史上最高のMV集#2-珠玉5選-【ブンガク×オンガクVol.2】

【前回】史上最高のMV集1-ヒロ・ムライ作品-

前回は、ヒロ・ムライのMV特集になってしまったので、今回はジャンルを絞らず、特に好きなMVを5つほど紹介したいと思う。
僕は、食べ物でも人間でも「ちょっと癖のあるやつ」が好きなので、そういう指向は出ているかもしれない。

Fatboy Slim 『Weapon Of Choice』(2001)

俳優のクリストファー・ウォーケンが、ホテルで踊りまくるというシンプルな内容ながら、中毒性の高いMV。

ウォーケンといえば『ディア・ハンター』でアカデミー助演男優賞を獲得するなど、癖のある芝居が魅力的な俳優だが、舞台ミュージカル出身なのでダンスもお上手。
単に歩くだけで身体表現になるんだと、大変勉強にもなる。

楽曲のファットボーイ・スリムは、UKのミュージシャンで個人プロジェクト。
ちょっとすかしたというか、とぼけた雰囲気の音楽と、ウォーケンのくだけたダンスが噛みあい、深夜の学校に忍び込んでいるようなドキドキ感が生まれ、思う存分踊りまくる爽快感が心地よい。童心に帰る。

映像監督はスパイク・ジョーンズ。
『マルコヴィッチの穴』の監督と言うと、膝を叩く映画好きも多いだろう。
極めて独特な感性が、このMVでもいかんなく発揮されている。

Massive Attack, Young Fathers 『Voodoo In My Blood』(2016)

女優のロザムンド・パイクが出演する、狂気に満ちた、ちょっぴりホラーテイストなMV。

パイクは『007 ダイ・アナザー・デイ』や『ゴーン・ガール』などへの出演で有名だが、UKの舞台女優らしい、実にダイナミックでイマジネーションに溢れた身体表現を見せてくれる。
彼女が謎の球体に操られているという内容の映像で、非人間的な動きが本当に怖い。

楽曲のマッシヴ・アタックは、UKのオルタナ界隈(個人的にはエレクトロニカ方面から知った)で1980年代から活動する老舗ユニット。
毎回、実にクリエイティブなMVを提供してくれるので、どれを選ぼうか迷った。
今作はヤング・ファーザーズとのコラボ。

映像監督のリンガン・レドウィッジは、UKのCMディレクター。
伝説のカルトホラー映画『ポゼッション』のオマージュとのことで、これまた映画好きは膝を打つところか。

Pharrell Williams 『Happy』(2013)

このあたりで、正統派というか、ミュージシャン本人が出演する、いわゆるThe MVとして良質な作品を。

ファレル・ウィリアムスは、アメリカのミュージシャン。どちらかと言えば、楽曲提供やプロデューサー色の強いファレルが、ソロシングルでヒットさせたのが『Happy』だ。

実にハッピーな映像に触発されたのか、いわゆる「踊ってみた動画」が全世界から投稿されて話題になった。

さて、(数多くの著名人も出演しているが)市井の人々の姿を切り貼りしていくというアイディア自体は、MVにおいて割とありふれたもの。
だが、この作品の比類なく素晴らしいポイントは、「音楽的進行」と「映像コンセプト」が見事にマッチしているところだ。

パーカッション、ベースライン、キーボードにファレルのリードボーカルという、シンプルな楽器構成で曲が始まる。
そこに、人々のクラップ(手を叩く音)が入ってきて、ゴスペル風のコーラスが入ってきて、気づけば、パーカッションは控えめになり、キーボードはなくなり、クラップとコーラスとベースライン&ファレルの歌声がメインになっていく。シンプルな構成で始まったのに、さらにシンプルに!
しかも、曲自体は何故か盛り上がっていっているように聞こえる。こんなにシンプルな構成なのに、とっても複雑な音楽的面白さを生み出している。

クラップやコーラスという「人が直接生み出す素朴な音」が「ハッピー」の大元だと言わんばかりだ。

そして、映像はといえば、人々が思い思いに、ただ楽しんで踊っているシンプルなシーンが続いている。
映像でも「素朴な人間」がハッピーを生み出しているというわけだ。

このあたりの、音楽・映像コンセプトの絶妙なマッチングに拍手!

lyrical school 『RUN and RUN』(2016)

続いては、日本のMVをば。
このMVは、ぜひスマホで縦型映像にてご覧いただきたい。

リリカルスクールは、日本のヒップホップアイドルユニット。
音楽的には、あどけないヒップホップ風Jポップといった感じで、そこまで特筆すべき点はないが、本曲のMVはアイディアと表現方法がよく練られており、ぜひ取り上げたい。
カンヌ・ライオンズのサイバー部門で銅賞もとっている。

SNS画面風のMVというのは数あれど、縦型MVに落とし込むブラッシュアップの丁寧さ、そして、AR(拡張現実)を思い起こさせる、Twitter画面から飛び出してくる表現には、素直に驚く。

映像監督の隈本遼平氏によると、Twitter画面を印刷したボードを使い、アナログに撮影しているシーンも多く、特撮に通ずるような工夫が随所に見られるところが、実に日本的。
こういう細かなアイディアを積み重ね、現代的なガジェットを利用しつつ、ポップに仕上げるという日本的なMVもいいもんだ。

Sigur Rós 『Hoppípolla』(2005)

最後は、シガー・ロス。
アイスランドの世界的ポストロックバンド(個人的にはアンビエントっぽいロックと言う方がしっくりくる)。

曲名の『Hoppípolla』は「水たまりにジャンプ」という意味。

あまり、ああだこうだ言うのは無粋なタイプの、純粋に胸にじんわりくる素敵なMVだ。

全体的にスローモーな映像と、シガーロスのゆったりとした音楽が、老人たちの緩慢な動きとマッチしつつ、しかし彼らの心の躍動感は、本曲を聴きながら生まれる高揚感とリンクする。

人間は年をとっていく中で、色んなものを得たり失ったり、できるようになったり、ままならなくなったりしていくけれども、生まれてから死ぬまで「人間である」という点において変わらない、そんなことを僕は感じた。

途中で万引きをするシーンや、グループ同士で戦争ごっこをするシーンがあり、その愚かさや、ある種の残酷さや、血を見て逃げていく滑稽さは、現実で起こっている様々なことを想起させる。
でも、そういうものを全部ひっくるめて、人間の本質って「水たまりにジャンプ」するような無邪気さなんだよね、と言っているようなおおらかさも感じた。

やっぱり、シガー・ロスはいい。


という感じで、ちょいと長くなったが、人に薦めたいMV五選をお届けした。
次にMV特集をするときは、ジャンルやコンセプトでまとめるなどもしてみたい。

ではまた。

(筆者)キャンディ江口
キャンディプロジェクト主宰。
作家、演出、俳優。
映像出演時は「江口信」名義。(株)リスター所属
Twitter:@canpro88
HP:http://candyproject.sakura.ne.jp/

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