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【駅弁と私】亀戸大根エレジー。

今回は、下町の老舗割烹「亀戸升本」が作る弁当だ。

正確には、駅弁じゃないのだが駅チカデパートにはたいてい店舗があるから、駅弁として認定している。

箱を見てほしい。
この造形美はどうだろう。舟形と言っていいのか、グラマラスなスタイルが中の弁当本体までも美味しく映しているかのようだ。

五目寿司を左に控えさせつつの、右にはぎっちりとおかず群が陣取っている。ちなみにカップは、升本特製の亀辛麹(かめからこうじ)というピリ辛な調理料で、周囲のおかずの味わいに気の利いた変化をもたらしてくれる。

具だくさんな五目寿司と、色とりどりのおかず。さすが、老舗の割烹だ。

しかし、特筆すべきものがもう一つある。

五目寿司の下に、こじんまりと、ごく自然に乗っかっている漬物を見てほしい。これこそ、亀戸ならではのご当地名産品「亀戸大根」である。

亀戸大根は、文久年間(1861~1864)の頃、香取神社周辺で栽培され始め、さかんに栽培された明治の頃は「おかめ大根」とか「お多福大根」と呼ばれていましたが、大正初期に産地の名をつけて「亀戸大根」と呼ばれるようになりました。
当地は荒川水系によって出来た肥沃な粘土質で、大根作りに大変適していましたが、住宅化が進み今では「幻の大根」となってしまいました。
(中略)
亀戸大根は一般的なダイコンに比べ、茎が白く葉が大きく柔らかいのが特徴です。
クサビ状にとがった根は30センチ程度でわずか200グラムたらず。日本一小さいダイコンです。水分は少なめでキメ細かく、ダイコンというよりカブに近い食感なので、あさり鍋にもとても相性が良いのです。
ー亀戸升本より抜粋
https://masumoto.co.jp/ja/kodawari/

確かに普通の沢庵かと思い齧ると、大根より柔らかい。そこにたまり漬けの醤油の味わいが、生き生きと顔を出す。そして味わいと食感が一体となり、大きな水分となって、口の奥に消えていく。

儚い。これだけ華やかな弁当の中にあって、一番儚い存在だ。
だからこそ「君に逢ったときは、一番に愛でてあげよう。」と小さな使命感を背負わずにはいられない。

この亀戸大根を味わうために、また升本で弁当を買わなくてはならなくなった

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