哀れ、テントウムシダマシ:家庭菜園日記①
家庭菜園1年生、目下奮闘中の私の庭に、あるお客さんがやってきた。
その名も、「ニジュウヤホシテントウ」、またの名を「テントウムシダマシ」という―――
※この記事内に虫の画像は出てきません(というか、撮る前に……)。
テントウムシダマシって何だ?
テントウムシ、と聞いて思い浮かべるのはやっぱり、「ナナホシテントウ」で、アイコンや絵文字でも大抵これ。象徴的に扱われている。
そんなテントウムシだが、多くは肉食で、植物に付いたアブラムシなんかを食べてくれるが、植物は食べないということでお庭をやる人からは「益虫」であると認識されている。
ところが、そんな我々を騙すテントウムシがいる。
本人には騙す気はさらさらないが、我々が騙されるので、「テントウムシダマシ」と呼ばれている。
このテントウムシダマシ(ニジュウヤホシテントウ)は食性が他のテントウムシと違い草食。つまり作物を食べてしまうので「害虫」扱いされている。
テントウムシダマシの特徴としては、ツヤがなく、「ホシ」がとにかく多い。赤いボディに黒い点々が大量。気になる人は今これを読んでいる端末で新しいタブを開き、調べてみてほしい。
そんなテントウムシダマシ、なんと天敵がほとんどいないという。詳しくはここに書かないが、「ガワ」がテントウムシなだけに、なかなか狙われないというのだ。なので、見つけたら人間が始末をつけないといけないのが厄介である。
テントウムシダマシのご来訪
ある日、ナスの葉に変な食べられた跡を見つけ、「何か来た」と察した私はスマホでGoogleレンズを起動。何とも名状しがたい食べ跡だったので、こういう画像で検索できるサービスは非常に助かる。
そこでヒットしたのが「テントウムシダマシ」。前にYouTubeの某園芸超人の動画で見たやつだ!となり、ナスを細かくチェックすると……
いた!今、まさに悠々とナスの葉を食べているテントウムシダマシ。
よくもやってくれたな!
手を伸ばして掴もうとすると、コロリと転げ落ち、地面に横たわった。
テントウムシダマシの佇まい
実際にテントウムシダマシの姿を見た印象としては、なんだろう、テントウムシと違って堂々としている感じがない。葉脈を残して食べるさまといい、その佇まいといい、なんだかせせこましさを感じる。
「本物」のテントウムシはツヤっと、テリっとした背中がなんとも誇らしげだが、「ダマシ」のほうはなんというか、毛が生えているせいなのかどんより、薄暗い雰囲気を纏っていて、テントウムシ界の陰でひそひそ生きている、そんな気がする。
テントウムシの威を借りて天敵から襲われなくしているんだから、「ダマシ」もそのへん後ろめたさがあって堂々とできないのかもしれない。
そんなひそひそ暮らす「ダマシ」だが、作物に対しては容赦なく、放っておけば、気持ち悪い食べ跡を残してナス科の植物(特にジャガイモ。次にナス、トマト、ピーマン)の葉も茎も実も食べ尽くす。さらに葉の裏に黄色い卵のお土産つきである。
週末だけ畑の面倒を見れる人からすればどんなに恐ろしいことか。
そういう事情で、農家や家庭菜園の主からは、目下全国指名手配中なのである。
そんなテントウムシダマシだが、なんとも哀れな生き物だと思えてしょうがない。
哀れ、テントウムシダマシ
タラバガニはその身の美味しさから、ヤドカリの仲間でありながらも「カニ」扱いされている。
そもそも、「カニダマシ」はカニ贋物界の大家、カニカマが担っている(みんな分かって食べてるから「ダマシ」ですらないし、〈ほぼカニ〉までいけばむしろ上等な商品である)。
安価にカニのような彩りを加えられるカニカマはサラダに天津飯に……他に何かあったっけ?まぁ、引く手はある。需要がある。
ところが、テントウムシダマシはテントウムシの仲間でありながらも「ダマシ」扱いされた上に、農家や家庭菜園の主に徹底的に嫌われている。
益虫が来てくれたと思ったら害虫。
アブラムシを食べてくれると思ったら、葉っぱを食べに来ていた(しかも、その跡の気持ち悪さといったら!)。
昔の人の落胆、怒り。
彼に押された「ダマシ」の烙印から、ひしひしとそれが伝わる。
とはいっても同情無用。放っておけば菜園は食い荒らされてしまうので一切の容赦なし。
どうやら1度目の邂逅のとき、テントウムシダマシは「死んだふり」をしていたというのだ。
再びナスの葉に現れたテントウムシダマシを見つけると、指でつまみ上げる。
素手だと潔癖気味な私も、手袋をすれば忽ち無敵となる。そして……
パキッ
例え野菜であったとしても、こうして他の命を奪うことで我々の食べ物は維持される。
それが身にしみて分かる出会いだった。