無症候性一次性僧帽弁逆流症 【意見が割れた症例】

症例:40歳男性
病歴:10歳代でMRは認めないが、左室拡大Dd/Ds 66/50mmと左室拡大を認めていた。その後、20歳代でLVEFは保たれるが左室拡大Dd/Ds70/57と左室拡大を認め、billowing prolapseによるsevere MRを認めた。薬物治療としてΒ、ARNI、MRA、SGLT2を開始れたが、左室径は変わらず経過。マラソンをしても無症状なほど全くの無症状であるが、MitraClipなども視野に検討するため精査目的に入院となる。

問一 一次性MRに対する治療適応は?
問二 この症例においては、左室拡大はMRのせいと言えるか
問三 この症例において、MRは治療適応となるか

問一 一次性MRに対する治療適応は?
1次性MRは「MRによって」症状、PH、Af、左心の拡大もしくはLVEFの低下がある場合に介入適応となる。このガイドラインには明記されていないが、「MRによって」というのが曲者。ワンポイントで診察や検査をしてもその症状や左室拡大がMRによるものかどうかを判断することはできない。

また、弁置換術は機械弁だとワーファリンが必要になったり、生体弁の場合は劣化が問題となるので、形成術ができるのであれば形成術を優先する。弁置換術は手術が大成功してもその後、ワーファリンが必要になったり、再手術が必要になったりするのに対して、形成術は大成功の場合は血液さらさら薬はや再手術は不要で、一般人口と同等の予後を過ごすことができるからである。

そのため、無症状severe MRでも「耐久性がある安全性がある弁形成術」を行える場合は早期の弁形成術を行うことがClassⅡaで推奨されている。耐久性があり安全性がある弁形成術が可能とはP2プロラプスであったり、交連が無関係な単一の病変のことである場合が多いが最終的には外科医に判断してもらうことが多い。

※そのため、症状がない場合にはOMTを導入して半年程度まって心機能が改善するかどうか見る場合がある。OMTで心機能が改善する場合はもう少し手術を待つことも考える。OMTで心機能が改善しない場合はその左室拡大がMRの影響かどうかははっきりはしないが、少なくとも左MRが左心室に対して良い作用を及ぼすとは考えにくいので早期手術を行う場合が多い。

問二 この症例においては、左室拡大はMRのせいと言えるか
MRを認める前から、左室拡大を認めるのでMRのせいとは言えない。
よって、病態としてはDCMにたまたま合併したMRと考えられる。

問三 この症例において、MRは治療適応となるか
左室拡大はあるが、MRとはおそらく関係は乏しい。
かつ無症状。
無症状の場合でも「耐久性がある安全性がある弁形成術」を行えるかどうかが争点となった。
billowing prolapseのMRであり、耐久性がある治療は困難で弁形成術は困難との結論に達した。そこで、MitraClipも検討し、それはある程度成功しそうとの結論に達したが、2023年時点では根拠に乏しく、形成術が今後できなくなることより、治療介入はpendingすることとした。



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