IMJものがたり30〜39(本編)
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IMJものがたり30〜39(本編)

かしのたかひと

30 社長5年目、神戸市長選への出馬打診

2005年、IMJの社長になってから5年が経ち、私は42歳になっていた。
この年の売上は81億円だから就任時の11倍に成長したことになる。
事業セグメントもウェブ事業、モバイル事業、広告事業、エンタメ事業の4セグメントの事業基盤が整い、グループ会社も新規設立やM&Aなどで24社(子会社や持分法適用会社まで含めて)まで拡大していた。
 2006年のグループ連結売上は140億円を難なく達成しそうだし、グループ各社の事業の中期計画では3年後に売上300億円まで自然体で成長できる手応えを感じていた。

 そんな時、ある方が神戸から訪ねてきた。
「2005年10月にある神戸市長選挙に出ませんか?」
 私が昔から政治家志望であることを聞きつけ、口説きに来てくれたのだ。
17歳の頃から「いつかは神戸市長に」と思っていた私にとっては、突然の話であったがとても嬉しい話だった。
企業で働くのと違って、政治家への入り口や仕組みがまだよくわかっていなかった私にとっては、願ってもないチャンス。しかも市長選は4年に1度。一度パスすると4年先送りになる。
 正直、心が揺れた。
もともと考えていたキャリアプランは40歳までビジネス、40歳から政治の世界へ、そして60歳から教育。42歳になっている私は計画が既に2年遅れていた。
 
 しかし、IMJは伸び盛り、大きな目標に向かってひた走っている。私自身も経営者として脂がのってきており、「やれる」という実感もある。
頼もしいメンバーも集まり、こんなに楽しい環境は他にない。

 新宿のレストランで、その方と食事しながら自分の心の声に耳を傾けた。
・・・みんなと一緒にIMJをもっと大きくしたい・・・。

私は今回のお誘いに感謝しつつ、自分の気持ちを伝え、お断りをした。
「4年後の2009年までに、IMJを自分がイメージする企業にしっかり成長させますから、その時あらためて相談させてください」
と付け加えて。

エクセレントカンパニーになり、100年企業になることを考えると、私がずっと経営者をしているわけがない。逆にあまり長く居座り続けると老害にしかならない。

前にも書いたが、英国の宗教詩人による詩の一小節の
「天空に大きな円を描きなさい。その円はあなたの代で完成することはできないかもしれない。でもあなたはその円の弧になることができる。」

を実践するためにも、あと4年で区間賞を取る走りを見せて、次にバトンを繋ごうと決心した夜だった。

それから4年後の2009年5月、私はその方に会いに行った。
「あの時の約束通り、10月の神戸市長選挙に立候補しようと思っています。
お力を貸していただけませんか?」

「4年前の話を覚えていると思ってなかった。経営者としてバリバリやっているのを聞いていたから、もう無いと思っていた(笑)」

「会社関係は後継者も決めて、4月に会長になりました。いろいろ準備を進めているので、お願いします!」

「わかった。じゃ、まずは神戸のことをよく知っていて、絶対力になってくれる人を紹介する」

そうして出会ったのが、井坂信彦さんである。


31 M&A戦略(バスに乗せろ〜ビジョナリーカンパニー2〜)

IMJの株式公開はITバブルが弾けたあとだったので、資金調達額は2億円程度だった。必然的に大型買収は難しいし、ライバル企業と金銭面で張り合っても勝てない。

なので、基本戦略は、小型Corporate Venture Capital(CVC)みたいな感じだった。
CVCとは、事業会社が自己資金でファンドを組成し、主に未上場の新興企業(ベンチャー企業)に出資や支援を行い、自社の事業内容と関連性のある企業に投資し、本業との相乗効果を得ることを目的としている。

あらゆる分野のベンチャー企業に投資する一般的なベンチャー・キャピタルとは異なり、あくまで自社の事業内容と関連性があり、本業の収益につながると思われるベンチャー企業に投資するのだが、IMJは社員5人というような小さな企業にも出資してグループ入りしてもらうこともあった。

 今をときめく「銀魂」や「キングダム」の映画プロデューサー松橋さんの場合は、WOWOWから引き抜き、新会社を設立し、資金を出して社長になってもらうような形を取った。(ちなみに、この新会社スタジオスワンの社長秘書が現在の郷ひろみさんの奥様である)

 こうした考えの根本は、ビジョナリーカンパニー2に書いてあった「バスに乗せろ」という考えである。
とにかく優秀な人材を組織に入れて(バスに乗せて)目的地を示せば、最適なルートを乗組員が探し出し、様々な課題を乗り越えながら上手く到着する。
 万が一、社会環境が大きく変わり、当初設定した目的地が無くなったり、不具合が出たりしても、その目的地の変更も乗組員が自ら考え、設定していく。

「企業は人なり」を見事に表したこの考えに私は感動し、とにかく優秀な人材をIMJグループに獲得することに執念を燃やした。

買収金額については、もちろんデューデリし、財務的な数値でも設定したが、純資産価格や利益水準だけに左右されずに、集団中途採用と捉えて買収金額を設定した。

中途採用は、年収の30%〜35%を斡旋会社に手数料として取られることを考えると、10人の会社の平均年収を仮に500万円とすると1人の斡旋料が150万円、10人で1500万円。
資金繰りに困っている中小ベンチャーに1500万円出資し、10人の社員と顧客と売上、技術をグループに取り込んで行った。

そもそも企業として、組織マネジメントが成立しているので、そこにグループメリットを提供し、一緒に成長して行くには最適な手法だった。感覚的にはひとつの部署をM&Aするような感覚だったかもしれない。

この時、大切にしたのは、M&Aした会社を子会社扱いしないこと。
親会社・子会社みたいな上から目線にならないように、リスペクトして接するようにした。

純粋に「業績を伸ばし、社員が成長し、楽しく働いている会社が偉い」という評価軸である。M&Aの経緯も様々なので、私より多くの報酬を取っていたグループ会社の社長もいたし、IMJより良い業績を出せば私の報酬を超えるのも当然と考えていた。

そして何より、お互いの夢を重ねる事。
 世の中には敵対的買収のような、片方の理屈でお金の力で会社を買収するような事例もあるが、それで上手くいくとは私は思わない。
 事業ビジョンを語り合い、相互の強みを活かし、新しい社会を作るために気持ちを合わせていくことがM&Aでとても大切だと思っている。
 
 かつてリクルートの人事採用をしている時も、リクルートの事業構想と学生の思考と能力を掛け合わせて、どんな未来が描けるかをよく話し合った。
 私の感覚では、採用もM&Aも「夢を語って人を口説く」という意味でとても似ているなと思ったし、人を口説く力がある経営者はM&Aが得意なんだと思う。
 リクルート時代にライバルだったリンク&モチベーションの小笹社長も人を口説く天才だったので、おそらくM&Aを積極的に推進するだろうと予測していたら案の定、グループ展開が早かった(笑)。
 


こうしてグループ企業は増えていき、
2006年3月には、ウェブ事業会社10社、海外現地法人(ベトナム1社と韓国2社)3社、モバイル事業会社6社、エンタテインメント事業会社6社、広告事業会社6社という31社のグループを形成するようになったのである。

32 ネット動画はテレビCMを超えていく

ソフトバンクの孫さんはタイムマシン経営と言われていた。
ネットビジネスの未来がアメリカにあり、それを日本に持ってきている。
 
 間違いなく、広告産業も広告会社のあり方も劇的に変わって来る。
 そのヒントを掴むために私たちもアメリカ視察に繰り出した。
 
 アメリカでは既に広告枠を買い付けるメディアエージェンシーと、そのクリエイティブを制作するクリエイティブエージェンシー(インタラクティブ・エージェンシー)が分業を始めていた。

 そのクリエイティブエージェンシーの幹部がこんなことを言った。
「従来のエージェンシーはテレビCMを季節ごとに年間4本しか作らない。
我々は年間200本以上のネットCMを制作し、ABテストなどを通してどういうネットCMが視聴者に評判が良いか、どの世代にどれが受けるかを繰り返しトライしているんだ。どちらのエージェンシーがクライアントとのコミュニケーションが増え、どちらの質が上がっていくか、一目瞭然でしょ」

帰国すると、NIKE iD「Cosplay」が2007年 カンヌLIONSで銅賞、2007年 NY ADC Viral Campaignで銀賞受賞のニュースを聞く。
さらに、サガミの「LOVE DISTANCE」がカンヌLIONSで金賞受賞。

ネットC Mの時代到来。
「Nike Cosplay」「LOVE DISTANCE」のクリエイターが江口カン監督と知り、IMJの大倉くん経由ですぐに紹介してもらった。

結果的に江口カン監督と一緒に仕事をするのは2011年になる。
そう、自治体PR動画で一世風靡した「おしい!広島県」で組ませてもらったのだ。

その後、彼は映画監督としても活躍中。
次回作は、続編が決定した岡田准一主演の「ザ・ファブル 第二章」
https://the-fable-movie.jp/

江口カンさんらしい、アクションと爆笑の作品に仕上がっていると思う。

33 三井物産との資本提携

 株式市場が、ITバブル崩壊から立ち直りかけていた頃、
ライブドアが株式100分割をして注目を集めていた。

IMJの業績も売上100億円を超え、四本柱の事業が確立されてきたので5分割を実施。株価は2005年に182000円の高値をつけ、時価総額は400億円を突破した。

このタイミングで新株発行をして、次の大きなステップに備えるために2005年CCCから20億円の資金調達を行った。

IT業界のBtoB市場も最終的には大手3社に集約されていくだろう。
近い将来、産業界での政治力が必要になってきたり、大きな意味での系列による受注や座組み作りが重要になってくる。

さらに、アメリカ視察で見てきたように、日進月歩で新しいテクノロジーが生まれてくるのを常にウォッチし、取り入れていかなければ生き残ることはできない。

そうした意味で、私は商社との資本提携を考え始めた。
商社なら世界のあらゆるところに拠点を持ち、情報と人脈を張り巡らせている。
IT業界への出資も、まさしく商社らしく様々な角度で進出しており、IMJと協業できそうな企業も多い。

あとは、どの商社と組むか? 組んでもらえるか?

IT戦略やIMJとの相性を見極めようと
5大商社それぞれに話を聞きに行った。

その結果、IMJを気に入ってもらい、
我々の戦略的な資本提携先になってもらったのが三井物産だ。

何が決め手だったのか?

三井物産の携帯子会社スイングがIM Jモバイルとすぐにシナジーを生めそうだったこと(スイングの古川社長がyesと言ってくれるかどうかドキドキだった)、IMJエンタテインメントが映画製作でよくお世話になっているTBSと関係が深いこと、そして何よりこの資本提携を成功させるためにIMJグループに出向してくれた三浦さんや鎌谷さんなど、さすが「人の三井」を感じさせてくれるユニークな方々にお会いできたのが大きかったかもしれない。

この頃、私はIMJの5ヶ年戦略を9つのフェーズに分け、スターウォーズの物語の如く「エピソード9」と名付けて資本提携のプレゼンテーションをした。

113ページに及ぶ出資依頼の企画書のプレゼンは
普通にやると1時間はかかる。

IT関連部署の方には時間をかけてお話させてもらったが、
忙しい専務や常務へのプレゼンテーションの時、
「樫野さん、今日はあまり時間がいつものプレゼンを10分でお願いします」
なんて、無茶な要望もあった(笑)。

この「エピソード9」の「高速プレゼン」を三井物産の方々は
面白がってくれた。
おそらく戦略の中身というよりIMJが持つエネルギーに興味を持ってくれたのではないかと思うのだが、本音はどうだったのか機会があれば、あらためて聞いてみたい(笑)。

そして、三井物産はIMJの新株発行による第三者割当増資を引き受け約10億円を出資、出資比率4.1%の株主となる。
 併せて、三井物産の子会社であるスウィングとIMJの子会社IMJモバイルがIMJモバイルを存続会社として合併し、モバイル事業の大きな塊が誕生。
 構想は実現に向かって確実に歩き始めた。


34  博報堂との資本提携

三井物産との資本提携により、産業界へのパイプと海外展開のパートナーを得た後、次の考えたのはクリエイティブの強化と新たな大型顧客の獲得について
どういう手を打つかだ。

デジタル化に積極的な企業は、既存メディアは大手広告代理店に、ネット広告はネット広告代理店に、と使い分けて分散発注を既に始めていたが、旧来型の企業は丸ごと大手広告代理店に相変わらず発注するスタイルをとっていた。

巨額の宣伝費を持つ大企業が、桁の違うマスメディアとネット広告を分散発注するのは面倒だし、プロモーションの一貫性を保つためにも大手広告代理店を窓口にするのは理にかなっている。

 その巨額のマス広告に紐づくネット広告アカウントを獲得したいし、大手広告代理店が長年培ってきたクリエイティブ力をもっとIMJも学ばんでいかなければならない。
 
ということで組むなら、やはり電通か博報堂だ。

 ナンバー1である電通は政治力やこれまでの実績によるメディア影響力がかなり大きい。
 一方で博報堂は、新井満さんや佐藤雅彦さん、天野祐吉さん、箭内道彦さん、大貫卓也さん、佐藤可士和さんなど、私が好き&超優秀なクリエイターを数多く輩出している。

 私がパートナーになってほしいと思ったのは博報堂。
 組織力の強い電通より、個の力で奮闘している博報堂の方がIMJの社風にマッチすると思ったのだ。
 そして、将来IMJも博報堂のように優秀なクリエイターを輩出していきたいという思いもあった。

何より、「ネット業界の電通になる」とビジョンで掲げていたのに、電通のグループ会社になってはその存在を超えていくのは難しい。
博報堂とタッグを組んで電通を超えていきたいと思ったのだ。

 その後、様々な協議を重ね、博報堂もIMJの新株7500株を約10億円で引き受け、三井物産と同じ出資比率4.3%の株主となる。

協業を進めるために、2006年9月に博報堂および博報堂100%子会社の博報堂ブランドコンサルティング、博報堂アイ・スタジオとIMJの4社によって「博報堂ネットプリズム」も設立。出資比率は、博報堂40%、IMJ34%、博報堂ブランドコンサルティング20%、博報堂アイ・スタジオ6%。
この戦略的JVは、博報堂および各グループのブランドマーケティング領域における戦略構築力、ブランディングやクリエイティブなどのプラニング力、キャンペーンを中心としたクリエイティビティの高いウェブ制作力、IMJの有するウェブサイト構築・運営ノウハウを融合して企業ウェブサイトのプラニング・構築・運営を提供することを目的として設立した。

博報堂からも多くのことを学ばせてもらい、
2009年1月、選挙に出るためにIMJの社長を退任したい旨を博報堂の役員の皆さんに伝えた際には、嬉しいことに引き止めに会い、毎週赤坂の本社に呼び出された(笑)。

 最後の最後、納得していただいてのお別れゴルフで、プレゼントしてもらったGUCCIのネクタイ。今でも大切に使わせてもらっています。
 黒崎さん、三神さん、その節は本当にありがとうございました。


35 玉塚元一さんのオーラ

博報堂と資本提携した翌2007年3月、
IMJは広告業界23位くらいに位置していた創業60年を誇る
協同広告社とも資本提携を発表した。

この資本提携はIMJが協同広告に約2億円を出資し、
協同広告の東京本社・大阪・名古屋をはじめ札幌から九州まで
4支社5支店という全国にネット ワークを手に入れ、
デジタルマーケティングを進めようという戦略だ。

このM&Aのパートナーになってもらったのが
企業再生を手掛けていたリヴァンプ社。

リヴァンプは、「行列のできるドーナツ店」
クリスピー・クリーム・ドーナツの国内営業権を
ロッテとともに獲得し、一世風靡していた。

そのリヴァンプの代表が、現在ファミリーマートの澤田社長と
ユニクロ社長、ローソン社長などを歴任した玉塚社長。

そして、このプロジェクトを成功させるために、
協同広告の社外取締役に私と玉塚さんが選任された。

リヴァンプの企業再生の手法を私自身が学びたいという
考えもあったし、何より玉塚元一さんと一緒に仕事をして
カリスマからそのエキスを吸収したいと思っていた。

玉塚さんの雰囲気、言葉、情熱、常に前に進もうとする気概など
リーダーのあるべき姿勢をたっぷり肌で感じることができたのは
私の財産になっている。

結局、このM&Aプロジェクトは一年後、株式の買い増しを要望する
我々チームと協同広告オーナー側の意見が折り合えず、
全株式を売却して終了する。

その後、協同広告はフジテレビ系列の広告会社クオラスに
2009年に買収され、2014年にそのクオラスと合併し、
2020年売上500億円弱、業界8位となっている。

玉塚さんには、この後も何かとお世話になった。
京都府とローソンが包括提携を締結した時も
オリジナル抹茶ロールケーキを開発・販売してもらったり、
葉加瀬太郎さんの「もうひとつの京都」観光キャンペーンの
募集を店内放送で告知してもらったり、
私の著書の帯を書いてもらったりした。

あの「巻き込む力」と「人を惹きつける魅力」
男が男に惚れるって、ああいう人のことを言うんだなぁと
つくづく思った。

余談だが、玉塚さんは私のことを「時任三郎」と呼んでいた(笑)。
今でも思うが、「玉塚さん、さすがにそれは全然似てないと思いますよ」


36 エピソード9 Reloaded

広告事業の拡充が進む中、モバイル事業の大きな進化も始まっていた。

モバイル事業領域のグループ会社ユニークメディアが、
花王ビオレのモバイルサイト構築で広告大賞を受賞。

三井物産からスイング社を譲り受けたのをキッカケに、
IMJのケータイ着メロやファンクラブ運営をしているESP事業部と
3事業を統合し、一気に業界内でモバイルプレイヤーとしての
存在感を高める戦略に打って出る。

そうして出来たのがIMJモバイルだ。

この統合という難しい仕事を社長として引っ張ってくれたのが
廣田武仁くん(現アビックス社長)。


統合の難しい点は、役職が減るところ。
単純に3人の社長が1人になる。取締役や部長や課長の数も
足し算にはならないから、人の気持ちが揺れる。

規模が大きくなり、企業としての未来ビジョンは描きやすいし、
業界内の評価も高くなるが、個々の従業員にとっては不安で
面白くないことが起こるのである。

下手な統合をすれば、元の会社の仲間で集まる派閥的な動きが
組織に根付いてしまう(半沢直樹の旧Tと旧Sみたいな話だ)。

このモバイル3社の統合、3つの組織文化の融合を廣田社長は見事にやり切ってくれた。

IMJの企業文化作りの立役者の1人でもある森竹正明CFO(胸毛おじさん)をIMJモバイルCFOに送り込んだのも功を奏したと思う。

既にウェブBtoB業界一位のインテグレーション事業に加え、
この統合によってモバイルBtoB業界においても
2008年までにトップを奪取、
2010年までにネット広告領域でもトップに立つという
中期計画が実現できそうなムードが広がる。

振り返ってみると、2001年から2004年までは、有象無象のネットベンチャーが乱立し、カテゴリーNO,1を争う戦い。

IMJは幸いにもウェブ構築カテゴリーでNO、1に成長し、他のモバイルカテゴリーやネット広告カテゴリーに進出しようとしている。

ここまでは、いわば予選リーグのようなものだ。

同様に、モバイル領域の上位プレイヤーであるインデックスやサイバード、ネット広告領域の上位プレイヤーであるサイバーエージェントやオプト、セプテーニも他カテゴリーに進出してくるだろう。

IMJの得意領域もウカウカしていると逆にやられかねない。

このカテゴリーNO.1同士が、他カテゴリーを獲りに来るバトルロワイヤルに突入したのが2005年から2008年の決勝リーグ。

ここを勝ち抜かないと、これまでの盟主・電通や博報堂と対等に戦えるわけがない。

そろそろウェブ業界で1番になるための戦略「エピソード9」を
ヴァージョンアップさせる必要がある。

そこで、決勝リーグを勝ち抜き、ネットがテレビを超える時代の決勝トーナメントに出場するための新戦略「エピソード9 Reloaded」を構想した。

ちなみに、このネーミングは、大ヒットしていた「マトリックス リローデッド」から拝借した(笑)。

エピソード9 Reloadedの骨子は、
エピソード1からエピソード3までの3ヵ年で自社事業を成長させながら、
他カテゴリーのブティック型企業を買収し、
他カテゴリーでもNO、1を獲りにいく戦略。

エピソード4からエピソード6までのステージは、TSUTAYA2000店舗と2500万人会員データベースを使って、IT&SP(セールスプロモーション)分野で一番になる。

エピソード7からエピソード9の最終ステージでは、博報堂とより強力にタッグを組み、時価総額を上げて、電通超えに挑戦するというシナリオだった。

今のIMJグループの手なりの成長で売上300億円は見えてきていたが、
新しい中期計画で1000億円企業への成長イメージも私の頭の中には
はっきりと見えていた。

あとは、それを実行するのみ。

ところが、企業経営はそんなに甘くない。
イケイケドンドンでやってきたIMJに、
この後成長痛とも言える大きな試練が待っていたのである。

37  泣きっ面にハチ

 急成長の影に、どこかに油断があったのか、
 小さな歪みが少しずつ大きくなったのか、
 IMJに試練が訪れる。

 最初のつまずきはシステム開発のトラブル。
 納期が遅れ気味になり、なんとかしようと他のプロジェクトから人を送り込むが正常化しない。システム改修に入ったメンバーは「これは悪魔のループに入っています」と先が見えない不安感を口にする。

 さらに、助っ人を送り出してくれたプロジェクトの方も、人手不足で火を吹き出す。

 「いますぐ社長を連れてきなさい!」と顧客から直接呼び出しの電話がかかってくる。

企業責任として、プロジェクトからの撤退はありえない。
赤字を出してでも、やり遂げる必要がある。
顧客からは損害賠償の話が持ちが上がる。

社員の心身の状態も心配しながら、
プロジェクトの出口を探す。
どう考えても、億単位の損失は免そうも無いと腹をくくる。

悪いことは続く。
様々なシワ寄せで、社員の残業時間が膨らみ、深夜残業が増えていた時、
労働基準監督署が抜き打ち検査に来た。

「全従業員のタイムカードの調査と、裁量労働制の社員についても『みなし労働時間』以上の残業がないかどうか再チェックする」
その結果、過去数年分の超過分を積算して支払うよう勧告が出された。

 これも、「みなし労働」という線引きの緩さに甘えた自分の経営ミス。
下手な小細工をせず、この機会に企業の体質改善をしようと決めた。
今でいう「働き方改革」をやろうと心に決めたのだ。

 当時のIMJは、フレックスタイム制を導入していたので、出社時間はバラバラ。11時頃に出社する者もいれば、午後から出社するものもいる。
 仕事への責任感はみんな強いので、終業時間が後ろにズレ、22時、23時は当たり前の感覚。これでは健康にも悪いし、プレイベートもない。

この習慣を変えなければならない。
最低朝10時には仕事を始め、深夜残業になる22時には完全撤収するよう、定例会は朝10時に始め、会議も45分以内に短縮。
私は毎夜各フロアを周り、「もう終わって帰宅するように」と追い出しオヤジをした。

 企業体質を改善する良いキッカケにはなったが、その代償は追加残業代の支払い総額は1億円を超えて、当期業績をさらに直撃した。


そして、ダメ押しで起きたのがインサイダー事件。
株式5分割で急騰したIMJ株に絡むニュースがNHKで報道された。

容疑をかけられたのは、監査役のSさん。
「まさか、Sさんに限って」という寝耳に水の報道。

証券取引等監視委員会が会社に押しかけ、関係書類を没収し、
毎日のように取り調べをされた。

知っている事は全て包み隠さず話し、その調書を確認する。言ったことと違うニュアンスで書かれている文章も多々あり、それを何度も訂正する。

取り調べをされるって、こんなに精神的にキツイものなのか。
確認文書を認めて、早く終わりたい気持ちが頭をもたげてくるが、人の人生がかかっているし、企業の信用問題でもある。
細かなニュアンスまで丁寧に修正して対応しなければならない。

社員もこの事件がどう決着するのか見えない中、取り調べが続いているので社内は不安いっぱい。
もちろん、株価は急落。

結局、S監査役はインサイダー取引によって約900万円の利益を得たということで起訴されたが、S監査役の経済事情を考えると、どうしてそんな事をしたのか、いまだに私は不思議である。


このように、2006年終盤から2007年は、私にとって忘れることができない痛い一年となった。

が、IMJを次のステージにあげるために必要な成長痛なのかもしれないと前向きに捉え直し、「今までの延長線上ではない経営の仕組みを構築する」ために動き始めた。


38  クレドとマインドマップ

2007年のグループ総会。
私は全社員の前で、急成長による綻びが出始めた課題について総括し、
反省の言葉を述べた。

対外コミットメントの未達成、緩やかな連邦制の緩み、ロイヤルクライアントの失注、ワークスタイルの乱れなど、従来のやり方をリセットする必要があることを伝え、組織とマインドを変える決意を語った。

まずは目指すべき姿を明確に定義し、それを全社員と共有していくわけだが、
従業員も1000名を超えてきているので、
ニュアンス理解ではなく、言語化して理解・共有の差異を無くしていくことが
不可欠。

グループ社長会では、「ゆるやかな連邦制」の明文化とリニュアルについて
次のように宣言した。

IMJグループは、IPO後2002年から「ゆるやかな連邦制」という経営方針のもと、グループ経営を行ってきた。

それから5年が経ち、グループ社数も20社を超え、
「連邦制ガイドライン」をリニュアルする必要が出てきたように感じている。

1、 ニュアンス理解ではなく、言語化して理解・共有の差異を無くしていくこと。

 2、グループに属することによるメリット(権利)だけでなく、義務・OBライン、約束ごとを認識すること。
 3、経営者として、よりスキルアップし、成長するために、経営者として求められる指標やステークホルダーを意識する仕組みを導入すること(擬似外部評価と評価・報酬が連動する厳しさと緊張感の導入)
 4、グループ全体がひとつ上のステージに上がれるだけの経営力・マネジメント力・ガバナンス力を身につけていくこと。

このガイドラインは各社の経営を「管理する」ために制定するのではなく、
NG領域の共有をすることを目的としている。

ゴルフに例えると、打ち方や攻め方は各社の経営陣にお任せするが、
最低限のマナーとOBラインをグループで設定したい。

仲間内でラウンドしている時に許される「ローカルルール」も
プロのトーナメントになれば、より厳密にルール運用していく必要が出てくるという意味でもある。

このリニュアルが、社長会に出席している我々にとって
更にレベルアップし、成長していけるガイドラインになることを期待している。


そして、全社員向けには、
リッツ・カールトンに倣って、10個のクレドを策定した。

クレドはIMJの基本的な信念であり、価値基準であり、行動指針。
全メンバーがこれを理解し、自分のものとして受けとめ、
行動していくためのものだ。

1、個性の尊重
2、チームワーク
3、チャレンジ チャレンジ チャレンジ
4、手を挙げる
5、フリー・フェア・オープン

この5つは、私達が働くスタンス・マインド・風土についてのクレド。
まだまだ完璧とは言えないけど、この数年でかなり浸透してきている。

6、カスタマーインティマシー(クライアントとの親密性の徹底追求)
7、サプライズを提供する
8、クライアントの喜びを自分の喜び(モチベーション)に変える
9、同業他社を唸らせるハイクオリティの実現

新3ヵ年のグループ経営方針は、この4つの実現=3つのカスタマー・サティスファクション(CS)と、それによってもたらされるエンプロイー・サティスファクション(ES:従業員満足)。

要するに、「徹底的な顧客満足度の追求」をすることで、
「IMJグループを最高ブランド」に押し上げようということ。

最後10個目は、
10、私たちの使命は無限に広がるインターネット空間での街づくりです。

これは、20xx年、IT業界の「決勝トーナメント」に勝ち残って実現したい夢。
映画「マトリックス」の世界がこの世の中で実現することを考えた言葉。

さらに、このクレドをよりリアルに理解し、IMJの良い遺伝子を
確実に残していくために、具体的なエピソードをまとめた
「IMJマインドマップ」という冊子を制作し、全社員に配布した。
これは、いわばキリスト教の聖書にあたるもの。

幸先良く、この「マインドマップ」は
全国社内報コンクールの周年誌部門を受賞する。

IMJの反撃が始まった。

39  なんとヤフー超え?

行動指針にあたるIMJのクレドを策定した後、
経営理念「個性・チャレンジ・N0.1」の3つ目にある
「No、1である事業分野を持ち、最高ブランドの地位を築く」の実現に向けて
アクションプランの立案に取り組んだ。

これまでの量的拡大期から、質的深化期、ブランド構築期の3年に移行しようと位置づけたのだ。

IMJグループが考える「ブランド」とは、
単なる広告宣伝による知名度アップや、有名なビルに入居することによるステイタスを意味してはいない。

浮ついたブランドではなく、高いクオリティと顧客満足に裏打ちされるブランドの構築を意味している。
これまでの実績からくる信頼、期待を決して裏切らず、むしろ期待を上回るような顧客価値の創出。

長い年月をかけて培われるパートナーシップ、新規顧客が仕事を依頼したくても常連顧客の長期リピートによって、待っていただくしかないような「新規取引の敷居の高さ」、その顧客層の錚々たる顔ぶれ。

さらに社員にとっては、IMJグループへの入社難易度が高く、このチームに所属することに誇りを持てる。

そして、そうした事実が人々に噂され、自然と広まり、共通認識になる。

そんな状態が生み出す「ブランド」を創りたいと思ったのだ。
 
キーワードは、歴史と実績、絶えず向上する顧客価値、信頼とパートナーシップ、リピート、エスタブリッシュ、ESから来る採用人気度、希少性/限定感。   

この実現のために2つの方針を決めた。
ひとつは、ウェブインテグレーション事業の原液(IMJ単体)をより濃く、より競争力のある存在にするために、量的拡大を止めて、
仕事の需給バランスの逆転(獲るべき案件の明確化と獲らない案件の受け皿の用意)を進めること。

そして、人材の需給バランスの逆転(入社難易度が高く、競争風土のある社風)を実現するために、高付加価値をベースにした高い対価と高い報酬への制度変変更を行い、IMJ単体の組織拡大のスピードを緩め、生産性・単価UPに明確な舵を切ったのである。

この時、ベンチマークにしたのはマッキンゼー。
売上や利益額、利益率、一人当たり売上高や一人当たり利益額など、各指標を比較し、単なるウェブ構築企業からウェブマーケティング、ウェブコンサルテイング企業へ進化しようと考えた。

そういう意味では、IMJが現在アクセンチュアグループ傘下で、
ハイクオリティなサービスを提供できるようになっていることを
とても嬉しく思う。

もうひとつの方針「顧客満足度の徹底追求」については、
カスタマーインティマシー(CI)事業部と事業戦略本部を新たに設置した。

カスタマーインティマシーとは、1995年「ナンバーワン企業の法則」(著:M.トレーシー/ F.ウィアセーマ)に登場し普及した概念で、
・顧客と親密な関係を築き、関係を強固にすることで顧客を囲い込む。
・マーケットが欲しがるモノでなく、特定の顧客が欲しいモノを提供することに焦点をあて、一回もしくは数回の取引で損得を考えるのではなく、顧客の生涯価値を重視する長期安定した良好な関係を築いて戦略的優位性を構築する考え方のことである。

この考え方に基づき、ロイヤルクライアントを全社的にサポートする体制を構築、顧客向けの事例紹介誌の作成・配布や、セミナー開催。

 プロジェクトの現場同士のパイプとは別に、我々取締役も顧客の社長訪問を定期的に行い、ネット戦略や予算、課題を共有させてもらい、そのソリューションを考えた。

 今、日本ではデジタルトランスフォーメーション(DX)が注目されているが、当時もIT化に前向きな経営者と、腰が重い経営者に分かれていた。
 腰が重い経営者には我々が各業界の成功事例を伝え、啓蒙活動をする。
 結局、企業はトップ次第。この時、IT化を本気でやった企業とそうでない企業の差はこの後で大きな差になった。

 DXもそうだろう。企業に限らず地方自治体も本気で取り組むか、形式的にやるかで、市民の満足度が大きく変わってくると思う。


こうして、ブランド構築に取り組んだ結果、東洋経済が2009年に発表した
就職四季報ブランドランキングでIMJは男子総合99位まで躍進する。

ITソフトウェア部門では、3位サイバーエージェント、4位NTTデータ、
6位マイクロソフト、7位グーグル、9位楽天、10位がIMJ、11位ヤフー。

そう、ヤフー超えまで達成したのである(笑)。


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かしのたかひと

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かしのたかひと
リクルート、福岡ドーム、メディアファクトリーを経て、映画プロデューサー、ベンチャー経営者、政治家、作家に。