の子として生きてほしい。それが本音だった。
だが姉は頑なにそれを拒んだ。
「私は、お母さんになりたいの。あなたの子供を抱いてあげたい」
姉の真剣な眼差し。俺は何も言えなくなってしまった。
数日後、姉は病院へ行き検査を受けた。その結果は……
「おめでとうございます。ご懐妊ですよ」
医者が笑顔で言うと、周りの看護師たちも拍手をした。
どうすればいいのか分からず呆然とする。
すると、姉が近寄ってきて優しく抱きしめてくれた。「ありがとう。嬉しい……」
「なんで……?どうして喜んでるんだよ……」
姉は答えず、ただギュッと強く抱き締めてくるだけだった。
俺は怖くなった。姉が変わってしまうのではないかと……。
それから数ヶ月後、姉は無事に出産を迎えた。
「おぎゃあああっ!!」
「お疲れ様です。母子ともに健康ですね」
「良かった……」
ほっとしたような表情を見せる姉。俺は複雑な気持ちになりつつも、生まれたばかりの赤ん坊を眺めていた。
(これが……俺の子)
小さな命を見ているうちに、自然と涙が出てきた。
「この子の名前、決めてあるんだ」
「なんて名前?」
「真琴。私の子供だから……ね?」
姉はそう言うと、赤ん坊をあやし始めた。
俺はそれを見ていることしかできなかった。
その後、俺は大学を辞めることにした。
もう姉とは関わらないようにしようと決めたからだ。
姉は俺を恨んでいるだろう。あんなことされて、妊娠までして、挙げ句の果てに捨てられて。
きっと、俺のことを軽蔑しているに違いない。
だがこれでいい。姉はもう普通の女性なのだから。
そう思っていたのだが……
ある日、俺は自宅の部屋にいた。特に何をするというわけでもない。
何も考えたくない時はこうして自室に閉じこもる。
「……」
無気力なままベッドの上で横になっていると、突然インターホンが鳴る。
無視していると、何度も鳴らされるので仕方なく玄関へ向かった。ドアを開けると、そこには姉がいた。
「薫くん、いる?」
いつも通り優しい口調で話しかけてきた。だが、その表情からは感情を読み取ることができない。
「なにか用ですか?」
冷たく突き放すように言い放つ。
しかし彼女は動じることなく、こう続けた。
「あなたに話があるの。入ってもいいかな?」
「……分かりました」
断る理由もなく、姉を招き入れることにした。
リビングへと案内し、椅子に座ってもらう。飲み物を用意しようとキッチンへ向かおうとすると、彼女が口を開いた。
「ねぇ、私たちって血が繋がってないよね?」
いきなり核心を突く質問を投げかけられ、心臓が大きく跳ねる。
「どういう意味でしょうか」
平静を保ちつつ聞き返す。
「そのままの意味だよ。私と薫くんは他人同士。そうでしょう?」
「……」
沈黙は肯定と同義だと思ったのか、姉はさらに言葉を続けた。
「あの日以来、私たちはセックスをしてないけど、本当はしたいんじゃないの?だって、あれだけ激しく求め合ってたもんね」
「なっ!?」
まさかそんなことを言われると思っていなかったため、動揺してしまう。
「やっぱり図星なんだ」
「ち、違いますよ!何言ってるんですか!」
「嘘つかないで!正直になってよ!」
姉の剣幕に押されてしまい、「はい……」と答えてしまった。
「じゃあ、今すぐここで抱いてよ。そうしたら信じてあげる」
とんでもないことを言い出す姉。
「いやいや、それはさすがに……」
「どうしてよ!今まで散々ヤッたでしょ!なんで拒否するのよ!」
「い、嫌なんですよ!これ以上罪を重ねたくない!」
つい本音を漏らしてしまった。
すると姉は立ち上がってこちらに歩み寄り、服を脱ぎ始めた。
「ちょ、ちょっと待った!なんで脱いで――」
「いいから黙って見てなさい。これから証明してみせるわ」
下着姿になった姉は、さらにブラジャーを外す。すると大きな胸が露になる。
「ほら、おっぱいも大きくなったの。触りたいなら好きにしていいんだよ?」
挑発するように言ってくる。
俺は生唾を飲み込みながらゆっくりと手を伸ばした。
指先が触れる。柔らかくて温かい感触が伝わってくる。
(あぁ……ダメなのに……)
頭では拒もうとしているものの、体は勝手に動いていく。
「ふぅん……薫くんってば、私の体に興味津々なのね。こんなに大きくなってる……」
いつの間にか、俺のものはズボンの中で痛いほど張り詰めていた。
「は、早く終わらせてください」
恥ずかしくて目を逸らす。すると姉はクスッと笑みを浮かべ、次の行動に出た。
「うぐっ……!?」
姉が自分のものを掴んできたのだ。
「どう?気持ちいい?私はすごく気持ちいいよ」
「やめて……ください……」
「本当に?でも、ここはもっとして欲しいみたいだけど……」
上下に動かされると、快感が全身を駆け巡る。俺は必死に歯を食い縛る。
「我慢しないで出してもいいんだよ?」
耳元で囁かれる。俺は限界に達しようとしていた。
(出る……)
その時、姉の動きが止まった。
「……え?」
呆気に取られていると、姉は自分のスカートの中に手を入れ、パンツを下ろして秘部を見せつけてきた。そこは濡れそぼっており、ヒクついている。
「私のここに入れて。そうすれば、続きをしてあげる」
頭がクラクラしてくる。もう理性など残っていなかった。
俺は無我夢中で腰を突き出した。そして一気に貫いた。
「あああっ!!」
挿入と同時に姉は絶頂を迎え、体を仰け反らせる。俺もすぐに射精してしまいそうになるが、なんとか堪えてピストン運動を始めた。
「すごい……!やっぱり、薫くんのが一番いい!」
姉の言葉を聞き流しながら一心不乱に突き続ける。「あああっ!!またイク……!!」
姉は再び達し、それと同時に膣内が激しく収縮する。
その締め付けに耐えきれず、俺は精を解き放った。
「ハァ……ハァ……」
呼吸を整えつつ、ゆっくりと引き抜くと、白い液体が大量に溢れ出てきた。
「これで分かったでしょう?」
「……何がですか?」
姉は俺の手を掴み、自分の腹に当てさせた。まだドクンドクンと脈打っている。
「私とあなたは他人同士。決して交わることのない関係だったのよ」
「そうですね」
「だから、私を殺してちょうだい。それで全て終わりにするの」
「分かりました」
ナイフを手に取り、姉の首筋に刃を当てる。だが、手が震えてしまい上手く切れない。
「大丈夫だよ。思いっきり刺せばいいんだから」
姉は優しく微笑む。
「ごめんなさい……!」
俺は涙ぐみながら、力いっぱい刃を押し込んだ。
「痛いよ、薫くん……」
姉の目からは大粒の涙が流れ落ちる。しかし表情に変化はない。
「さようなら、お姉ちゃん……」
やがて彼女の体は崩れ落ち、動かなくなった。
俺はしばらくの間その場に立ち尽くしていたが、意を決したように死体の服を脱がせ始めた。
「くっ……」
やはり血の臭いは苦手だ。吐き気がこみ上げてくる。それでも何とか全裸にし、ベッドへと運んだ。
姉は綺麗な顔で眠っているように見える。だが、もう動くことはない。俺は姉の体に覆い被さり、唇を重ねた。
「ん……」
姉の喉から僅かに空気が漏れるが、もちろんそのまま眠ったままだった。
俺はキスをしながら右手で乳房を揉み、左手で股間を弄る。
「あぁ……!」
姉の体は、死んでなお感度が良いようだ。乳首を摘まめば体がビクビクと跳ね、クリトリスを刺激すると愛液が染み出してきた。
(そうだ……!)
俺はあるものを思い出し、一旦体を起こした。机の引き出しからローションを取り出し、再び姉の上に跨がる。「行くぞ……」
俺はゆっくりと腰を沈めていった。ずぶずぶと音を立てて入っていく。
(あぁ……気持ちいい……)
生前の姉とは何度も繋がったが、こんな感覚は初めてだった。温かくて柔らかい。まるで生きているかのよう。
根元まで入れてから、ゆっくりと抜き差しを始める。最初はぎこちなかったが、徐々にスピードを上げていく。
「ん……ふぅ……」
姉は相変わらず目を閉じたままだ。しかしその口からは微かに喘ぐ声が聞こえてくる。
(生きているのか?)
一瞬そんな考えが頭を過ったが、すぐに打ち消した。姉は死んだのだ。俺の手で殺したのだ。そう自分に言い聞かせる。
次第に限界が見えてきた。ラストスパートをかける。
「ああぁっ!!!」
どぴゅっと勢いよく精子が飛び出した。同時に絶頂を迎える。「ハァ……ハァ……」
(終わった……)
俺は脱力して姉の横に倒れ込む。しばらく余韻に浸っていたが、不意にあることを思い出した。
俺は起き上がり、姉の体を調べる。
(あった……)
胸ポケットの中から写真を取り出す。そこには幼い姉弟の写真が入っていた。
俺と、姉を繋ぐ大切な写真・・・。
しかし、よく見ると、写真は不自然に切断されていた。
一瞬違和感を感じたが、俺の股間が反応していることに気づき、慌ててズボンを脱いだ。
(もう戻れないんだ……)
俺は泣きそうな顔を手で覆う。
「姉さん……」
俺は姉の名前を呼んだ。
もう二度と返事は返って来ない。分かっていても呼び続けた。
「ごめんなさい……!」
そして俺は姉の死体を何度も何度も犯し続け、最後に彼女の体をビニールシートで包み、赤ん坊と共に日本海へ捨てた。
[newpage]
あれ以来俺は、姉にしか欲情しない体になっていた。
けれど、それでいい。女性の体は今でも触れないし、仕事の話ばかりしていれば、女性達は俺に近づかない。
そうこうしているうちに35になり――俺は部長になった。
周囲からは仕事人間と呼ばれ、時に反感を買うこともあった――だが、姉に欲情して歯止めが利かなくなることの何千倍もましだった。
部長になったとき、部署が変わった。
おれがあたらしく管轄するのは、何年か前に所属していた麻薬取締部だった。
そこには前にはいなかった進藤という女がいた。
初めて会った時、おれは姉の幻想を見たと思った。
目元、口元、髪型まで。姉そっくりだった。
長年愛してきた姉が写真ではなく、目の前で熱を持って存在するということに慌てた俺は、彼女がせっかく運んでくれた湯飲みに手を当ててこぼしてしまった。ズボンがお茶で汚れてしまい、彼女が慌てて拭こうとすると、手が触れ合った瞬間、俺は思わず体を痙攣させてしまう。
「す、すまない。ちょっとびっくりしたんだ」
俺は動揺を隠すように言う。
彼女はそんな俺を見て笑った。
「うふっ……私こそごめんなさい。お詫びしますよ。それにしてもすごい汗ですね。シャワーでも浴びます?」
「あぁ、そうだな。当直室のを借りてくるよ」
俺はそう言って、何ともないような顔でオフィスを出た。
+++
「はぁっ…姉さん…姉さんっ…」
シャワールームのなかで、姉の写真を相手に一人でしごく。
「んぐぅっ!出るッ!」
ビュルルルッ!!ビューーッ!!!ビュッ!ドピュッドピューーーーッ!!!! 射精するたびに腰が抜けそうになるほどの快感に襲われる。
こんなことは今までなかった。姉の記憶が、生々しい進藤の肢体と合わさり、俺を狂わせていた。
「はぁっ……はあっ……。だめだ、我慢できない……。会いたい、進藤に会いたい!!」
一度は殺した俺のなかの獰猛な劣情が、15年超しの利子付きで襲い掛かってくる。
このままでは駄目だ。何とかせねばと、一人焦燥感を覚えながら、それでも肉棒をしごく手を止めることはできなかった。
その日は当直室で寝る気にもならず、自分の部屋に戻った。
部屋の中は真っ暗だったが、デスクの上にパソコンがあるだけで落ち着くことができた。
いつものようにキーボードを打ち始めると、すぐに眠気が襲ってきた。
「はぁ……疲れてるみたいだな……」
目を閉じれば一瞬で眠れそうなほど疲労していた。
今日一日のことを思い出す。
進藤の顔が浮かぶ。
「進藤……お前は一体何者なんだ?なぜ俺の前に現れた?」
答えのない問いを呟きながら、意識が遠のく。
夢の中に進藤が現れた。
それは淫らなもので、俺は彼女を滅茶苦茶にしたくて堪らなかった。
彼女の乳房を掴み、揉みしだいて、乳首を吸い上げる。彼女は嫌がったが、構わずに犯し続けた。
そして何度も膣内に精を放った。
朝起きると下着の中が濡れていて、自分が夢精したことに気付いた。
「なんということだ……」
自己嫌悪に陥っていると、唐突に後ろから彼女の声がした。
「部長、お早うございます。もう出勤したんですか?」
彼女は相変わらずその豊満な胸を揺らしながら近づいてくる。
「あぁ、おはよう進藤君。君だって早いじゃないか」
おれは下半身を必死にデスクの下に隠す。
「どうしたんですか部長。なんか暗いですよ。それに――この臭いは?部長ってば、昨夜はお楽しみだったんですか?」
そう言った彼女の目は心底俺を軽蔑していた。
「そ、そんなわけないだろう。夜食の臭いかな」
「部長って結構嘘が下手ですよね。まぁいいですけどね。ところで部長――今度の日曜日空いてますか?」
「えっ……あぁ、大丈夫だが……」
「じゃあお昼ご飯食べに行きましょうよ。私の奢りでいいんで」
「いや、俺が奢るよ。何時にどこに行けばいいんだ?」
おれは内心歓喜しながら答える。
「12時に、駅前に来れるならどこでも良いですよ。部長は何が食べたいんですか?」
「あぁ、何でもいいぞ。君の好きなもので構わないからな」
「わかりました。それじゃあ後で連絡しますから。夜遊びもほどほどにしてくださいね、部長♪」
そう言って俺の肩を優しく撫でると、進藤は去って行った。
俺は進藤の誘いを受けてしまったことを後悔したが、一方で、あの進藤を俺のものにしてやろうという邪な考えもあった。
[newpage]
進藤と昼食を共にすることになった土曜日の夜。
おれは緊張して、あまり眠ることができなかった。
「うわっ、部長すごい隈じゃないですか!ちゃんと寝てないんじゃないですか!?」
「いや、ちょっと寝付けなくてな。それより進藤君は本当にここで良かったのか?高級フレンチとかでも全然よかったのに……」
「いいんですよ。私は部長と一緒に美味しいもの食べられたらそれで満足なので。さ、早く行きましょう!」
そう言って、進藤はおれの腕を引っ張った。
柔らかい胸が腕に押し付けられる。
「し、進藤君。歩きにくいんだが……」
「あっ、すいません。つい嬉しくなってしまって……」
進藤は頬を染める。俺は平静を装うために、仕事の話を振った。
「そうだ、例の話だが……。最近何か変わったことはあったかい?」
「いえ、特には何も。あ、でも……神田さんは少し様子がおかしいですね。ずっと上の空っていうか……。やっぱりあの時私が止めていれば……」
「いや、あれは俺の責任だ。俺がもっと強く出ていれば……」
「部長……。ありがとうございます」
進藤は微笑む。
それからしばらく沈黙が続いた。
+++
「ここのお店おいしいんですよ。私よく来るんです」
着いたのは、こじんまりとしたレストランだった。
店員が出てきて、席まで案内してくれる。
「ご注文が決まりましたらお呼びください」
メニュー表を見ると、どれも値段が安くて驚いた。
「こんな安いところがあったなんて知らなかったよ。教えてくれればよかったのに」
「部長とはこういう所来たことなかったから……。今日は特別ですよ」
進藤ははにかみながら言う。
俺のなかで膨らみそうな妄想を、手の甲をつねって制した。
料理が運ばれてくると、会話も弾み、楽しい時間を過ごした。
食事を終え、店を後にする。
「今日は楽しかったです。また一緒に来ましょうね」
「あぁ、是非頼むよ」
俺は内心ガッツポーズをしながら答えた。その時だった。
「きゃああぁぁ!!」
悲鳴が聞こえてきた。
「なんだ今のは……」
おれたちは顔を見合わせる。そして声のした方へ走った。
するとそこには、ナイフを持った男が暴れていた。
男は通行人を突き飛ばしながらこちらへ向かってくる。「どけぇ!!殺すぞぉ!!!」
「ひぃっ、助けて下さい!」
「おいあんた、落ち着け。何があったんだ?」
「うるせえ!死ねぇッ!」
男はおれに掴みかかってきた。
「危ないっ、部長!」
間一髪で進藤に助けられるが、その拍子に彼女は転んでしまったようだ。
「痛っ……あぁっ!血が出てますぅっ!」
見ると彼女の太腿から赤い液体が流れ出ている。
「大丈夫か!?」
おれはすぐにハンカチを取り出し、傷口に当てる。
「大丈夫です……って、課長!手っ!」
「ん?あぁ、気にしないでくれ。それより早く病院に行った方がいいな」
「そんな場合じゃないです!課長の手の方が大事ですっ!」
進藤は必死の形相で叫ぶ。男の方を見ると、既に逃げ去っていた。
「くそっ、逃がすか……ぐぁっ!?」
突然背中に衝撃が走る。振り返ると、さっきの男がいた。
「この野郎……よくも俺の女に手を出してくれたなぁ!」
そう言って、ナイフをふり回す。
「待て、人違いだ」
「うるさい黙れ!お前を殺して俺も死ぬんだよォ!」
男は狂ったように叫び、再び突進してくる。
おれは咄嵯に身を翻して避けたが、バランスを崩してしまった。
そこへ男の追撃が来る。今度は避けられない――と思った瞬間、目の前で何かが光った。それは一瞬の出来事だったが、確かに見覚えのあるものだった。
「部長!怪我はないですか!?」
そう言って駆け寄ってきたのは、拳銃を構えた進藤だった。
+++
「し、進藤君……」
「部長は下がっていてくださいね」
そう言って、進藤は微笑む。
俺は混乱していた。
どうして進藤が銃を持っているのか。それに、何故おれを助けてくれるのか……。
考えている間にも状況は進んでいく。
「貴様ァ……邪魔をする気か?」
「邪魔なのは貴方でしょう?早くどこかに行ってください」
「ふざけるなぁ!!」
男は進藤に向かって走り出す。だが、彼女が引き金を引く方が早かった。
パンッという乾いた音が響く。
「ぎゃあぁあっ!!」
男は頭を抱えてうずくまる。「課長には指一本触れさせません」
進藤は冷たい目つきで言う。
「お、おまえ……。なんで俺の邪魔をした……。お前のせいで俺は……俺は……」
男は涙を流す。
それを見た進藤は、静かに言った。
「部長を殺そうとしたからですよ」
進藤はふたたび銃を構える。それを見た俺はあわてて彼女を止めた。
「よせ、もういいだろう。これ以上やったら本当に死んでしまうかもしれない……」
「……分かりました」
進藤はしぶしぶといった様子で答える。それからすぐに救急車を呼んだ。
+++
「部長、申し訳ありませんでした。私のせいでこんなことに巻き込んでしまいまして……。部長が無事でよかったです」
「謝るのは俺の方だ。すまない、進藤君……。俺のせいでこんなことになってしまって……。でも、なぜ俺を助けたんだ?」
「それは…くしゅ…」
「えっ?」
「…実は私、両親を亡くしているんです」
「なっ……」
知らなかった。進藤が家族を失っていたなんて……。
「私は親戚に引き取られたのですけど、新しい父は暴力を振るう人でした。毎日のように殴られたり蹴られたり……」
「ひどい話だな……」
「はい。それでも我慢できたのは弟の存在があったからだと思います」
「弟さんがいるのか」
「えぇ。優しくてかわいい弟です。私はいつも守られてばかりでしたが、とても感謝しています。私がこうして警察官になれたのは、弟のおかげだと思うんですよ。だから、弟に似ている部長も助けたかった。部長に死んでほしくなかったんです」
「そうだったんだな……。ありがとう、進藤君。君の気持ちはよく分かった。これからはもっとお互いのことを知っていこうじゃないか」
「はい、よろしくお願いします!」
進藤は笑顔で答えた。
その時、おれはふと疑問に思ったことを訊いてみた。
「そういえば、きみの年はいくつなんだ?」
「私は21ですよ」
21歳の女の子の弟に似ていると言われるのも複雑な気持ちだ。
おれは、もうひとつ疑問に思っていたことも訊いた。
「ところで進藤君は、いつから拳銃を持っていたんだ?」
すると彼女は、さも当然のことかのようにこう言ったのだ。
「え?だって、いつでも部長を守ることが出来るように常備しているじゃないですか」
その言葉を聞いた瞬間、おれは自分の心臓が大きく脈打ったのを感じた。
「部長、どうかされましたか?」
進藤が不思議そうな顔でこちらを見る。
おれは必死で平静を取り繕いながら、「いや、なんでもない」と答えた。
「それより、進藤君がそんなことを考えていたとは意外だったな」
「はい。ですけど、部長ならきっと分かってくれると思っていました」
「あぁ、もちろんだとも。君がどれだけ俺を大切に思っているか、よく分かったよ」
「ふふふ、良かった。じゃあ改めて、これからもよろしくお願いしますね!」
「こちらこそ」
おれたちは固い握手を交わした。
そして、おれはこの瞬間確信した。
この子は俺が守る。
絶対に死なせたりしない。
そう決意を固めていると、ふいに彼女の太ももが目に入った。
「進藤君、止血が出来ていないようだぞ」
「えっ!?本当ですか!?」
「見せてみろ」
おれはそう言って、彼女のスカートをめくった。白い脚が現れる。それを見ているうちに、ある考えが浮かんできた。
(そうだ……。俺だけが彼女を守ってやれるんだ)
それはまるで悪魔の囁きだった。
[newpage]
神田雄大は、実直で熱い刑事だ。
だがそれゆえに、ミスも多い。
今回もそうだ。
進藤は犯人を捕まえるため、囮捜査を提案した。だが、それが裏目に出てしまった。彼女は襲われ、殺されかけた。
俺はすぐさま進藤のもとへ駆けつけた。
幸いにも怪我はなかったが、危険な状況であることに変わりはない。
彼女を危険に晒したのは、作戦の指揮を執る神田である。
俺は神田を呼び出す。
「どうしたんですか?急用って……」
彼は怪しげな笑みを浮かべながら現れた。俺は単刀直入に切り出した。
「お前のやり方は間違っている」
「……どういうことです?」
「今回の件で、進藤は危うく死ぬところだった。俺は彼女に傷一つつけさせるつもりはなかったんだ」
「なっ……!あなたは何様のつもりですか!!上司の分際で……」
「上司だからこそだ!!」
声を荒げる。
「お前は自分の命をなんだと思っているんだ。それに、これは俺たちの仕事だろう。なのにどうして見張りを部下に任せたんだ」
「そ、それは……」
「次からは気を付けろ」
「…分かりました」
神田はそう言って部屋を出て行こうとする。
「部長こそ、気を付けたほうが良いですよ。進藤ばかり贔屓にしてるって言われても仕方ないですからね」
「俺が進藤を?バカバカしい」
「まぁいいでしょう。では失礼します」
神田が出ていくと、入れ替わるようにして進藤が入ってきた。
「部長、大丈夫でしたか?」
「ああ、問題ないよ」
「良かった……。あの、部長。私のために怒ってくださったんですよね……。」
進藤は眉を下げて恐縮している。そんな顔もまた可愛い。
「勘違いするな。俺は自分の仕事をしただけだ」
「部長らしいですね」
「それより、今度からこういうことは一人でやるんじゃないぞ」
「えっ?」
「もし何かあったら困るのは君だ。だから、俺を頼れ」
そう言うと、彼女は顔を真っ赤にした。そして俯いて小さな声で言った。
「ありがとうございます……。部長、大好きです」
その言葉を聞いた瞬間、おれは心臓が高鳴るのを感じた。
「そういう言葉は…その。誤解を招くので慎むように」
「あっ、すみません!」
彼女は慌てて謝った。
「いや、別に怒っているわけじゃないんだ。ただ他の奴らに聞かれるとまずいだろ?」
「確かにそうですね……。気をつけます」
「頼むよ」
「はい。あっ、それと、この写真、昨日落としましたよね」
彼女が差し出したのは、まぎれもなく俺の姉の写真だった。
全身の血が泡立つような気持ちになり、思わずそれを奪い取る。
「どなたなんですか?私にとても似ていますね」
「・・・姉だよ」
「えっ!?」
「俺には3つ上の姉がいたんだ」
「でも、部長は一人っ子だって……」
「姉は…殺されたんだ」
「そうだったんですか……」
「あぁ。それで、これがその姉の遺影なんだ。俺は犯人を捕まえるために刑事になった・・・・」
「部長・・・そんな過去があったなんて・・・・」
もちろんそんな動機は捏造だが、何度も刷り込んでいるうちに架空の犯人に対する憎悪のような感情が芽生えるようになった。
俺は、俺ではない「存在しない真犯人」を探すために生きている。
そうでもしないと、自分自身が壊れてしまいそうなのだ。
それからしばらくして、進藤は部長室から出ていった。一人になったおれは、大きく息をつく。
「危なかったな・・・」
部長としてではなく男としての感情が湧き上がってきた。だが、なんとか抑え込むことに成功した。
さっきの言葉は嘘ではない。本当に彼女が好きだ。しかし、それはいけないことなのだ。
なぜならおれは、部長であり姉を殺した人間でもあるからだ。
そんな人間が彼女を愛するなんて許されるはずがない。
でも、それでも、俺は彼女のことを愛さずにはいられないのだ。
「ごめんな、進藤」
おれは姉の写真を見ながら静かに呟いた。
+++
私は、この日が来るのを恐れていた。
今日こそ部長に本当の気持ちを伝えようと思っていたのに、その前に事件が起きてしまった。
しかも、よりによって部長と私が囮捜査をする時にだ。
私は、この日のことを忘れないだろう。
部長が撃たれた時、目の前が真っ暗になって何も考えられなくなった。自分が何をしているのかも分からなくなって、気が付いた時にはもう遅かった。
血を流して倒れている部長を見て我に返った。
「部ちょ……う……?」
頭が混乱して、うまく言葉を発せなかった。すると、部長が目を覚ましてこちらを見た。
「あぁ……良かった……。無事だったんだな……」
弱々しい声で言う部長の姿に涙が溢れてきた。
「部長!!しっかりしてください!!」
必死に声をかけるが、返事はない。
「なんで、こんなことに……」
その時、背後から足音が聞こえた。振り返るとそこには銃を持った犯人がいた。
「動くな!動けば撃つぞ」
「くっ……」
どうすれば良いんだろう。このままだと部長が死んでしまう。
私は震える手で部長の手を握りしめながら思った。どうしよう、怖い……。
死にたくない。助けて……誰か……! ふと、頭に思い浮かぶ人物があった。
そうだ、あの人ならきっと来てくれるはずだ。だって彼は私のヒーローなんだから。
「部長…………お願いします……」
「ん?何か言ったか?」
犯人が不思議そうな顔で尋ねてくる。
「部長……私を……守ってください……」
そう言うと、部長はゆっくりと目を開いた。そして微笑んでくれた。
「ああ、任せろ……」
部長の手には拳銃が握られていた。
「なっ!?」
犯人は驚いていたが、すぐに発砲してきた。しかし、弾丸は彼の頬を掠めただけだった。
「残念だったな……」
部長はそう言って、引き金を引いた。
+++
進藤の願いを聞き入れた俺は、迷わずに引き金をひいた。
銃弾は見事に命中し、犯人はその場に倒れた。
「部長……!」
進藤は泣き笑いのような表情で俺を呼んだ。
「大丈夫か?」
「はい……。あの、ありがとうございます。私なんかのために…」
「良いんだ。それより、二人きりの時は、俺の事を名前で呼んでくれないか?薫と」
「えっと、じゃあ……薫さんって呼びますね」
「ああ、それでいい」
これで少しだけ距離が縮まった気がする。
俺は進藤を抱きしめながら言った。
「これからは一人で行動しないようにしてくれ。心配だから」
「分かりました。約束します。その代わり、私のことも名前で呼んでください」
「もちろんだ…真琴」
俺たちは笑い合い、互いの温もりを感じていた。
+++
進藤真琴は、先日見た写真について考えていた。
(私にそっくりだった)
合成でも、私本人でもないとしたら。
部長が姉と呼ぶその女性はーーもしかしたら私の母かもしれない。
(部長は、もしかして母の死の真相を知っているかも…)
そうと決まれば話は簡単だ。
私には、復讐以外に生きる意味はない。
母を殺し、私を海に投げ捨てた真犯人をかならず捕まえる。
それが私のーー進藤真琴の生きる理由なのだ。
+++
今日の囮捜査は、新宿にあるバーに来ていた。
この店は表向きでは普通のバーだが、裏の顔はドラッグ売買が行われている場所だった。そこで取引が行われるという情報を掴んだのだ。
私は、いつものように変装をしてカウンター席に座り、動向を伺うという作戦だ。
着替え終わると、改めて鏡に映る自分を見る。
毎度のことながら、露出の多い衣装である…。
だが、目立たなければ囮にならないので、仕方ない。
それに…。
「う、うむ。似合っているな」
目を泳がせた部長が褒める。
(部長の好感度を上げるのにも使えるみたいだし…ね)
富田部長は、堅物だけど、時々少年みたいな行動をする。
本人は気付いていないようだが…そのギャップが女性職員に猛烈に人気なのだった。
(けど、部長の「お姉さん」の情報を得るために…利用させていただきますよ、その純情を)私は心の中でほくそ笑み、店内を見渡した。
時刻は夜9時。まだ客は少なく、ターゲットはまだ現れていないようだった。
「それにしても、よくそんな格好できるな……」
部長が感嘆の声をあげる。
「慣れですよ、慣れ」
「そうなのか……。いや、しかし……すごいな」
何がすごいのか分からないが、誉め言葉として受け取っておくことにした。
「さて、どうしたものかな……」
部長は腕を組んで考え始めた。
「どうしました?」
「いや、今回の事件だが……。やはり麻薬取締課の課長が怪しいと思うんだ」
部長が言うにはこうだ。
まず、犯人の動機については、麻薬取締官が薬を取り締まることで、自分の取り分が減ってしまうからではないかと言うことだった。
「確かに、あり得なくはないですね……」
「だろう?そして、あの人は薬物中毒者だ」
部長の言葉を聞いて、私はあることを思い出していた。
それは以前、部長が教えてくれたことだ。
『麻薬は、脳の一部を破壊して、幻覚作用を引き起こすんだ』
つまり、麻薬によって理性を失った人間なら、平然と人を殺すことができる。
「そうか……」
「どうした?」
「いえ、なんでもありません。それより、犯人を捕まえるためにも、もう少し情報が欲しいところですよね」
「そうだな……」
「部長は、犯人について何か知っていることはありますか?」
「ああ、実は……」
部長は、犯人の写真を見せてきた。
その顔を見て、私は驚きを隠せなかった。
「こ、これは!?」
「知ってるのか?」
「えっと……はい。一応は……」
「本当か!どんな奴なんだ!」
「名前は、佐久間清司です。年齢は35歳です」
私は写真を見ながら答える。
「やっぱりか……」
「やっぱりってどういうことですか?まさか知り合いとかじゃないでしょうね?」
「違うが、俺の姉が殺されたとき、こいつは容疑者の一人だったんだよ」
部長の話によると、姉が殺されてから3年後くらいに、突然容疑者から外れたらしい。
その理由は、証拠不十分で逮捕できなかったということだ。
「そういえば、そんなこともありましたね」
私は母の事件ファイルの記憶を引っ張り出して答えた。
「ああ、だから俺はこの事件を追っているんだ」
「そうなんですか……。でも、どうして急に容疑が晴れたんでしょうか?」
「それは、俺の母による証言だ。姉は、佐久間以外の男とも付き合っていたらしい。その男が誰かは分からん。だが、姉はある日を境に連絡が取れなくなった。不審に思った両親が警察に捜索願を出したが、見つからなかった。恐らく、姉の身に何かあったんじゃないかと、警察は判断したようだ」
「なるほど、そういうことでしたか……」
私は納得して相槌を打った。
「それで、お前のほうは何か分かったか?」
「あ、はい。ちょっと待ってください。今メモしますので……」
私が手帳を取り出そうとすると、後ろから声をかけられた。
「あれ、真琴ちゃんじゃないか」
振り返ると、そこには見知った人物がいた。
「……佐藤さん。こんばんは」
私はぎこちない笑顔を返した。彼は刑事で、私と母の関係を知る数少ない一人だ。
「今日も捜査かい?」
「まぁ、そんなところです」
「そっか……。頑張ってるんだな」
「ありがとうございます」
「でも、あまり無理しないでくれよ」
「はい、分かっています」
私の返事を聞くと、満足げに去っていった。
その後ろ姿を見送りながら思う。
(あの人のこと苦手だわ……)
私は心の中で呟いた。
「誰だったんだ?今の男は?」
部長が聞いてきた。
「えっと、前に話したことがあると思いますけど、例の事件でお世話になった刑事さんです」
「そうだったな……」
部長の顔色が曇る。
「どうしました?」
「いや、あいつは……信用できない」
「え?」
意外な言葉だった。
「あいつは、自分の妻を殺した犯人を憎んでいるはずだ」
「確かにそうかもしれませんが……。でも、もう捕まっているんですよね?」
「ああ。犯人は逮捕されて、今は刑務所にいる」
(じゃあ、なんで……)
「だが、あいつは今でも犯人のことを探しているんだ」
部長は真剣な表情をしていた。
その様子に、ただならぬものを感じる。
「それって、どういう意味ですか?」
私は恐る恐る尋ねた。
「そのままの意味だ……。あの事件の犯人はまだ見つかっていない。いや、見つかってはいけないと思っているんだろう」
部長の言葉を聞いて、背筋が凍るような感覚に襲われた。
部長は続ける。
「あの事件は、まだ終わっていないんだ……」
麻薬取締官の進藤が姉に似ている。
課長は進藤の母に似た女を抱く。
そして、部長の姉は何者かに殺された。
佐久間清司は麻薬中毒者。
佐久間の母を殺した犯人は未だ見つからない。
これは偶然なのか? だとしたら、なぜこんなにも共通点があるのか?
「分からない……」
私は頭を抱えた。
そのとき、部長の携帯が鳴った。
「もしもし……。ああ、俺だ。どうした?」
部長が電話に出る。
「なに!?」
部長が大声で叫んだ。
私は驚いて振り向く。
「部長……?」
部長が焦っている。こんな姿は初めて見た。
「すぐに行く!ああ、分かった」
通話が終わると、急いで駆け出した。
「部長!どこに行くんですか!?」
私は慌てて呼び止める。
「病院だ!」
部長は走りながら答えた。
私たちは車で病院へ向かった。
「何があったんですか?」
「神田が襲われた…。」
「えっ……」
課長のことが心配になる。
部長が運転しながら答える。
「意識不明らしい」
「大丈夫ですか?」
「命に別状はないらしいが、出血量が多いらしくてな……。正直、厳しい状況らしい」
「そうですか……」
私は黙り込んだ。しばらく沈黙が続いた後、部長が口を開いた。
「真琴……。この事件が終わったら、俺と一緒に来ないか?」
「え?」
「俺の姉は、あの事件で亡くなったんだ……。俺はずっと後悔している。どうして、もっと早くに真実を明らかにしなかったんだって……。」
部長はまっすぐ前を見つめていた。その瞳には強い意志が宿っていた。
「だから、今度は絶対に間違わない。そう決めたんだ」
「……」
私は答えられなかった。
部長は、私の方を向いて話を続ける。
「姉は、結婚して幸せな生活を送っていたはずだった。それが、ある日突然消えた。残されたのは姉の遺書だけだった。だが、その内容はあまりにも衝撃的過ぎた。俺にとって、それはあまりに残酷だった……」
部長の目から涙がこぼれ落ちる。
「姉さんが残した遺書には、こう書かれていたんだ。『私が殺した』と……。犯人の名前は書かれていなかった。もちろん、犯人は今も捕まっていない。でも、俺はもう疑っていなかった。姉さんは誰かに脅されていたんだって……。そう信じたかった」
部長は悔しそうな顔をしていた。
「だが、真琴のおかげで目が覚めたよ……。このままじゃダメだって……」
私は部長にかける言葉が見つからなかった。
「だから俺も覚悟を決めたよ。この事件を解決するって」
部長は決意を固めたようだった。
病院に着くと、すでに大勢の人たちが集まっていた。
私たちは急いで病室へ向かう。
部屋の前には、二人の刑事がいた。
「課長は無事なんですか!?」
私は思わず尋ねる。
「ああ、なんとかな……」
刑事は渋い顔で答えた。
中に入ると、そこには頭に包帯を巻いてベッドの上に横になっている課長の姿があった。
「課長……!!」
私は駆け寄った。「おう……。お前も来たのか……」
課長は弱々しい笑顔を見せた。
課長の顔色は青ざめていて、今にも消えてしまいそうだった。
「傷は深いが、幸いなことに命に関わるような怪我じゃないそうだ」
「そうですか……。よかった……」
私は大きく息を吐いた。
「ただ、出血量が多すぎてな……。いつ意識が戻るか分からない状態だ」
刑事が暗い表情で話す。
「そんな……」
私は不安になった。
そのとき、背後から声が聞こえた。
「やあ、みんな来てたんだね」
佐藤清司が立っていた。
「佐藤警部……」
部長が驚いて言う。
「君たち、大丈夫かい?疲れているだろう。今日はゆっくり休んでくれ」
「ありがとうございます」
私たちはお礼を言う。
「それじゃ、また明日来るよ」
佐藤は去っていった。
私たちは無言のまま立ち尽くした。
課長が目を閉じたまま動かない。
「課長……」
私は泣きそうになった。
「真琴……!」
そのとき、部長が呼びかけてきた。
「なんです、部長?」
「頼みがある……」部長は真剣な眼差しをしていた。
「実はな……。この事件が解決したら、お前を連れていきたい場所があるんだ……」
「どこですか?」
「秘密だ……」
部長は悪戯っぽく笑った。
その笑顔に不覚にもドギマギしてしまう。
「分かりました……」
私は平静を保ったふりをして答えた。
部長は嬉しそうに微笑む。
「ああ、約束だからな」
「はい……」
私は大きくうなずいた。
「それと……、一度だけで良いから、君のことを姉さんと呼ばせてくれないか?」
「えっ!?」
[newpage]
「君のことを姉さんと呼ばせてくれないか?」
「えっ!?」
部長の突然の申し出に、私は戸惑ってしまう。
「やっぱり嫌か?」
部長が寂しげに言った。
「いえ、そういうわけでは……。」
私は困ってしまった。
「姉さん」
部長が切なげにつぶやく。
「はい・・・」
私にはこれが精一杯だった。すると、なぜか涙が出てきた。
部長が私の肩に手を置く。
「大丈夫だ……。真琴、お前はよく頑張ったよ……」
私は部長の胸の中で泣いた。私はようやく本当の居場所を見つけた気がした。
「…なあ。それはいつまで続くんだ?」
慌てて振り向くと神田課長が、あきれた様子で私たちを見つめていた。
「課長!!気がついたんですね!?」
私は課長の方に歩み寄る。
「まったく……。こんな状況でよくイチャつけるもんだよな……」
課長が呆れながらため息をつく。
「い、いいじゃないですか!それより、具合はどうなんですか?」
「まあ、とりあえずは大丈夫だ。心配かけて悪かったな」
「それはよかったです……」
私はホッとした。
「さて……。そろそろ本題に入ろう」
課長が話し始める。
「今回の事件の犯人だが、俺は奴がやったと思っている」
「えっ!?どうしてですか?」
私は驚く。
「進藤の身体に残された傷跡には見覚えがあったんだ。これは昔、俺の部下が受けたものと同じだった……」
「そんな……」
「それにな……。この前、病院で進藤が野原に銃を突きつけたとき、俺は思わず身構えてしまった。だが、あのときのあいつの目を見たら、不思議と恐怖心がなくなったんだ。むしろ守ってやらないとっていう気持ちになった。だから分かったよ。アイツは犯人なんかじゃないって……」
「そうですか……」私は安心して、その場に座り込んだ。
「あと、もう一つ。犯人が残したと思われるメッセージも解読できたぞ」
「何だったんですか?」
「『真実を暴け』だそうだ……」
「そうですか……」
私が考え込んでいると、部長が口を開いた。「でも、俺たちがこうして生きているということは……。犯人の目的は果たされなかったんだな……」
「そうですね……」
私は少し複雑な気分だった。
「だが、これからどうする?この事件、迷宮入りになるかもしれないぜ」
「そうなったとしても、私は真相を突き止めたいと思います。部長だって、そのつもりなんですよね?」
「ああ、もちろんだ」
部長が力強く答える。
「じゃあ、私も一緒に行きます!」
「ありがとう……」
部長がうれしそうに微笑んだ。
「それで、佐藤警部とは何を話していたんですか?」
「秘密だよ……」部長は悪戯っぽく笑った。
「分かりましたよ」
私は苦笑いをする。
そのとき、部長のスマートフォンから着信音が鳴った。
「はい、もしもし……。佐藤か。えっ!?……分かった。すぐに向かう」
部長が深刻な表情を見せる。
「どうしたんですか?」
「事件が解決したらしい……」
部長の顔色が変わる。
私たちは急いで、麻薬取締捜査課に向かった。
麻薬取締捜査課に着くと、佐藤の姿はなかった。
「みんな……。来てたのね……」
私は力なく笑う。部長は疲れ切った様子だ。
「大丈夫ですか?」
私は部長に寄り添う。
「ああ、問題ない……」
部長は平静を装っているが、その顔色は悪く、汗ばんでいた。
「一体、どういうことなんだ!?」
「教えてください!」
他のメンバーたちも騒ぎ始める。
「まずは、これを見て……」
私はパソコンの画面の前に座る。
「これが、さっきまで解析していたデータよ」
私はファイルを開く。
そこには、文字化けした暗号文が表示されていた。
「これは!?」
私は目を疑う。その文章は私たちが先ほど発見したものとまったく同じものだったからだ。
「つまり、さっきまでは暗号が解けていなかったということか?」
「そういうことになるわね……」
私は答えた。そして、部長の方を見る。
「それなら、誰がこれを解いたんだ?」
「それが……」
私は言葉を詰まらせる。
「まさか……」
部長の顔が青ざめる。
「そうよ……。その通り。今回の事件は……」
私は言葉を続ける。
「全部、アナタがやったのよ……部長」
「えっ!?」
「嘘だろ!?」
「なんで、そんなことを!?」
全員が驚きの声を上げる。
「ちょっと待ってくれ……。話が見えないんだが……」
富田部長が戸惑う。
「実は……」
私は部長に説明を始めた。
「初めに気付くべきでした・・・。私のことを姉に似ていると言いながら、性的関係を迫る男なんておかしいですもんね……。部長が佐久間さんを刺したとき、なぜあのタイミングだったのか……。私は考えました。おそらく、あのときが薬を使うチャンスだったんでしょう。しかし、犯人であるあなたは私という邪魔者が現れたため、計画を変更する必要がありました。そこで、考えたのが『メッセージ』だったのです。メッセージを残せば、誰かが解読してくれるはず……。きっと、そうなれば、犯人が特定され、自分の身が危険にさらされるでしょう。でも、そんなことはどうでもいい……。私に復讐さえできれば……。それで、部長はこんなリスクのある方法を選んだんです。おそらく、佐久間さんにだけ聞こえるように、囁き続けたんじゃないでしょうか?『お前は何もしていない。俺が全てやったんだ。悪いのは、俺だ。だから、警察に話すな。俺に罪をかぶせてくれ……。そうすれば、彼女は助かるんだ……。だから、頼むよ……。警察には言わないでくれ』って……」
私は話していて呆然とする。部長が殺人を犯していたなんて……。しかも、私の身を守るために……。
私は涙をこらえて、話を続けた。
「それから、犯人は『メッセージ』を残すために、さらに何かをしたはずです。その証拠として、『真実を暴け』という言葉を残したんだと思います……。部長は自分の罪を認めたうえで、自分が犯人ではないということを証明しようとしたんです……。その方法は二つあります。一つは、佐久間さんのスマートフォンに残されていた、部長とのやり取りを公開することです。おそらく、あのときの犯人は焦っていたんでしょう。そのためか、犯人はメッセージではなく、佐久間さんの電話を使ったんです。犯人は『真実を暴け』というメッセージが残されることを恐れたのかもしれません。それに、部長がスマホのパスワードを解くことができることも知っていたんだと思います。だから、部長の指紋が付いているスマートフォンでメールや通話をしていたんだと……。部長が犯人だと思われる可能性は高いと思いますが、犯人を絞り込む決め手にはなりません。部長がやったと確定させるには、もう一つあるんです。それは……」
私は涙声で続ける。
「もう一つの方法は……。部長が犯したと思われる、もう一人の犯人の名前を口にすること……」
「もういい!やめてくれ!」
部長が叫ぶ。その顔からは血の気が引いていた。
「部長の本当の名前は、佐久間清司さんですね?」
私は涙を流しながら言う。
「そうだ……」部長が苦しそうに答える。
「どういうことだ!?」
「分からないの!?」
メンバーたちが騒ぎ出す。
「いいから、静かにして!」
私は必死になって止める。
「どうして分かったんだ?」
部長が尋ねる。
「この前、部長の家に行ったとき、アルバムを見たんです。そこに写っている写真はみんな若いころのものばかりでした。でも、その中に、一枚だけ中学生くらいの男の子の写真があったんです。それが、佐久間さんでした。部長は、いつもと違う服を着ていました。普段、休日でもいつもスーツを着ている部長があんなラフな格好をしていることに違和感を覚えたんです。それから、思い出しました。私の家のリビングにあった写真を……。そこには、若い女性と佐久間さんが写っていました。その女性と私はそっくりだったんです」
「そこまで、見抜かれていたのか……」部長は苦笑いをする。
「私はそのときに気付きました。あの女性が私の母親だということに……。その瞬間、私は思いました。お母さんが浮気相手を連れてきたんじゃないかと……。そして、その相手が部長だということを知った私は、ショックを受けました。まさか、部長がお母さんの恋人だとは思わなかったんです。しかし、すぐに気づきました。それなら、すべて納得がいくと……。そして、部長は私に対して、好意を持っているような態度を取っていたことを思い出しました。私が部長のことを意識し始めたのは、そのころからです。部長はずっと、自分の正体を隠しながら、私に近づいていたんですよね……。だから、私が家にいるときにしか、部長の家に行かなかったし、私の前では絶対にスマホを見せなかった。だから、私が見た部長の顔はすべて偽物だったというわけです」
私は泣き崩れる。
「それで、お前はこれからどうするつもりなんだ?」
部長が尋ねた。
「分かりません……」
私は答えた。
「だったら、一緒に来るか?俺と一緒に……」
「えっ!?」
私は驚いて顔を上げる。
「そんなに驚くなよ……。俺は最初から、そのつもりだったんだ。お前さえ良ければの話だがな……。正直、お前は邪魔だったんだ。富田が死んでくれたおかげで、俺は自由に行動できる。お前さえ、来なければ、警察にも捕まらないだろう。つまり、お前は邪魔者ってわけだ。でも、お前が望むなら、お前だけは助けてやる。ただし、条件付きだけどな……。それでも、お前はついてくるのか?どうするんだ?はっきりしろ!」
部長は私を睨みつける。
「行きます……。私も連れていってください!」
私は即答した。部長が何を考えているのかは分からないけど、今はそれに賭けたいと思った。
「分かった……。じゃあ、早速、行くぞ……」部長はそう言って、車に乗る。
私たちは走り出した。
私は後部座席に座っている。
私は部長の隣で泣いていた。
「お前が泣くなよ……。運転しにくいだろ……」
部長は困ったように言う。
「だって……、仕方ないじゃないですか……。部長が死んだって聞いたときは、目の前が真っ暗になりましたよ……」
私は涙を拭いながら言う。
「まぁ、確かにそうだな……。俺が死ぬことは、誰も予想していなかったはずだ……。俺にはもう時間が残されていない……。だから、話しておくことがあるんだ……」
「何ですか?」
「犯人の居場所だよ……。俺には、心当たりがあるんだ……。あいつの居場所を知っているのは、おそらく俺だけだ……。いや、俺だけだったと言うべきか……。進藤、あの事件を覚えているか?お前が俺に『お前は何もしていない。悪いのは、犯人だ』と言ったときのことを……」
「覚えています……」
「俺はそのとき、あいつの名前を言ったと思うが、忘れてしまったかもしれないから、もう一度言おう……。犯人の名前は、神崎和美……」
「神崎さん……」
「彼女は、この辺の生まれで、子供の頃から、ここに住んでいたらしい。もちろん、俺たちと同級生だ。彼女の家はここから近い。それに、犯人は一人だった。だから、犯人を特定することができた。当時、彼女には恋人がいた。その男とは、今でも付き合っているみたいだが、昔の恋には勝てなかったようだ。その男は彼女が浮気していることを知らない。もし、知っていたら、別れただろうな。その男の名字は確か、佐藤とかいったかな……。その男が住んでいるアパートの場所までは知らないが、住所なら知っている。調べれば分かるはずだ」
「どうして、部長はその人を疑わなかったんですか?」
私は疑問に思ったことを尋ねる。「それは、あの事件の被害者に共通点があったからだ。あの事件には、二つのパターンが考えられる。一つは、無差別に狙ったもの。もう一つは、特定の人物を狙ったもの。前者の場合、犯行現場の近くで不審者を見たという話があれば、捜査線上に浮かんできたはずだ。しかし、そのような情報はなかった。だから、あの事件は、無差別に誰かを襲ったという可能性が高い……。それなのに、なぜ、その可能性を無視してまで、彼女だけを狙い続けたのか?その理由を考えたとき、俺には彼女しかいないと確信したんだ」
「部長は何を根拠に彼女を疑っていたんですか?」
「俺は一度、彼女と会ったことがあったんだよ……。その時、俺は彼女の顔を見て、すぐに分かった。あのときの女だと……。そのときに、気づいたんだ。あの女は狂っていると……。そして、次に狙われるのは、間違いなく自分だという予感がした。それで、俺は対策を練ることにしたんだ。まず、自分の身を守るために、彼女の情報を徹底的に集めた。そして、次に、富田を殺した。富田は、神崎と繋がっている可能性があったからな……。でも、それが間違いだったことに気付いたときには、すでに手遅れだった。次のターゲットは、きっと俺になる。そこで、考えた。どうやって、殺される前に逃げるかを……。その結果、思いついたのは、自殺するという方法だった。幸いなことに、警察は殺人と自殺の違いが分からなかったらしく、自殺ということで処理してくれた。つまり、俺は今こうして生きているわけだ」
「それじゃあ、部長は全部分かっていて……」
「ああ、そうだよ……。お前が家に来たときに、気付いた。だから、お前に薬を渡したんだ。もし、自分が死んでも、警察には通報するなよと言ってな……。まぁ、お前が家に来る前から、殺すつもりではあったんだけどな……。だから、お前には感謝しているよ……。お前のおかげで、俺は無事に生き残ることができたんだ……。さすがに、姉をもう一度殺せと言われても困るけど……」
部長は苦笑いを浮かべる。
「そうだったんですね……」
「でも、お前に見つかってしまった……。俺はお前を殺すしかなかった……」
「それで……、私の命を奪おうとしたわけですね……」
「そういうことだ……」
「でも、私は死にませんでした……」
「そうだったな……。まさか、あの毒キノコを食べて生きていたなんて思いもしなかった。あれは、偶然だった。だから、驚いたよ……。お前に近づいたのも、本当に偶然だった。俺はお前が生きていることを知っている唯一の人間だ。お前が生きていることがバレたら、俺は確実に殺されてしまう。だから、お前を守ることにした。でも、それも長くは続かなかった。お前は予想以上に成長していたからな……。俺ではお前を守り切れなくなった……」
「だから、私を試すような真似をしたんですか?」
「そうだ……。まぁ、結果的に失敗してしまったけど……」
「どうして、そんなことを……」
「俺には時間がないんだ……。いつ死ぬかも分からない状況で、ずっと怯えながら暮らすのは嫌なんだ……。お前なら、俺が死ねば、必ず復讐しようとするだろう?俺の頼みを聞いてくれると信じて……。だから、試したんだ……。俺の期待通り、お前は俺、佐久間を殺しに来てくれた……。そして、失敗した……。残念だよ……。お前に俺のことを理解して欲しかった……」
「ごめんなさい……」
私は泣き出す。
「もういい……。それより、お前は神崎の居場所を調べてくれ……。あいつだけは許せない……。あいつのせいで、俺の人生は大きく変わってしまった……」
「分かりました……」
「あいつを捕まえることができたら、俺の墓の前で報告してくれ……。そのときは、花を持ってきて欲しい……。そうだな……。白い百合の花がいいかな……。それがあれば、きっと天国から見守っているから……。それじゃあ、後は頼んだぞ……。もし、犯人を見つけられなかったら、警察に連絡しろ……。そして、犯人の名前を教えてやれ……。それが、俺の最後の願いだ……」
部長は私の首を掴み、さらに強く締め付ける。
苦しい……。
息ができない……。
私は必死に抵抗する。
部長の手を振り払いたいが、力が強く振り払うことができない。
「部長!しっかりしてください!」
声をかけてみるが反応はない。
ダメだ……。
このままだと死んでしまう……。早く助けないと……。
「うっ……」
私は血を吐く。
どうすればいいんだろう……。
私は必死に考える。
何かないか……。
私が持っているもの……。
そうだ……。
私はポケットに手を入れる。
これしかない……。
私は部長の顔の前に、あのナイフを突きつける。
「さぁ、殺しますよ……。今すぐ殺しますよ……。さぁ、殺しますよ……」
「うぅ……」
部長は顔を歪める。
私は何度も、部長の耳元で叫ぶ。
「部長……。これで終わりです……。これが、部長の望んだ結末なんでしょう?さぁ、さっさと死んでください……」
部長の目から涙が流れる。
そして、私の首を絞めていた手が緩む。
その瞬間を狙って、私は手から逃げ出す。
そして、部長に馬乗りになり、部長の喉仏にナイフを当てる。
「さぁ、部長……。死んでください……」
「うぐぅ……」
部長は苦しそうな表情を浮かべる。
私はそのまま、ナイフを下に下げる。
すると、大量の血液が噴き出し、床に血溜まりができる。そして、目の前には、頭から大量に出血した部長の姿があった。
頭が真っ白になる。
いったい何が起きたのだろうか……。
分からない……。
ただ一つ分かることは、私の手で部長を殺したということだけだった。私はしばらく呆然とする。
ふと我に返り、急いでスマホを取り出し、救急車を呼ぶ。
部長は助かるのだろうか……。
きっと、助からないだろう……。
私は部長の頭をそっと撫でる。
「今までありがとうございました……」
私は泣きながらお礼を言う。
そして、部長の遺体を倉庫の奥へと運ぶ。その後、服を脱ぎ、裸のままロッカーの中に入る。誰かが倉庫に来るかもしれないからだ。もし、部長の遺体が発見されれば、すぐに事件として取り扱われることになるだろう。そうなった場合、誰が部長を刺したのか調べられる可能性がある。だから、遺体の発見を遅らせる必要があった。そのために、ロッカーに隠れることにしたのだ。
私はロッカーの中で震えていた。これからどうなるんだろうという不安な気持ちに押しつぶされそうになっていた。それに、部室には部長の死体がある。それも何とかしなければならない。
いつまで隠れていればいいんだ……。
早く、誰か来て……
ロッカーの外からは、何も聞こえない。人の気配すら感じられない。もしかしたら、もう誰もいないのではないだろうか……。そんな気がしてきた。でも、まだ安心はできない。私は、いつでも逃げ出せるように準備をしておかなければならない。いつの間にか、眠っていたようだ。
「痛い……」
身体中が悲鳴を上げている。筋肉痛なのだろう。全身が痛くてたまらない。だが、今はそんなことを気にしている余裕はない。早くここから出なければ……。私は重い体を起こし、立ち上がる。
ロッカーの外は暗かった。おそらく夜なのだろう。月明かりを頼りに、私は部長の待つ部室に向かう。
扉を開けると、そこには変わり果てた姿の部長がいた。
「あぁ……」
私はその場に座り込む。間に合わなかった……。もう手遅れだった……。
私は声を上げて泣く。
「部長!ごめんなさい……。本当にごめんなさい……」
私の涙が止まることはない。
部長は目を閉じている。
顔色が悪いように見えるが、生きているのか死んでいるのか分からない。私は恐る恐る近づき確認してみる。息はしていない。心臓の音を聞いてみる。鼓動もない。
「どうしてこんなことに……」
私はその場で泣き崩れる。
私はどうすればいいの……。
助けて……。誰か助けてよ……。
「お願いします……。助けてください……」
私は必死に祈る。
「うぅ……」
部長は少しだけ動いたような気がした。
「生きて……」
私は部長の手を握る。
「部長……。私が部長の代わりに犯人を捕まえます……。だから、どうか安らかに……」
そのとき、私の手に温かい感触があった。どうやら息を吹き返したようだ。良かった……。
部長が目を開く。
「お前は誰だ……」
「えっ?」
「お前は誰なんだ……」
「私は進藤です……」
「違う……。本当の名前を教えてくれ……」
「美久里です……」
「みくり……。お前が俺を……」
「違います!部長は何も悪くありません!」
「いや、俺が油断していたせいだ……。まさか、お前が裏切るなんて……」
「裏切りません!私は部長の味方です!」「嘘をつくな……。俺は見たぞ……。ナイフを持って立っているところを……」
「あれは演技です……。私がナイフを持っているように見えただけです……。実際に持っていたわけではありません……」
「そんなはずはない……。現に、そのナイフで刺されたはずだ……」
「刺されていません……。気のせいです……。そもそも、ナイフを持っていれば、なぜ血が出ていなかったんですか?血が流れていないのはおかしいと思いませんでしたか?私が血を流していたのなら、ナイフから血が滴り落ちていたと思いますよ?血の付いたハンカチだってあるじゃないですか……」
「確かに……。じゃあ、あの時の出来事は夢だったということなのか……」
「はい……。部長は悪夢を見ていたんですよ……」
「そうか……。夢だったのか……」
「もう大丈夫ですよ……」
部長が私を押し倒す。
「ん?なんで押し倒されているんだ……」
「これはただの夢なので……」
「そういえば、なんで裸になっているんだ……」
「それはですね……これも全部、部長が見ている悪い夢の続きですから……」
「そういうことか……」
部長は納得すると、私を引き寄せて激しくキスをする。
まるで愛し合っている恋人同士のように……。
唾液は粘度を増し、ロッカールームにはちゅばちゅばといやらしい音が響き渡る。
彼の手が私の胸に触れる。
「あっ♡」
「可愛い声出すじゃないか……」
部長はニヤリと笑う。
「もっと聞かせろ……」
部長はさらに激しく私を求める。
「あん♡だめぇ……」
「ダメって言う割に、ここは正直みたいだけどな……」
部長の指が私の秘所を弄る。
「そこはぁ……」
「ほぉー。ここが弱いのか……」
「ちがいますぅ……」
「素直になれ……。気持ちいいだろう?」
「きもちよくなんかないもん……」
私は強がるが、部長は容赦なく責め立てる。
中指でクリトリスを擦られながら、親指で陰核を潰される。
「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
私は絶頂を迎える。
ビクビクッとした痙攣の後、身体中の力が抜ける。
部長は満足そうな顔をしている。
「次はこっちの番だ……」
部長はズボンを脱ぎ捨て、大きくなったモノを見せつけてくる。
「さっきは随分とお楽しみのようだったが、今度は俺の相手をしてもらうぜ……」
部長のアレが私の中に入る。
「ああ……すごいぃ……」奥まで届いたところで、ピストン運動が始まる。
パン!パァン! 肌同士がぶつかり合う音が鳴る。
「はげしいよぉ……」
「まだまだこれからだ……!」
さらに激しさを増す。
前後運動のたびに、私の中がかき混ぜられる。
グチュ!ヌチャ!! 卑猥な水音を響かせ、何度も出し入れを繰り返す。
そして、ついにその時が訪れる。
「んぁ……。中に出してもいいの……?」
「はい……。部長は気にしないでください……。全て、夢ですから……」
「そうだな……。今は全て忘れよう……」
ドピュルルルー!!! 熱い液体が大量に注がれていく。
「はぁ…はぁ…。これで終わりだ……」
部長は疲れた様子を見せる。
私は部長に抱きつく。
「部長……。大好き……」
「俺もだ……。お前のことが好きだったんだよ……」
私たちはお互いを抱きしめ合い、再び唇を重ねる。
「んっ……」
「はむっ……」
それと同時に、私は意識を失った。
[newpage]
「んっ……。あれ?」
私は目を覚ます。どうやら、私はベッドの上にいるようだ。
「今の………夢………?」
隣を見ると、部長の姿があった。しかし、その顔は真っ青だった。
「部長!?」
私は慌てて部長の体を起こす。
「うわぁ!」
部長は驚いて飛び起きる。
「な、なんだ……。美久里か……。脅かすな……」
部長は安堵のため息をつく。
「良かったです……。急に倒れられたので、心配しました……」
私はホッとして胸を撫で下ろす。
「俺は大丈夫だ……。それより、お前こそ体は平気なのか?あんなことがあったんだぞ……。どこか痛くないか?」
部長は不安そうに尋ねる。
「はい……。特に異常はありません……」
「それなら良いんだけど……。本当にすまなかった……」
部長は頭を下げる。
「いえ……。私が悪いんです……。部長の忠告を無視してしまったので……」
「いや、あれは仕方のないことだ……。それに、あの時、ナイフを持っていたのは事実だからな……。でも、まさか刺されたフリをしていたなんて……」
「私の演技力を見抜けないとは……。部長もまだまだですね……」
「いや、普通見破れないから……」
部長がツッコミを入れる。いつもの調子に戻ったようで安心した。
「そういえば、どうして部長はここに?確か、麻薬取締課の捜査で忙しかったはずでは……」
「あぁ……。それはもう終わったよ……。今頃向こうでは、俺とお前が心中したように見えているはずだ。ま、実際は未遂で終わったわけだが……」
「そうですか……。お疲れ様です」
「ありがとう……」
部長は照れ臭そうにしている。
「ところで、なんで倒れていたのか聞いても良いでしょうか……」
「えっと、それは……」
部長は言い淀んでいる。
「実は、夢を見たんだよ……」
「夢……?」
「ああ……。悪夢を見ていたんだ……」
部長の顔色がどんどん悪くなっていく。
「そっかぁ……。じゃあ、全部夢ってことだよな……」
「そうなりますね……」
部長は納得すると、私を押し倒す。
私は抵抗することもなく、受け入れてしまう。
「部長……?」
「悪い……。夢の続きをしようと思ってな……」
部長はニヤリと笑う。
「いいですよ……。部長が満足するまで……」
部長は私の服を脱がせ、下着姿にする。
「…美幸」
「清司…」
そのまま、深い深い愛に包まれ、二人は幸せに暮らしたそうです。

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