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【医師向け】PCI後の抗血小板薬の休薬についてまとめてみた 2020.9.10

このマガジンでは、循環器領域で皆さんの「こまった」の解決に役立つ(?)情報を、独断と偏見で勝手にまとめています

今回は『PCI後の抗血小板薬の休薬』についてです。

PCI(冠動脈形成術)を受けて冠動脈にステントを留置した患者さんは、基本的に抗血小板剤単剤(SAPT:Single AntiPlatelet Therapy)を一生内服し続けることになります。

しかし、PCIを受けた患者さんが後に癌を発症したり、怪我をして手術が必要になることは往々にしてあります

2020年 JCSガイドライン フォーカスアップデート版 冠動脈疾患患者における抗血栓療法」(以下、「ガイドライン2020」)には以下のように記載されています。

冠動脈ステントを留置された患者の5〜25%は,留置後5年以内に非心臓手術を受ける可能性がある

一方、「PCI後の抗血小板薬についてまとめてみた」で書きましたが、ステント留置後の患者さんが抗血小板薬を中止することは、ステント血栓症の原因になることがあります。

では、どうすれば良いのでしょうか?


ヘパリン置換は推奨されていない

残念ながら、「こうすれば心配ない」といった完璧な対策はありません

従来、抗血小板薬を中止している間だけ、半減期の短いヘパリンを投与するという方法(いわゆる「ヘパリン置換」)がよく行われていましたが、ガイドライン2020では以下のように記載しており、ヘパリン置換を推奨していません(推奨クラスⅢ:no benefit)。

ヘパリンによる抗血小板薬の代替療法は,ステント血栓症予防についての有効性は示されておらず,推奨されない


リスク・ベネフィットをもとに判断する

そして、ガイドライン2020は以下のように述べています。

本ガイドラインでは,最初に手術の出血リスクを,次いで個々の患者の周術期血栓リスクおよび出血リスクを考慮して,非心臓手術の周術期の抗血栓療法を決定することを推奨

つまり、個々の患者さんに応じて「血栓リスク」と「出血リスク」を評価し、休薬するか、継続したまま手術をするか決めるということです。

休薬するかの判断について、下図のようにまとめています(ガイドライン2020  p38, 図5)。

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まず手術の出血リスクですが、手術・処置の内容により高・中・低の3つに分類しています。どの手術が各出血リスクに含まれるかは下表を参考にします(ガイドライン2020 p37, 表26)。

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今の時代、手術や検査も多様化していますので、すごい項目の数です。暗記は不可能ですね・・・。

表の中から代表的な手技・手術を一部抜粋します。

低リスク:上部・下部内視鏡、歯科処置、白内障手術など

中リスク:ポリペクトミー、胃切除術、前立腺生検など

高リスク:脊髄手術、頭蓋内手術、肝切除術など

なお、フローチャート(図5)の注釈には「手術の出血リスクに加え、患者の出血リスクも考慮した上で判断する」と記載されていますので、出血リスクを評価するには、手技・手術の内容だけでなく患者背景も考えなければいけません。


周術期血栓リスク

続いて「周術期血栓リスク」ですが、私が読んだかぎりではガイドライン2020の第5章「2. 非心臓手術」の項には以下の記載(p36)以外に、「周術期血栓リスク」についての詳細な記載がみあたりませんでした。

周術期血栓リスクが高い場合(ACS 患者や複雑な手技の PCI が行われた患者などで DAPT継続中の場合など)

ただ、よく見てみると表25や図5の注釈にひっそりと『血栓リスクについては、第1章「リスク評価」参照』と書かれています。

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ということで第1章を見ると、p12に血栓リスクについて以下のように記載されています。

血栓リスクを評価するには,CREDO-Kyotoリスクスコア,PARISレジストリーやDAPT試験などの血栓リスク因子に加えて,ACS患者, ステント血栓症のリスクの高い患者などが,評価指標になると考えられる. 

そして、p13には上述のCREDO-Kyotoリスクスコア、血栓リスクの評価指標をあらわした図が掲載されています。

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またまた、たくさんの項目が含まれています。

ざっくりまとめてみる

ということで、抗血小板薬の休薬の可否を判断するには、出血・血栓リスクを多数の情報をもとに評価し、方針を決めなければいけません。

さすがに煩雑すぎるので、フローチャート(p38, 図5)をもとに、ざっくりまとめてみましょう。※1


・アスピリンは基本的に周術期も継続。以下の2つの場合は周術期に休薬。

①「出血高リスク」かつ「血栓リスクが低い」

②「胸部外科領域手術」かつ「血栓リスクが低い」  

・P2Y12阻害薬(クロピドグレル、プラスグレル)は基本的に休薬。以下の場合は継続。

「出血低リスク」かつ「血栓リスクが高い」かつ「手術延期が不可」


もし休薬する場合、休薬期間については図6(p39)にまとめられています。

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そして、患者さんと相談しよう

自分の中で方針が決まったら、素直に患者さんにリスク・ベネフィットを説明して、休薬について相談しましょう。ガイドライン2020にも以下のように記載されています。

術前に抗血栓薬の休薬が必要となる場合は,周術期の出血リスクと血栓リスクおよび抗血栓薬の休薬の必要性 について患者に十分な説明を行い,休薬に関する同意を得ることが望まれる

絶対的な正解がない以上、患者さんの意見を聞いて、一緒に方針を決めることが大事ですね。


以上、「PCI後の抗血小板薬の休薬についてまとめてみた」でした。

このまとめが、少しでも皆さんの日常診療のサポートになれば、嬉しいです。

今後の励みになりますので、スキ、フォロー、サポートをよろしくお願いします。


※1:あくまでざっくりとしたまとめですので、参考程度としてください。

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