③ カピバラを飼いたい
カピバラに興味を持ってからの三か月間、車で行ける範囲のカピバラのいる動物園に週末や祝日など仕事の無い日は通い続け、開園から閉園まで動物園に滞在することもざらになりました。このハマりっぷりが親や親戚にもバレて「ネズミに取りつかれたんじゃないの?」なんて冗談交じりに揶揄われることがありました。そこまで通うと園内の掲示物の情報や飼育係さんのミニトークライブでの情報や図書館や動物園の資料室にある動物図鑑などは、ほぼ把握し増々私にとって興味深いだけではなく愛する存在だったり表現できない不思議で不可欠な動物になっていました。
色々と疑問に思うことや知りたいことが多々あるのだけれど、以前も書きましたが学生時代に飼育係さんに怒鳴られたトラウマであったり少し内気だった性格から、なかなか「質問お願いします!」とは言えず消化不良の日々が続きました。そんな時に思い付いたのは飼育係さんに自分を覚えてもらおう作戦、動物園に行く際は上半身の服装は必ずオレンジ色という地味な行動。オレンジ色の服を着た中年男性がポツンと柵の前に一日立っていたら、相当カピバラが好きな人、いや実は変な奴、かなり危険な奴?どれかは分かりませんが、声を掛けてくださるのではと安易な作戦でした。
実際はどうなったかと言うと、オレンジ作戦は大成功!飼育係さんは開園中に何回かカピバラ達の体調観察や給餌にいらっしゃった時に、「あれ?さっきも見てましたよね?」と話しかけてくださいました。当時はカピバラの認知度はほぼゼロ、前で立ち止まり観察するお客様は一日数人、やっぱり変わり者に映ったと思います。それでもお話する切っ掛けが出来たとなればラッキーとばかりに、気になった事や他の動物園で見た違いなど疑問点を質問させて頂き、どんどんカピバラ知識の頭でっかち中年に成長していくのでした。当時の言葉ならばオタクと表現するのでしょう・・・そう、カピバラオタクです。
2006年の9.10.11.12月とカピバラを追い求めて4か月が過ぎた頃、当時は日本で唯一だった伊豆シャボテン動物公園のカピバラ露天風呂を初めて見に行きました。湯を貯めている間、飼育係さんがカピバラの基礎知識をマイクを使って解説するミニトークが人気で約20名程度のお客様が聞き入っていたと記憶していますが、今と違うのはスマホカメラやビデオカメラが手軽ではなかった事もあり、お話が終わるとお風呂で微動だにしないカピバラの前からお客様は誰もいなくなり、足を止める人もマバラ状態でした。
そんな頃、
カピバラを好きになった人だったら、誰もが通る道、誰もが考えること。
「カピバラを家で飼いたい、ペットに出来ないだろうか。」
無性に真剣に心の底から、なんとか手に入れられないだろうかと伊豆シャボテン動物公園のお風呂の説明をしていた飼育係さんに、この思いと同時に今考えればバカな質問で無礼な内容だと今は反省していますが大量の質問をしたのです。
「どこで売ってますか?仕入れるのですか?」
「買うには、いや飼うには何が必要ですか?」
「動物園で譲って頂くことは出来ませんか?」
そのバカげた質問に、じっくりと返答してくださった飼育係さん。「もし購入出来たとして、この特殊な動物が病気になった時に対応できる動物病院を探せますか」「探せたとしたら重いカピバラを連れて行けますか」「排泄物の処理や匂いをどうしますか?近隣の苦情の対応は出来ますか」「逃げた時に捕まえられますか」「嫌われたら近寄りもしませんよ」「飼えなくなった時はどうするのですか」「10年後の貴方の生活を想像してカピバラは飼い続けられますか?」などなど、本当に具体的に飼うための問題点を教えてくれました。
それまでは、カピバラと家で過ごす時間の良いことだけを想像していました。一緒に布団で寝れないかなぁ、膝の上に座らせて一緒にテレビを見れないかなぁ、一緒に散歩も出来たら楽しいかな、なんて。お話をお聞きして、かなりハードルが高く、仮に飼えたとしても自分の時間や金銭面での犠牲も普通のペットよりも大きく、飼っている人が少ないだけに飼育方法の情報が少なく努力と苦労と勉強を続ける必要があり、欲しい!飼いたい!の欲望は、その日を境にすーと消えたのでした。
本気で答えてくだっさた飼育係さんに今でも感謝でいっぱいで、尊敬する動物園人のおひとりです。もし私の返答が面倒で「飼えますよ~頑張ればね」なんて一言だったら、私は真に受けてカピバラをペットしていたかもしれません。ちなみに、この飼育が出来るかの相談話にはオチがあり、後で知ったのですが熱心に答えてくださった飼育係さんは、カピバラの担当ではなく、この日は代番で実は違う動物の担当だったのでした。すごいなぁ飼育係さんの知識量と想像力に感動。