13.がん治療でお悩みの方へ綴る《化学療法3》
・癌細胞の分裂を阻止する話=正常の新陳代謝を阻止=生存を阻止すること
通常の抗がん剤はこの方程式に該当します。がん細胞が分裂する際に鍵をかけるというのかな、1つが2つになるときにその作用を邪魔するのです。どの部分を邪魔するかで薬の種類が変わったりしますが、薬剤添付文書の警告文や、副作用の記述に「免疫低下」や「感染症」の文字があれば、その系統だと分かります。
*薬剤添付文書:「(薬剤名) 添付文書」でPDFファイルを探しましょう
がん細胞が100個あったら、分裂しようとしている細胞は平均的に20個くらい(癌細胞の種類によって分裂速度は違います)。ですから、1回の抗がん剤で癌細胞分裂を阻止できるのは約20%ほど、ということになります。分裂していないがん細胞には無効なので、次の分裂を待って投与を繰り返すことになります。待っている間に再増殖もしていますし、効果というものは増殖速度にもよりますし、分裂している%にもよりますし、薬剤感受性にもよりますし、色々な要素が絡んでおります。それもあって、投与間隔を開ける必要性があるとも言えます。塊を作らないがんは感受性が高い事が多いので、寛解に持ち込める率も上がる、ということです。
さて、分裂しているのはがん細胞だけか? というと違います。正常細胞の方が圧倒的に早くたくさん分裂しています。再生力の高い臓器ほど分裂している細胞数は多いのは当然です。それは抗がん剤の影響をもろに受けてしまう臓器でもあるのです。その影響を受けた臓器が出す症状を「副作用」と呼んでおりますが、細胞分裂阻止が主作用なので、がん細胞に対してのみ主作用、正常細胞に対しては副作用と呼び分けているに過ぎず、全ては細胞分裂阻止という主作用です。
腸の粘膜は全層入れ替えに24時間と言われており、白血球は5日程度、皮膚全層は30日程度、赤血球は約4ヶ月、というように臓器や細胞によってサイクルが違うので、分裂の早い臓器から副作用が出始めます。腸の粘膜が脱落して復旧しなければ消化吸収が困難となり、下痢を起こす。胃がやられれば食欲も落ちる。白血球の再生が困難となれば免疫力が下がり感染症になりやすくなってしまう。毛根や爪はノンストップ増殖だからやられやすく、早期に脱毛が起こる。爪も変形していく(横に筋は入る)。このように原理が分かると副作用が分かってくるのです。白金系(例;シスプラチン)は重金属中毒の副作用が起こりやすく、神経障害が有名です。その中でも聴力障害を起こしやすい。
普通に考えて、ですが、正常細胞の分裂を阻止することは、新陳代謝を阻止する事であり、それは生存を阻止する事である、という論理が理解できるでしょうか。だからこそ重要な点は、そこまでして勝算はどれくらいなのか? です。ここで言う勝算は「延命」ですが、それなりに副作用という名の「ひどい目」には合います。ここは自分の人生にとって、損得勘定をしましょう。
とはいえ、完全否定はいたしません。試しに使ってみて、これは無理だと思ったらやめればいいのです。お相撲さんが土俵際でどこまで耐えられるか、うっちゃりを狙えるのか、というギリギリまで待つ必要はありませんよ、ということです。土俵中央付近で決断する必要がありますよと。
基本的に主治医は止めません。治療を断る患者さんの頭はおかしいと思ったりもしていますからね。現時点でもその手の医者は現存しておりますのでご注意を。嫌だと断って「分かりました、やめましょう」という主治医も増えては来ております。その場合は続けても止めても結果が変わらないと思っていたりもします。ともかく主治医とはよく話し合いましょう。争点は自分の人生がどれだけ幸せになるのか、です。人生について話し合うのです。
病気を診るが患者さんの人生は観ない主治医に命を預けられるかの損得勘定です。
…つづく
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