ソフトバンクホークス4軍戦でのRapsodo Stadiumデータを公開 〜四国アイランドリーグplusデータレポート(9月11日週号)
Rapsodo Stadiumのトライアル時のデータを公開
上の記事などで書いていた通り、7月、8月と試合中のトラッキングデータ活用のトライアルとしてRapsodo Stadiumでの計測を6試合行いました。
今日はその際のデータの一部、ソフトバンクホークス(以下、SBH)の投手のデータを公開します。念のため球団のスタッフにも事前に確認しましたが、特に問題ないとなったので、リーグとしての当初からの方針通り取得できたデータを公開していきたいと思います。
記事執筆前提となるリーグでの自分の役割は、次の記事をご覧ください。
四国のチームとSBHとの試合にはどのような種類があるのか?
まず、2023年は四国アイランドリーグplusとSBHがどのような交流を行っているのか整理しておきましょう。
SBHの3軍、4軍との試合は3種類あります。
まず1つ目は上のリンクに書かれている「2023年定期交流戦」。これは四国アイランドリーグplusの公式戦扱いになる試合です。試合の勝敗や個人成績がリーグの他の四国のチームとの戦い同様に扱われるので、四国の各チーム側から見ると重要性の高い試合です。
このSBH3軍との定期交流戦は長く行われていますが、近年はSBH3軍と四国の各球団が実力伯仲の勝負をしています。2022年は勝ち越しこそならなかったものの、得失点差ではプラスになるという状況でした。
2023年のSBH3軍戦(定期交流戦)は今週月曜日で全て終了しましたが、4軍創設で育成選手の層が厚くなった影響か、リーグ全体で6勝18敗と苦戦が目立ちました。特に四国の得点が大幅に減っており、SBHの投手層が厚かったと考えられます。
「定期交流戦」は四国から見ると公式戦扱いですが、SBH3軍戦には公式戦扱いにならない試合もあります。
SBHのホームページに記載されているように、公式戦2連戦+1戦の予備日が最初からスケジュールされており、予定通り公式戦となる試合を消化した場合は予備日に3軍と練習試合を行っています。
また、3軍戦とは別で新たに創設されたSBH4軍との試合もあり、これもリーグの公式戦にはなりません。
各カテゴリでの2023年の試合成績を見てみると、上の表のようになります。
四国の各球団はSBHほど投手層が厚くないため、公式戦で優先的に戦力をつぎ込んだ結果として、3連戦の3戦目にあたるオープン戦では1試合も勝てませんでした。
また、4軍戦でも負け越していました。公式戦のない週末に試合が行われることが多く、3軍との練習試合と比べると四国のチームが主力投手を当てやすい状況ではありますが、SBHの壁は高かったようです。
4軍創設のため、SBHの育成選手54人は四国各球団の選手数の1.5倍程度の規模感になっており、加えて今年は3軍戦でも髙橋純平など実績のある支配下の投手が投げる場面が多々ありました。
見方を変えると、この環境はNPBを目指して切磋琢磨する場としては貴重であり、特に相手投手のレベルが上がることで打者の成長にとって有益な打席が増えたと思われます。この中で結果を残せている選手の評価は例年以上に高いのではないでしょうか。
8/5、6に行われたSBH4軍との練習試合のデータを公開
以上のようなSBHとの交流戦の中で今回は「愛媛 vs SBH4軍」の試合でデータを取得できたので、その際のSBHの投手のデータを公開していきます。
その時の試合映像をリンクで貼っておきます。
最初に、今回のトライアルの前提、公開データの前提を箇条書きでまとめます。
このような前提を踏まえてデータを確認いただければと思います。
今回は各投手の球種別の「球速、リリース時の発射角度(縦、横)、変化量(縦、横)、回転数、有効回転数」の平均値をまとめ、取得出来たデータの数も記載しました。
さらに、各投手の球種別の変化量について1球ごと、平均値を左右に並べる形で表示しています。変化量の図の見方については下の記事をご覧ください(MLBの変化量のデータ)。
左投手のデータ
まずは左投手を見てみましょう。今回は5名の投手が登板していました。球速はちょっと速く、回転数も大きめに出ていますが、その辺りを踏まえて見られれば、使いようは十分にあると感じています。
ただ、このシステムできちんと測るためには運用の慣れは必要で、その辺りは今後の改善点となりそうです。
投手ごとのコメントは変化量の図のパートで行いますので、ここでは表の見方を記しておきます。
それでは、各投手の変化量を見てみましょう。この図は左が1球ごとのデータ、右が平均のデータです。右の図の凡例には「平均球速、最も速い球種との平均球速比、平均回転数」も載せています。度々ですが変化量の見方はこちらでご確認ください。
自分も現地にはいたものの、1か月前の試合なので各投手のイメージがあまりないのですが、球質のデータから各投手への感想を書いてみることにします。変化量のデータを見て感じたことを書いているだけなので、参考情報程度に見ていただければと思います。データを解釈する上での観点を知れるように、できるだけ多角的にコメントしたいと思います。
まず岡本直也(映像はこちら)は縦方向の変化があるストレートに加えて、カットボールに近いスライダーとチェンジアップ、縦のスローカーブを持っています。
91球中67球しか計測できなかったのは、主には投球のテンポがかなり早く計算処理が間に合わなかったためです。岡本の場合は球質よりもテンポの早さに強みを持っていると感じました。
今回の投手の中で3軍戦で一番多く投げているのが加藤洸稀(映像はこちら)です。ストレートの再現性が高いのは特徴で、スライダーもストレートに対する球速比が90%程度を保った中で変化させています。特殊な球質ではないので、さらに上のレベルに向けて、このタイプだとまずはリリースを低く、かつ球速を追い求める方向に行くかなと感じました。
佐藤宏樹(映像はこちら)は取得できた球数は少ないながら4球種を投げており、変化量は縦方向に一直線で並んでいる特徴があります。球速は速いですが変化量が大きくなく、打者のレベルが上がったときにバットに当てられてしまうタイプに見えるので、最終形態として横手投げを勧められる可能性のあるタイプかと思います。
佐藤琢磨(映像はこちら)は横手気味の左腕です。13球なのでこれ以外の球種もあるかと思いますが、基本的にはストレートとスライダーで左打者を抑える役割を期待されると思いますので、分かっていても打てない球速やフォームの工夫が支配下登録への鍵になりそうです。
村上舜(映像はこちら)は4球種の変化量が斜めに一直線となっています。一見、上手投げに見えるフォームながら横気味に腕が出てくるため、ストレートがホップ方向よりもシュート方向へ変化しており、変化量だけ見ると横手投げの投手です。ストレートの球質とフォームには特徴があるので、変化球を色々と工夫しがいがありそうに見えます。
右投手のデータ
次に、右投手。計測できたのは3名でした。最初に注釈を入れておくと、このデータのうち水口創太と内野海斗のストレートの回転数は明らかに正しくないです。ただ、今回は検証すること自体が目的のひとつなので、そのまま記載する形にしました。
その他、球速や回転数がやや高いのは左投手の傾向と近いです。
早速、各投手の変化量を見てみましょう。
水口創太(映像はこちら)は京都大出身の1年目右腕で、195cmの長身です。ストレートが「真っスラ、真っ垂れ気味」でかつ195cm右腕に期待されるほどの球速ではないので、今後どのような成長を見せるか気になります。スライダーの横曲がりは大きめなので、個人的には大谷翔平のようなツーシーム&スイーパーのタイプに変わっていくと面白いかなと思いますが、球速がそこまで速くないのでどうなるか。すでに24歳であり、どのような順序でパフォーマンスを伸ばすか注目しています。
大竹風雅(映像はこちら)は他の投手とはちょっと違う波形をしています。真っスラ、カット、速めのカーブ(スライダー)、カーブ、フォークを投げていました。このタイプの波形でここ10年間、MLBで一定の活躍をしているのはミネソタ・ツインズ(MIN)のソニー・グレイ(映像はこちら)かと思いますので、グレイの変化量を貼っておきます。
真っスラタイプは上のレベルになればなるほどストレート単体で打ち取る投手ではなく、グレイの変化量からも見られるように、スライダー方向の変化とシュート方向のファストボールを工夫して覚えて欲しいタイプだと感じています。
最後に19歳の内野海斗(映像はこちら)のデータです。内野の場合は、高卒1年目の夏の時点でストレートとフォークとカーブの3種類を実戦で投げ分けられているので、これを1シーズン繰り返すだけでも現時点では十分と感じてしまいます。少し余裕があれば、カーブとスライダーを明確に投げ分けるチャレンジはしても良いかと思います。現状、カーブの変化量もバラけていますが、変化量の少ない(原点に近い)カーブの方が球速が遅かったので、スライド方向の球はすべてカーブにまとめておきました。130キロ台で縦方向の変化が少なく、横変化はカーブと同程度のスライダーをもし操れるなら、支配下登録が近づくと思います。
9/22に始まる「トリドール杯 チャンピオンシップ」でもRapsodo Stadiumのトライアルを行う予定
さて、ここまでSBH4軍の投手のトラッキングデータを見てみました。
MLBではSTATCASTなどで1球ごとの球質のデータが映像とともに公開されていて、データに興味を持つファン向けの取り組みが進んでいます。
一方で、日本のプロ野球ではプレーの詳細なデータを公開することが難しい状況となっています。
今回の取り組みは、選手のリテラシー向上のためのものでもありますが、リーグを応援してくれるファンやスポンサーの方々の期待に応えていくためという意味も強くあります。
この取り組みに限らず、リーグとしては四国アイランドリーグplusが先陣を切って、新しい取り組みを行う意志があります。トラッキングデータのトライアルもそのひとつです。持続的で魅力のあるリーグを創り続けるためにも、今まで興味を持つきっかけがなかった様々な方も巻き込みながら、運営を進めていくことが大切だと考えています。
なお、9月22日から行われる「トリドール杯 チャンピオンシップ」でもRapsodo Stadiumのトライアルを行う予定なので、ぜひ試合とともに、新たな取り組みにも注目していただければと思います。