そもそも皆が志望している「企業法務」ってなんだ?


1 疑問

私自身が修習生のときもそうだったのですが、「マチベン」といえば、個人の離婚事件とか、相続事件等の家事事件とか、貸金返還請求事件等の一般民事事件を主として対応する弁護士のことを指すように思っていたし、自分自身もいわゆる「マチベン」だけど、企業からの依頼が主で、企業活動上の相談等にも対応しているので、その意味では「企業法務」も取り扱っているように思っていたのですが、そもそも「企業法務」ってなんなのでしょう?

Xの司法修習生の投稿や、人材紹介会社から回ってくる転職・就職の希望条件を見ていると「企業法務」を中心に取り扱っている事務所に入りたい、という記載があったりしますが、弊所のように顧客の大半が企業でも、離婚事件、相続事件等を取り扱っていると、「企業法務」事務所ではなく「マチベン」に分類されるのでしょうか…。

2 「企業法務」についての記載

2-1 説明1

『企業活動に伴う法律問題の予防や対応、指導などに関する諸活動』の総称です。

マネーフォワードクラウド契約 https://biz.moneyforward.com/contract/basic/7262/#i

2-2 説明2

企業法務とは、企業が紛争を避けるための予防法務にかかわる取り組みや、企業が法務の立場から新規の事業戦略を組み立てていく取り組み、あるいは実際に紛争になった場面での紛争解決のための取り組みをいいます。労務分野や株主総会・取締役会の開催や運営、M&A、契約書のリーガルチェック、知的財産の管理、債権回収など様々な分野についての取り組みが企業法務と総称されます。

弁護士法人咲くやこの花法律事務所 https://kigyobengo.com/media/useful/2202.html#i

2-3 説明3

企業法務の仕事には、大きく分けると二種類の仕事があります。1つは顧問先の会社の日々の法律相談への対応、もう1つは個別案件への対応です。


西垣 賢斗(Gakky)さんのノート https://note.com/gakky_1116/n/n47e0ffafe74a#842e5ec9-8930-4d5f-9f3d-4c1810f578d3

3 考察

上記のような説明を参考にすると、どうやら弊所で担当させて頂いている案件は「企業法務」に該当しそうです。

要するに、難しく考える必要はなく、企業にかかわる法律的な課題について助言したり、紛争解決に向けて対応したりする活動の総称を企業法務というのでしょう。

4 新たな疑問(参考までに弊所の取扱業務)

以上を前提にすると、「企業法務」といっても、企業に関連するものは広く含まれますので、「『企業法務」をやりたい」といっても何も言ってないに等しいことになります。

上述のように、修習生や、転職を希望する弁護士が、「企業法務」を担当したいと記載している例をよく拝見します。
厳しい言い方をすると、このような記載では解像度が低すぎて、採用側からすれば、あまり良い印象を与えないかもしれませんね。

上述のように私が担当している案件も「企業法務」に含まれるとして、私が知っているところをお伝えすると、以下のような業務があります。※数として多い順に記載します。

4-1 労働法務

従業員との間の労働契約に関連する法的な問題等について助言することが多いです。

代表的なものでは、
・ 従業員が上司の指示を聞かないのだがどうすれば良いか?または従業員のパフォーマンスが想定以上に低いのだが、どのように対応すれば良いか?
・ 従業員が非違行為を行ったため、適切な手続きを踏んで懲戒したいがどのようにすれば良いか?
・ 従業員がセクハラやパワハラを受けたとあいて、弁護士を立てて損害賠償請求をしてきたが代理人として対応してくれないか?
といったような相談が寄せられます。

従業員が、その会社におけるルールを破ったような場合は、その会社がどのような業種で、どのような業務を具体的に行っており、どういった意味でルール違反をしたといえるのかという点については、きちんと理解しておく必要があると思います。 つまり、労働関係法規の理解だけではなく、当該会社の業務に関する理解も求められるということになります。

ちなみに、従業員の対応をする中で、規程自体の変更が必要と思われる場合も多々ありますので、規程全体を確認して、修正案を提案することもあります。

4-2 事業に関する法的リスク(規制等の有無)の検討・調査

例えば 顧問先の企業等から、
・新たにこのような事業をやろうと思っているが、何らかの規制があったり、法的なリスクについて洗い出してほしい
・ 下請事業者とこのような契約を締結しているのだが、下請法に違反しないか?
・取引先とこのような契約を締結するのだが、不利な条項はあるか?あったとしてどのように変更すればよいか?
という相談が挙げられます。

当然ながらその事業はどのようなものかを理解していないと、法的なリスクを洗い出すことは容易ではありません。
また会計的な知識も、当該事業にかかるリスクの検討には必要になってくると思います。その意味では、修習期間、弁護士としての最初の時期は会計の勉強をすることも重要になってくるでしょう。

4-3 訴訟

あえて切り出すまでもないですが、当然訴訟を担当することも多いです。元々訴訟を起こされた会社の代理人となって、その後顧問弁護士となることが多いため、訴訟対応は常時数十件抱えています。

こちらもあえて記載するまでもないですが、企業の取引関係上問題になるのは、その企業と相手方企業の事業内容に関わりますので、少なくとも依頼者側企業の事業について深く理解しておくことは必須となります。
・この辺は、得意分野なので若干饒舌になりますが、例えば、建築紛争において、施工側の代理人になった場合、施主側の代理人が、「施工瑕疵だ」と指摘する箇所について、①施主側がどのような意味で「施工瑕疵」であると主張しているのかを理解し、②本来の施工方法について確認し、③仮に本来の施工方法と異なる場合は、どのような理由で違いが生じたのかを説明する必要がありますが、これには建築業界の実際について理解しておくことが必須となりますし、建築の法制度(建築基準法等)についての理解、また、工法等についての理解も必要になってきます。

4-4 企業買収(M&A)

ときには顧問先企業が、別の会社を買うことを検討しているので、法務デューデリジェンスをしてくれないか?という依頼があります。

私に限っていえば、得意分野としている訳でもないので、外部の友達の弁護士に手伝って貰って進めています。
上記と同様、対象となる企業がどのような事業を行っているのかを把握する力が必要になってきますね。

5 終わりに

以上のように、「企業法務」というのは、企業に関連する法律的な問題(課題)に対して助言をしたりする業務を広く含むものであると理解すべきと思われます。
そして、企業を相手とするものですから、当該企業の事業についての理解や、実際の運用等についても理解して、これを第三者に対しても説明できる必要があります。この点が、何となく難しそうな業務を行うような感じがして、スマートな印象を受けるのかもしれませんね(個人相手の業務が簡単という訳ではなく、別のまた違った難しさがあるのですが…)。

いずれにせよ、「企業法務」とは、日々知らないことが発生し、企業の担当者に聞いたり、文献等を調査することの繰り返しとなる業務ですので、一筋縄ではいかないと感じています。毎日知らないことに直面し、日々努力しないと企業担当者から見切られるおそれもあるけれども、そのような環境で努力することが好きな方には向いているかもしれませんね。



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