深夜逃避行世界

なぜかは分からない。
けど午前零時が過ぎた瞬間、無性に走り出したくなった。

外は曇っててお世辞にも良い天気とは言えない。
明日はいつも通り朝から授業がある。

けどなぜか、この家を抜け出したくなった。

特にきっかけがあったわけじゃない。
けど人間関係や将来のこと、いろんなことから逃げ出したくなったのかもしれない。

私は着替えもしなかった。
スマホだけ持って家を飛び出した。

夏を思わせるあたたかい夜風が私を包み込む。
いつしか忘れた夜へのワクワク感が私の脳を刺激した。
誰もいない世界。
忌々しい喧騒も何もなく
ただひたすらに静寂な世界。

いつしか君と見た静謐な場所を思い出す。
山に登って二人で見たこの街の景色は
きっとあの日と変わらずにそこにあるんだろう。

そんな人生回顧を振り払うように、私は走り出した。

ちゃんと走るのなんて何ヶ月ぶりだろうか。
しかし意外にも身体は軽く、走るフォームも覚えていた。
過去にランニングしていたことを思い出す。

走り出すといろんなことが頭を巡る。
それを全部見ないふりをしてひたすらに速度を上げる。
身体が悲鳴を上げても速度を上げる。

次第に頭はクリーンとなる。
なぜだか笑いが止まらない。

頭ではamazarashiの『とどめを刺して』が流れ始めた。

全部全部くだらない。
全部消えてしまえ。
こんな世界なくなってしまえ!

私のこの行動は、まさに社会へのボイコットだった。

上手く行かない世界
理想なんて理想でしかないと知った世界
永遠なんてない世界
才能のない自分

どうしようもない虚しさが溢れ出た。
しかし同時に笑いが止まらないんだ。

取り返しのつかない人生
諦めた人生

もはや全てに意味も価値も見いだせなかった。

虚しさの果てに、どうしようもない感情を処理する方法は
もはや笑うことだけだった。

とりとめのない感情が溢れる。

夕方の校舎
誰も来ない空き教室
国語の問題集
物理セミナー
中間テストの範囲表
ピンクの水筒
ブレザーのリボン
白いマスク
笑う君

その教室こそが私の世界だった。
世界の全てだった。

笑顔も笑い声も涙袋も
ボロボロの心も自殺願望も
将来の不安も世界に対する虚無感も
両片想いの会話も2人で撮った写真も
勉強なんてそっちのけで笑い合ったあの世界が

私の全てだった。

人生を投げ売ってでも守りたかった世界が
死んでも失いたくなかったその日々が

どうして今でも私を苦しめているんだ

美しき想い出がわたしの首を絞める
お前は終わったんだと
お前はもう駄目なんだと
頭が割れるほどに叫んでるんだ

過去に成り下がった私の世界は
私の現実を侵食して
二度とは戻らない日々を取り戻さんと暴れている

取り返すなんてできないのに。

私の生きた人生が
私の過ごした日々の全てが
現在の自分を殺すんだ

楽しかった全ての日々が
全ての世界が!

…知ってた。
気づいてた。
何を言っても無駄だってこと。

この世界は都合良くいかない。
現実だから。

諦めるしかない。
世界は、もう過去でしかない。

愛されることなんてない。
わかってくれる人なんていない。
救われることなんてない。

悲観主義じゃない。
ただの事実。

私は私を諦めます。
私が私であることを諦めます。

月が雲の間から一瞬顔を出したが、すぐに先程よりも分厚い雲に隠れた。

これを読んでるあなたは
どうか自分を忘れないで下さい。

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