クラウドをリプレイスする?エッジAI/エッジコンピューティングとは。わかりやすく解説
こんにちは。AR技術に特化したスタートアップOnePlanetをやっています村上と申します。弊社はAR技術を活用した様々なソリューションを提供しており、日々世界中のAR事例を研究しています。
AR周辺を勉強していくと「Edge」「エッジAI」「エッジコンピューティング」といったキーワードに出くわします。
この記事は「エッジの概念についてよく知らないけど知りたい」という人を想定読者とし、エッジAI/エッジコンピューティングがどのようなテクノロジーなのかをわかりやすく解説しようと試みたものです。
弊社が取り組むARビジネスに、エッジAI/エッジコンピューティングがどう関係してくるのかという点も盛り込みますが、情報量が大きくなりすぎたのでここでは触りにして別記事で詳しく解説していきたいと思います。(毎週AR関連の情報を易しく噛み砕いた発信をしていきます。)
それでは以下、目次です。
エッジコンピューティングとは
エッジコンピューティングの凄さを端的に説明すると「クラウドのリプレイス」という表現がもっともインパクトがあるのではないかと思います。正確にはリプレイスというよりも「共存する状態になっていく」と言われています。
エッジコンピューティングとは、データを処理する場所を現在の「クラウド一箇所集中」の体制に対して、「大規模なデータは引き続きクラウドの力を借りつつ、現場(=エッジ側)で処理できることは現場でやろうね」という、データ処理の場所を現場(=エッジ側)へと分散させた体制のことを言います。分かりやすいですよね?
後述しますが、データ処理のタスクがクラウド上にあるサーバーに集中する状態からデバイスの近くにあるサーバーへと分散されることで大きなメリットがあり、そのメリットを享受するために発展している技術がエッジコンピューティング/エッジAIという技術です。
iPhoneのカメラには、暗闇で写真を撮っても明るく補正してくれる機能や、撮影後でも背景をボカすことができるポートレート機能などの様々な機能がありますよね。
これらの機能はクラウドAIを介することなくスマホ(エッジデバイス)だけでAIによる画像の補正ができるという状態であり、まさにエッジAI技術で支えられています。
Image Credit:Alice Donovan Rouse
エッジAIとは
エッジAIとは、簡単に言えば「現場で活用されるAIデバイス」のことです。先述のエッジ対クラウドの構図の通り、現在のAIはクラウド上で稼働する「クラウドAI」となっています。
そもそもとして、AIは大量のデータを高速処理して学習モデルを作ります。そのため、クラウドならば大量のデータを一極集中で処理して精度の高いモデルを作れますし、マシンを増設することも可能なのでスケーラブルです。
クラウドAIに対してエッジAIは現場主義。先述の通りスマートフォンなど現場にある(または現場近くの)デバイスでデータを処理します。
そのため大規模なデータの処理やマシンの増設はできない一方、クラウドAIで都度必要となる「通信」を発生させる必要がなくなり、これにより様々なメリットを受け取ることができるようになります。
メリット①リアルタイム性
クラウドから現場(デバイス)までの間には様々なSTEPがあります。
より詳しく言うと、スマホなどのローカルデバイスと、AWS/Azure/GCPなどのクラウド事業者の管理するデータセンターまでの間には、通信事業者の局舎と呼ばれるような施設を始め、様々なネットワーク接続点を通過します。
Image Credit:Taylor Vick
通信(=データの往来)の発生は、ユーザー体験に「遅延」というデメリットをもたらします。
より具体的なユースケースは後述しますが、これから先の社会ではよりリアルタイムにデータを返す必要性が高まるため、クラウドで処理させずに現場でデータ処理をさせるエッジコンピューティングの重要性が高まるという文脈です。
メリット②セキュリティ
つい先日もAWSのトラブルで様々なサービスが一時停止するといった問題が起こりましたが、エッジコンピューティングはセキュリティリスクを低減させると言われています。
全てのデータがクラウドに送信されているという状態は、事実上全ての情報をAmazon/Google/Microsoftなどのクラウド事業者が所有しているという状態でもあります。
秘匿性の高いものまで含めた情報管理はクラウド事業者のモラルに大きく依存しますし、また一箇所に依存することで以下の記事のようなセキュリティ懸念も高まります。
これをエッジへと分散させて非中央集権化させ、セキュリティリスクを低減させることができるという点がエッジコンピューティングのメリットの一つと言われています。
また、プライバシーの観点で考えても、遠隔地にあるサーバーに全てのデータを転送することが望ましくないケースがあります。
一例ですが、防犯カメラの高度化にもエッジAIが活用されています。
AIによる映像解析技術の向上により、映像内に写っている情報を自動判別できるようになってきており、テロや万引きなどの怪しい行動を未然に把握することに役立っています。
個人の特性まで把握してしまうようなデータなどはプライバシーの取り扱いが非常にセンシティブであり、エッジ側で基本的な処理を完結できるようなシステムが求められている背景の一つにもなっています。
メリット③通信コスト
リアルタイム性、セキュリティに加えて、クラウドにアクセスするたびに必要となる通信料金がかからなくなるというメリットもあります。
この記事では通信費の削減において、エッジコンピューティングがどの程度の経済効果になるのかという試算まではありませんが、ひとまず一石三鳥の技術ということでメリットの3つ目に記載させていただきました。
Image Credit:Damir Spanic
このメリットについては内容が薄いので、雰囲気づくりのために画像を差し込ませていただきました。真面目な話の息抜きに、キュートなブタさん貯金箱をお楽しみください。
代表的なユースケース①自動運転(トヨタ自動車)
ここからは、エッジAI/エッジコンピューティングがいかにすごいか?をより分かりやすく伝えるために分かりやすいユースケースをご紹介します。
エッジAIのメリットとして「リアルタイム性」と記載しましたが、瞬時の判断が求められるケースでエッジAIはその威力を発揮します。そして瞬時の判断が求められるケースとしてよく挙げられる分野が「自動運転」です。
例えば、走行中の自動運転車の前に突然子どもが飛び出してきた場合、いちいちクラウドで状況判断するわけにはいきません。
Image Credit:Cleyton Ewerton
たとえデータ処理が瞬時に行われたとしても、送受信にかかるわずかなタイムラグが人命を左右する恐れがあります。また現場の通信環境に依存してしまい、通信環境が良くない状況下では機能しないといった問題も起きてしまいます。そうなるとやはり、現場への権限委譲ですよね。
このタイムラグや通信環境依存の問題は、現場(=エッジ)でデータを処理することでクリアできるため、自動運転分野では特にエッジAI/エッジコンピューティングが活躍すると言われています。
実際に自動車業界はAIを含むエッジコンピューティングの活用に力を入れており、2017年にトヨタ自動車は自社を中心に様々なステイクホルダを巻き込んだ専門の団体を設立しています。
代表的なユースケース②映像配信技術(SONY)
エッジAIを活用して映像処理にイノベーションをもたらしたSONYの「Edge Analytics Appliance」というプロダクトをご紹介させていただきます。先端技術を活用したSONYのプロダクト開発の一端に触れていきましょう。
プロダクトの紹介動画では、授業をする先生の後ろにあるホワイトボードを認識して、その部分だけ登壇する人物を透過する機能が見て取れます。
授業で使うホワイトボード/黒板の前に先生が立ってしまって「ちょっと、見えないんだけど」と思った人は、歴史上どれだけいたのでしょうか。ホワイトボードの前に立つ人の後ろ部分まで可視化させたことは画期的なイノベーションだと思いました。SONYすごい。
このような高度な画像認証の技術の裏側にある「機械学習のモデル作り」はクラウドで行い、「推論」の部分をエッジが担っているという構成です。
この場合のエッジは現場にある端末=プロダクトそのものを指しています。そのためにSONYは商品名に「エッジ」とつけたのでしょう。
このプロダクトを活用してセミナーや授業の撮影を使えば、壇上で動き回る登壇者を追いかけたり、背景にあるホワイトボードを自動で可視化させたりした映像を現場にあるエッジAIがリアルタイムかつ自動で処理してくれるため、これまでにない高度な映像をリアルタイムで配信することができます。
外出自粛のこのマーケット環境は、昨年リリースされたこのプロダクトにとっては追い風でしょう。この製品の詳しい解説はかなりの情報量になってしまったのでここではサマリーだけにして、詳細は下記にまとめました。
ARビジネスにおけるエッジAIの活用について
弊社が取り組んでいるAR分野でも、エッジAIは大いに活躍しています。
ですが、このARとエッジAI/エッジコンピューティングの組み合わせについての内容をこの記事に入れてしまうと、これもまた情報量が爆発してしまうので、どんな感じになるのか?という動画だけ以下に載せます。
非常に未来を感じられる動画なので、ぜひ見てみてください。
このテーマも別記事にして来週以降に展開しますので、よろしければnoteや
Twitterをフォローしてくださると嬉しいです。(宣伝すいません)
エッジAIはいつ定着するか
ガートナーのハイプサイクル2018では、エッジAI技術は「黎明期」から「過剰な期待のピーク期」に差し掛かる段階にプロットされています。
その後やってくる「幻滅期」を経てから社会に定着することを考えると、まだ「幻滅期」の手前の「過度な期待のピーク期」にこれから差し掛かるため、社会実装は少し先の話になりそうです。
濃い青色は「5〜10年」がかかると言われる技術なので、2030年ごろには当たり前になるというイメージでしょうか。
しかし、先述のSONYの事例のようにエッジコンピューティング/エッジAIを活用したプロダクトは人工知能が現場仕事をする=人の移動の必要性を減らして体験価値を高めることができるため、昨今の市場環境の変化に伴って想定よりも先行してマーケットフィットする事例も登場してきそうです。
まとめ
長くなりましたが、以上でエッジコンピューティング/エッジAIを日本一分かりやすく説明することを目指した解説記事をこちらで終えようと思います。
後日、書ききれなかったテーマとして、SONYのプロダクトの詳細や、ARビジネスにおけるエッジAIの活用シーン、現場(エッジ)で仕事をしているAIチップについての記事など、
関連するテーマのnoteを上げていこうと思っていますので、よろしければ励みになる「いいね/シェア/フォロー」など、ぜひお願いいたします!
また、弊社ではARを活用した新しいソリューションの提供/開発を行っています。ご興味のある企業様はぜひお気軽にお問合せくださいませ。
次の時代の新しいプロダクト開発に興味がある仲間も募集していますので、エンジニアやデザイナーの方からもお気軽に絡んでもらえたら嬉しいです。
それでは長文にお付き合いいただき、ありがとうございました!
ありがとうございます!