見出し画像

Rapture Days

( )内の※は、今回加筆また削除した箇所です。




(1)僕らに歓喜の日々はやって来るのだろうか?


 書かんでいいことと決めつけていたが、記念すべき2004年を気持ちよく迎える為否その前に自分の中で区切りをつけておきたいタイミングでもあるし、たいがいもう時効だろうと判断して、書いておこうと思う。何回かに渡って、思いつくままに。かつて自分も少し関わった、試行錯誤の段階で結局フェイドアウトしてしまった、とあるパフォーマンスユニットについて。発表する場として(※一部削除)まったくふさわしい気がして、今ひとりで笑っている。(※一部削除)まあ、それもきっとそういうタイミングでしょ、とゆーことで。


 Rapture Daysは、ごく簡単に言うと、男女モデルの陰毛カット&ヘアダイをライブで見せるパフォーマンスで、そこに音(など)が付いたもの。試行錯誤の段階だったから、ライブごとにいろんな音が付いた。アコーディオン1台きりで奏でる『スケーターズワルツ』などをバックに黙々と作業が続く……なんてこともあって、今思えばなかなかにケッサク。

 このユニットを立ち上げた人物は既に物故している。そのへんの経緯については書く気ないし(※一部削除)自分はただ、Rapture Daysでの彼との関わりに限定して、ほんの少しだけ書くつもりだ。

 ところでそれ、何年の話? いきなり申し訳ないが忘れたよ。そのへん、場合によっちゃ残っているかも知れない資料の断片を引っ張り出して確認などしつつ、もしかしたら順を追って書いてみたい。


 今日は、まず<陰毛を染めるとどんな効果があったか>という話。まずはそこからだ。

 人間の裸というのは、ある種の職業(モデル、俳優、プロのスポーツ選手、いわゆるフーゾクの仕事etc.)に従事する人たちを除いて<商品>ではない。商品たり得ないものは資本主義の経済社会においてポジションを持ち得ず本質的にアナーキーな存在だから、まさに自分が裸で行う行為に当事者として参加している瞬間は別として、いきなり見せられても困ってしまう。今チョット欲情してる場合じゃないんで……とか、そんな次元の話ではない。

 <商品でない人間の裸>は<動物過ぎる>ところが困る。何と言うか、そこが見る者をたまらなく不安にさせるし、場合によっては落ち込ませるのだ。まったく、人間は服を着ることにより、かろうじて人間としてのアイデンティティを保っていると言って良い。

 ともかく、そんな<動物としての人間の裸>を、密室ではなくステージ(またはギャラリー)で晒すこと。そのこと自体、既に伝統芸能としてのストリップティーズとはまったく無関係な、ある新しいコンセプトの実践と言って良いと思う。もちろん、乳輪をピンクっぽく着色するなどの加工は一切なしだ。

 さて、その動物過ぎる裸の太ももの付け根あたりに生えている毛をこざっぱりとカットした上で、ショッキングピンクやライムグリーンにすると、あらま不思議、あっという間に工業製品みたいにプラスティックに(関西ではプラッチックと発音される場合もあるが、ぷらっちっくおのばんどなんちゅのは流石に聞いたことがない)。まったく、リカちゃん人形かと思ったぜ!

 このギャップが、たまらなく可笑しいんよね。で、ここ是非とも強調しておきたいんやけど、それは冷笑や屈折したイビツな笑いではない。不純物の混じった笑いを蒸留し、日本薬局法に照らしても胸を張って表示できるピュアな成分だけ取り出しましたみたいな、文字通り屈託のないヌケのいいシアワセな笑い(※何かを取り戻した感覚が、確かにあった)。余談だが、自分は、単に合法的かつ社会生活に支障を来たさないかたちでの当て擦りが上手な人を指して「ユーモアのセンスがある」などとは言わないし、生まれてこの方そんなもんで気持ちよく笑えた試しもない。ともかく、ジェンダーに起因するすべての不幸を一気に超越したという実感があったし、大真面目にそんなことやってる自分たちも可笑しかった。間違ってもみじめに感じたのではない。わかる? そうそう、こういう場面で真面目にできない人、今も昔も、自分は好きになれないし信用もできない。

 以上、リアルに体験した者として、ここに証言しておく。


 自分たちは、自分は、何をやっていたんだろう。僕がモデルを務めたパフォーマンスは、某所のSMバーで行われた。趣味の人以外の、例えばそこそこお洒落なカップルなどがちょこっと立ち寄って飲んでいくようなそのテの店が、当時は割にあったものだ。そんな時代の空気つーか風に乗って……という努力が自分たちには今一つ足りなかった。などといった総括をしようとは思わない。一生反省ばかりしているのが好きな人ならいざ知らず、そんなものに意味はないので。

 今、問題にしたいのは、文字通りのRaptureで。アタシたちは、私たちは、それを勝ち取ることができるだろうか? あるいは、どうやって勝ち取れば良いのだろうか? 僕たちは、目的地までうまく飛べるだろうか?


 ボンデージファッションとか、あったね。今もかたちを変えつつ、あのへんのテイストはカッコ良く展開中みたいですが。セクシーなラバーのコスチュームに身を包んだ美形のCAが須磨具入りのマティーニかなんか運んできてくれたりしたら、どこまでも飛んでいける気がするだろう。まあ、それはそれで楽しいフライトには違いない(特殊な感覚ではない。マトリックスのトリニティーがカッコイイと言うのと特に変わらない)。しかし、我々が求める歓喜の日々って、そういうこっちゃないだろう。


 今日はこのへんで。すべての人に歓喜の日々が訪れますように。




(2)行為のこうもり問題を僕たちはどうしたか


 <こうもり問題>は『超整理法』で見た言葉で、当時の自分がそんなものを使って考えていた訳ではない。こうもりは鳥か獣か、トマトは野菜か果物か、世の中には分類に困る書類とかがあって、さっきも散らかってるねと嫁に注意されたけど、皆さんだって相応に苦労されていることでしょう。と勝手に痛み入りますです。

 Rapture Daysで困ったのは、お前ら何やるグループや? と問われた際にわかりやすく通りの良い答えを持ってなかったこと。ちんげ染めますじゃなんぼなんでも、ねえ。表現のジャンルと言うかカテゴリーネーミングと言うか。といっても、演歌なんて呼ばないでくれ俺たちがやってるのはジャパニーズブルーズさ式のこだわりは皆無で。要するに、出し物の内容を詰めるのもさることながら現実問題として、まず<場>を確保する必要があった。結局のところそこに付随する問題だったと思う。も少しエエカッコ言わせてもらうなら、場の確保にとどまらず確保した場で何をどうメッセージし、どういう動きをつくっていくかという戦略的な意味での<場の創造>といったところか。でも、まずは、そんな表現のベクトルを示すコンセプトワード以前の問題。もちろん情宣活動も含めて。当時も今もオンとオフの線引きがイマイチぱきっといかんような職業に就いている私ではあるが、何やってんねんお前と言われるのは一貫して得意やったみたいだ。


 僕はカウンター席でハーパーソーダを飲んでいる。カウンターの中には、扇情的にスタイリッシュなコスチュームを纏った長い黒髪の女王様がいる。いわゆる女王様コトバじゃなく、普通に話してくれるのは助かった。当たり前かも知らんけど。モニターには、飲んでいるものが不思議な味になりそうなドロドロの映像が流れている。時間が早いせいか、客は僕を入れて2人だけ。L字型に設えられたカウンターの両隅に腰掛けている。いかにも暗そうな年齢不詳の男性客。妙におどおどしている。女王様と2人きりでなくて良かった。普通ならそう考えるところだろうが、実際には、この客がいるおかげでさらにいたたまれなかった。何者なんだろう。女王様と話している内容から<志願者>らしいことが知れる。覗いてはいけない他人のプライバシーが目から耳から飛び込んでくるようで、僕はたまらず後ろを向く。あ、この檻使えるかも。

 ここが、来月行われるテストライブの会場。当然、ハコの視察が第一目的なんやけど、あまり露骨にキョロキョロしないようにとも言われている。SMバーは初めてなので緊張する一方、目に映るものすべてが新鮮だ。しかし……先鋭的な人間が集まる場所やからお洒落して行った方がええかも? アホぬかせ! と、僕は革のキャスケットを脱ぐ。志願者のせいで自己紹介のタイミングすら逸してしまった。このまま泥酔して椅子からずり落ちてやったとしたら、目の前のこの人はどういう行動に出るだろうか。

 椅子からずり落ちる前に、やるべきことがあった。ともかく僕たちは、自分たちが集めた訳でもない客の前でテストパフォーマンスをやらせてもらえるのだから。店長てどんな人っすか? 今日は来られるんですか? いきなりそんなことを尋ねるのも何だし、まずは目の前の女王様に感謝の気持ちを伝え、誠意を示さなければならない。同時に、自分はこの世界の趣味を実践する気は毛ほどもないということも。いずれにしても毛の話だ。こればっかりは仕方がない。しかし、女王様に感謝? 誠意を見せる? なんだそれ。だいたい、この人と僕の間に何の接点があるというのだろう。

 志願者が帰ったので5杯目を頼もうとすると、電話が鳴った。あ、ちょっとごめんなさい。ああどうも。え? 来てるよ。へえ、そうなんだ✖✖くんだったんだ。という訳で決まりの悪い自己紹介の手間は省けた。

 こうしてその日は、頃合いに酔っぱらいながらかろうじて「よろしくお願いします」と挨拶して帰った。


 通常、ライブハウスなどに出演する場合は、わざわざ事前に飲みに行って店長なりブッキングマネジャーなりに挨拶しなければならない、なんてことはない。PAスタッフと親しくなって、こういう感じでやってほしいんですけどみたいな話が気安くできたとしたら、もちろん素晴らしいとは思うけど。

 1日いくらでハコ貸ししますということだったら、そこが何屋さんであろうと変に気を遣う必要はないのだが、今回はSMバーの通常の営業日に行われる、ちょっと変わった余興ぐらいの位置づけだ。いったん始まったら、もう終わるまで完全に自分たちの世界なんだから口は挟むな邪魔するな、なんて勝手なことは言っていられない。とにかく、早いとこメンバー間でミーティングをやりたかった。


 何でや? ミーティングは、会場となるSMバーで行われた。そりゃあ店側との打ち合わせは必要に違いないけど、まだメンバー間の打合せすら電話でしかやってないちゅーの。ユニットを立ち上げた張本人に、僕としては初対面の美容師、それに僕の3人。カット&ヘアダイの実験結果に基づく、大まかな段取り決め。こないだとは別の女王様がそばで聞いている。例の檻はインテリアであるのみならず、夜中過ぎて会員の時間になったとき、実際に使用されてもいるらしい。モデルと音関係については、時間をかけていろいろ試していくことにしよう。とだいたいそんな話。


 テストライブ当日、細々と書いてもしょうがないのだが、面白かった。そして消耗した。メディア関係、ま、ほとんどが雑誌だけど、結構大勢取材に来ていた。<僕たちこういうことします>は結局曖昧なまま、とにかくその目で見てくれという態度だ。どういう取り上げ方されるかわからんけど、レディコミの人らはとても感じが良く、美術手帖からは結局誰も来なかった。詳しく聞かせてくれとか言ってたみたいだけど、詳しくも何も……。

 で、これは現代美術なんか、お笑いなんか、変態さんの趣味の隠し芸なんか。Rapture daysを通じて、もしかしたらこれできるかも。と僕が思ったことと実際のRapture daysは、最初からぜんぜん別物だったのかも知れない。

ここから先は

3,056字

¥ 100

期間限定 PayPay支払いすると抽選でお得に!

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?