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バレエ感想㊺「ホフマン物語」新国立劇場バレエ団

今回のレビューはあくまでも普通の会社員が新国立劇場バレエ団「ホフマン物語」を見た正直な感想であり、私が個人的にどう感じたかを素直に記載したものである。ちなみに私が見たのは2/23, 2/24夜, 2/25の3回である。

ストーリーについてはE.T.Aホフマンの原作やオッフェンバックのオペラが元になっているが、バレエ作品を制作するにあたり、色々と改編されており一貫性がなく、正直理解しづらいと思った。

そもそもの台本の流れがめちゃくちゃだったが、原因の一つとしては1幕の軽蔑や嘲りなどの表現だけでなく、3幕の退廃的な様子など、きちんと演技指導がされておらず、観客を物語に引き込めなかったことが原因ではないだろうか。

例えば、オリンピアを人間と勘違いしたホフマンを客人達が嘲笑するシーンで、全員笑ってはいるのだが、嘲りという冷たい感情が全く伝わって来ず、吉本見て楽しく爆笑してるようにしか見えなかった。例えばくるみ割り人形で印象に残った木村優子さんや西川慶さんは大爆笑しており、笑っていることはよく伝わってきた。でもそれは相手を嘲っているというよりも、全力でくすぐられているような楽しい笑いにしか見えなかったのである。おそらくこれについてはダンサーが悪いというよりも、嘲りの表現について、きちんと演技指導が行われていなかったのではないかと推測する。新国立劇場は演劇部門もあるはずだが、この舞台を見ているとバレエ部門と演劇部門の交流はなさそうだなと思った。(あくまでも私の推測である)

もっと酷かったのは、ずっと笑っているのが苦しいからなのか、途中で真顔に戻るダンサーがほとんどで、見ていて興醒めしてしまったことである。ずっと笑っているのは苦しいだろうが、真顔に戻ったダンサーを見た瞬間に観客として一気に現実に引き戻されてしまった。
だがこれも、あれだけ長時間ずっと笑っているという演出には正直無理があると思っていて、やはりきちんと演出面が考えられていなかったのではないだろうか。

だがそんな中で佐野和輝さんだけは、ずっとホフマンとオリンピアを馬鹿にした笑いをして、一瞬たりとも真顔に戻らず、観客を現実に引き戻さないように一生懸命演技していたので印象に残った。
ただし佐野さんの笑いも本気の冷たい嘲笑というよりは、小学生の男子が、同級生の好きあってる男女をヒューヒュー言いながらからかっているような、「あいつらマジかよ😂」「あいつらヤバイ😂」みたいな、健全なからかいの意から来ているような笑いだった気がする。
私のイメージしていた嘲笑とは違い佐野さんの表現はとっても健全だったけど、でもそれも馬鹿にするという表現の一つではあるなと思い、佐野さんの工夫を感じた。正直、普段の佐野さんの踊りからは人を馬鹿にするなんて一度もなさそうな、絶対悪い女に引っかかったことなんてなさそうな、超健全な雰囲気を感じる。そんな誠実そうなダンサーが全力で汗びっしょりになりながら一生懸命馬鹿にする演技を長時間していたのが印象に残った。健全さが佐野さんの大きな魅力ではあるが、今後ぜひもっと色々な表現も見せて欲しいと思う。心から期待している💕

余談だが、これを佐野ファンの知り合いに伝えたところ「佐野さんは香川出身のご近所さん!四国の人はいい人が多くて、誠実なの。佐野さんも絶対良い人で、周りをきちんと見てるし、いつも一生懸命踊ってる!」というよく分からない返事が来た😂
ご近所さんって、瀬戸内出身とは言えその佐野ファンは海を渡った隣県出身であるし、瀬戸内の人の考えるご近所の定義の広さに驚いてしまった。ちなみに香川が近所なら大阪も近所なのかと聞いたところ、瀬戸内海と大阪湾は全然違うから一緒にするな!というさらによく分からない返事が返ってきた😂(私からしてみたらどちらも海じゃんと思うのだが、瀬戸内海の郷土愛は強いらしい。)

ちなみにググったら佐野さんはやはり地元の人気者らしく、瀬戸内海の絆の深さは本物と感じた。若者からもマダムからも愛されてんだなぁ😊
周りから愛される地元の星、瀬戸内海のエトワール✨

さて、話を戻すが今回は「ホフマン物語」の上演回数が4回しかなかったこともあり、脇役にもプリンシパルやファーストソリストなど、普段主演級のキャストを演じるダンサーが惜しみなく配役された。その中でも印象的だったのが、ホフマンの友人役を踊ったプリンシパル速水渉悟さん、ファーストソリスト木下嘉人さん、そして中島瑞生さんの体調不良により急遽登板した森本亮介さんである。
それぞれの幕で豪華な脇役がいたが、正直この3名の実力がずば抜けていて、他の幕や他日の主要脇役はスパランツァーニの召使の福田圭吾さん以外記憶にない。

木下嘉人さんは踊りもにこやかで素敵だったけれど、最後のカーテンコールで4階席まで視線を巡らせ、観客への感謝の気持ちを表現していたのが印象的だった。
福田圭吾さんは細かい部分も気を抜かずにずっとお芝居を続けており、お酒を飲んで酔っ払ってしまう様子や、オリンピアに格好つけようとして何度も髪の毛を整えたり、ずっと役柄になりきっていて、見ていて非常に楽しかった。
同じく召使役の宇賀大将さんや菊岡優舞さんも表情豊かに頑張ってた気がするが、福田圭吾さんと比べると完全に霞んでしまっていた。ぜひ圭吾さんから沢山学んで、次に繋げて欲しいと思う。

エピローグは手袋をもらって喜ぶ瀬戸内海の佐野さんや、サインをもらって喜んでいた西川慶さん、アニソンの西一義さん、小野田陽斗さん達も楽しそうで、仲良さそうな雰囲気がよく伝わってきた。(くるみのネズミ軍団、絶対仲良いだろうなと確信😂🐭)

特に友人役の速水渉悟さん、木下嘉人さん、森本亮介さんの3人は非常に爽やかで仲が良さそうな様子だったが、のびのびと踊る速水さんや、にこやかに楽しそうに踊る木下さんに比べ、森本さんは非常に緊張していたのか硬さが目立ち、精彩を欠いていた気がした。
技術的には教科書のように正しく踊っており、早い動きの中でも絶対にパを端折らず、全ての要素を確実に決めていたにも関わらず、なぜ私は今回ガッカリしたのだろうか?

去年ドンキホーテで森本さんを見たときに、体中から溢れ出るリズミカルな躍動感に心奪われ、花のワルツでは内面から滲み出る上品さを感じさせてくれ、不思議な魅力を持つダンサーだと思った。
周りのダンサーの踊りは平面的にしか見えなかったが、森本さんの踊りはまるで紙芝居の中から3Dが浮かび上がってきたかのような立体感があった。それはおそらく音楽の中にあるアクセントや、フレーズの取り方を体現していたからではないだろうか。

速水さんや木下さんに比べると見劣りして見えた理由は、私が勝手に期待し過ぎたのものあるが、この硬さの陰に本来の表現力が閉じ込められてしまったからでないだろうか。
例えばドンキホーテや花のワルツの時には、他のダンサーは音楽を聞いて踊りの振りを当てはめていただけだったが、森本さんは拍子を感じながら、拍を軽妙に打ち付けながら踊っているような気がした。例えば、「いーち、にー、さーん、しー」と平坦にリズムを捉えるのではなく、「いちっ!にっ!さんっ!しっ!」とボールがバウンドするかの如く弾ませており、どんな静かなゆっくりな音楽であっても目に見えないリズムの反動があったと思う。音楽の中にある作曲者や演奏者の意図を汲みとっていたのではないだろうか。
以上が私なりに、なぜ森本さんの踊りに夢中になったのか、そしてなぜガッカリしたかの分析である。

森本さんの音楽をハッキリ表現する踊り方は熊川哲也さんにも通ずるものがあると感じており、熊川さんの映像を見て森本さんはレジェンドの踊り方を相当研究したのではないかと思っている。彼が代役に抜擢された理由は、ホフマンの友人の若々しさを表現するにあたり、この軽快で弾むような独自の音楽表現に大原永子さんや吉田都さんが気が付き、彼が役を楽しく表現できると判断したと私は推測している。
今回の踊りは森本さんが持っていた独特の音楽表現が、緊張により無理やり押さえ込まれてしまった気がした。技術は正確で全体的に悪くはなかったが、無駄な緊張感を持たずリミッターを外して踊ってくれていたら、どれだけ本来の豊かな音楽性を表現してくれたかと思うと、残念でならない。

最後に、せっかく森本亮介さんのことを書いたので、ついでに弟の晃介さんについても少し書きたいと思う。
結論から言うと、弟の森本晃介さんは非常に美しい見た目を持つダンサーだと思った。2幕の幻影のシーンでは、大好きな清水裕三郎さんのハンサムっぷりに見惚れていたが、下手側に非常に綺麗な、見た目の美しい男性がもう1人出てきたと思ったら、晃介さんだった。
ただし、若いからなのか線が細すぎて見ていてヒヤッとする場面はまだあると感じた。ローザンヌに出てくる将来有望なバレエ学校の優等生を見ている気分だった。

観客として晃介さんを見ていると、見た目は海外のノーブルダンサー並みに美しいが、サポートや踊りについてはまだまだ福岡雄大さんや兄の亮介さんなど盤石のテクニックを誇るダンサーには及ばないと感じた。だが、晃介さんが雄大さん並みのテクニックを獲得したら、間違いなく日本を代表する大人気王子ダンサーになると思う。ぜひ現在日本で一番知名度のある王子ダンサー雄大さんから沢山学び、色々なことを吸収してほしいと思った。

余談だが、先日バレエを全然知らない私の友達が森本晃介さんについて「あの青年は何て名前なんですか?ぜひ次の舞台を見に行きたいです」と言ってきた。まさかの晃介さんがきっかけで次の公演を一緒に見に行くことになり驚いたし、晃介さんはバレエを知らない人が見ても、やっぱり格好良く見えるんだなと思った。
晃介さんはバレエに興味がなかった私の友達が劇場に足を運ぶきっかけになる美しさを持っているのだから、ぜひこの魅力を全国展開し、バレエファンを増やしていってほしいと思う。

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