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グレーゾーン

病院での治療や看護は、白黒はっきりさせる事がほとんどだが、訪問看護は、とにかくグレーゾーンな事柄が多い。看護学生が実習に来ている時は、前置き説明が必要だ。教科書にも載っていない、通常ならテストで、✖️を貰う、常識からズレているゾーンを目の当たりにするからだ。

例えば、気管切開(気切)から、痰を吸引する手技。『清潔操作』が基本である。新人看護師が初めて実施する時は、先輩看護師が付きっきりである。

この『清潔』『不潔』観念を覆されるのが、訪問看護である。

その患者さんは、30代半ばで、中枢性睡眠時無呼吸症候群を発症。寝ている時に、脳から呼吸する指令が止まってしまうため、寝る時に人工呼吸器を装着しなければならない状態だった。起きている時は、自発呼吸がある。気管切開しているので、痰を適宜、吸引しなければならない。病院で、自分で吸引する方法を指導されて帰宅。配偶者へも指導済みで退院。訪問看護は、状態観察、人工呼吸器管理、入浴介助などで開始。

掃除は気の向いた時のみ。埃や食残が床に落ちている。吸引チューブは、指定された瓶に入っていることはなく、その床に落ちている。
気管カニューレの内筒も、毎日洗浄するはずだが、カチカチに乾燥した痰がこびりついたまま、床や吸引器周辺に置いてある。そして、埃まみれの吸引チューブをそのまま使用して、自己吸引さているから、初めてその光景を見る看護師は、絶句なのだ。「清潔操作って?」「免疫って?」とグルグルしてくる。私のようなオバサン看護師でさえ、この反応、看護学生には、衝撃的過ぎる事実なのである。人が環境に順応するのか、この方だけが特殊なのか。それでも、感染症を何年も起こさず、生活されていた。

医療業界で「ドレナージバッグ」とか「ハルンバッグ」と呼ばれている、尿を貯める袋。中は、滅菌されていて、尿道カテーテル挿入後、カテーテルに繋いで、尿を袋に溜める役割。その袋の下に、溜まった尿を破棄する出し口があり、基本、患者さんや家族は、そこしか触らない。
…とある患者さんの奥さん、訪問看護時に、その袋の中を洗えと言う。水道水をチョロチョロ出して、下の出し口から水道水を入れて…。
本来、使い捨てで定期的に新しいものに交換するのだけど…。こんな事、病院でやったら、事故報告案件に該当してしまう。

ハルンバッグの件など、「節約のため」がベースにあることも多い。病院や診療所が出してくれる衛生材料は、限られている。出してくれない病院もある。足りなければ、自己負担で買う。特に高齢者は、Amazonで安いのをポチッは困難、病院の売店で、定価で買わなければならないのだ。
このような背景もあり、在宅療養では、患者や家族がケア内容をブラック寄りのグレーにアレンジしてしまう「事象」が多発しているのである。


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