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毎日パンを焼く意味

長年お世話になっていたはてなブログから、noteへ移行した。この際だからと、ブログ名も「生まれたての宇宙」から「カレーになりたい」へ。私に言わせてみれば、宇宙もカレーも同じだ。そのすべてを知ることができないけれど、日々新しい何かが生まれて死んでいく。自然も、汚染も、すべての動物も、すべてを寛容に包み込んでくれる宇宙と、カレーは似ている。スパイス、油、温度、塩、食材の組み合わせだけで、天文学的な数のカレーができるんじゃないだろうか。

最近の私は、パンを上手に焼けるようになってきた。まさか自分が天然酵母を起こしてまでパンを焼くなんて。と、我ながら吃驚である。何故なら、パンよりご飯が好きで、ご飯よりカレーが好きだから。パン作りにはまるきっかけとなったのは、「シフォンケーキ作り」だった。

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去年焼いたシフォンケーキ。

しっとり口溶けの良いシフォンケーキを作るためには、メレンゲ作りが重要であることに気付き、何日も試行錯誤を繰り返した。卵白を攪拌する時間、砂糖を入れる回数、使う道具に油や汚れがついていないか気を使う必要がある。書籍やYoutubeからも情報を得て、夜寝る寸前までメレンゲ作りのイメトレをしていた。一時は、シフォンケーキのせいで眠れない夜を過ごしたほどだ。パティシエでもないのに。こういう探究心の強さが、私らしい。

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シフォンケーキに対する叡智が詰まったメモ。

シフォンケーキと対峙する中で切っても切り離せないのがそのデリケートな気質である。先述した通りメレンゲが要なわけだが、新鮮でない卵の卵白を使うと水分が多いので泡立ちが悪かったり、使う砂糖を変えるだけで離水するタイミングが変化する。また、暑い季節で作るにはメレンゲだけではなく本生地の温度も調整する必要がある。なんでこんなデリケートで気難しいシフォンケーキを馬鹿みたいに毎日焼いてたんだろう。でもね、食べるとわかる。あんなに気難しい人が、こんなにもしっとり柔らかく美味しい人に生まれ変わるんだねって。
変数が多い分、自分で応用を効かせる幅が広がるので、それに比例して難易度が上がるけど、そういう研究っぽいのがやっぱり好きなんだな。とシフォンケーキによって気付かされた。
随分と前置きが長くなってしまったが、このような紆余曲折を経て、「パン作り」への扉を叩くこととなった。
ここで、「パン作り」を「パン作り」と一言で括っていいんだろうか。という疑問が生まれる。というのも、私の中では「パンを作る」というより、「パンを育てている」感覚に近いのである。だから、私のパンは仕込みから焼き上がって口に入るまで2-5日の時間を要する。天然酵母を育てるのには、夏場でも最低一週間、冬場では温度調整を随時しながら一週間以上はかかる。(作る材料、環境によっても大きな変動がある)天然酵母と一口に言っても、大きく二つに分けて、植物から育てたもの(酵素が存在するものなら何でも育てられるらしい)、はたまた粉と水だけで育てたものの違いがある。(詳しく言うと、もっとたくさんあるんだろうけど、私は専門家じゃないので割愛する。)
パン作りにはまった当初は、安売りされてた大量の無花果、ご近所の方からお裾分けしていただいた葡萄、ぼけてしまった林檎、食べ終わったみかんの皮、家の庭に生えっぱなしのローズマリーなどの植物を使った天然酵母から始まった。
毎日の温度管理、空気の出し入れ、攪拌、砂糖添加などを行い、大事に大事に育てて焼いたパンの美味しさたるや。その感動は忘れられない。
植物由来の天然酵母で十分な満足感を得ていた私だが、溢れ出る探究心止まらなくなり、粉と水だけで起こすルヴァン種について情報収集を始めることとなる。
基本的には、先述した植物で作る天然酵母と同様のフローで育てるようだが、温度管理が難しいらしい。「温度計使うのめんどくさいな。」と、尻込みしてしまい手付かずでいた中、とあるベイカーさんの記事にある一文に目が止まった。「ルヴァン種で焼くパンの美味しさは比にならない」おいおいおい。植物由来の天然酵母パンでもこんなに美味しいっていうのに、ルヴァンで焼くパンって一体どれだけのブツなんだい?!と、私の中のイーサン・ハントが叫んでいた。「もうこれはやるしかない!」と、今まで尻込みしていた自分はどこへ行ったのやら、すぐにルヴァンを育てるための環境を用意した。育て始めの頃は、やはり温度管理に四苦八苦した。「こんな寒い冬場に始めるべきじゃなかったか、、、?」私の中のイーサンがか弱く呟いた。いや、そんなことはない。酵母の力を侮ってはいけませんよ。と、自分を奮起させ、なんとかルヴァンっぽいものへと育てて行った。「お、これルヴァンになったかも」と、確信を持てたのは香りの違い。粉と水だけで発酵させたとは思えない、喩えるならメロンのわたとか、熟れたバナナのようなフルーティーな香り。粉と水という至ってシンプルな材料で、時間と少しの手間、そして大きな忍耐力で育てたルヴァン様。あなたで一体どんなパンが焼けるって言うんです?お手並拝見と行きましょう。こんな具合で初めて焼いたカンパーニュ(サワードウブレッド)。

私の初カンパーニュ(サワードウブレッド)。

その美味しさに思わずため息が出てしまった。大袈裟ではなく、今まで自分が焼いたさまざまな食べ物の中で一番に美味しかった。いま、想像しているだけで涎が出る。この素晴らしい体験がきっかけとなり、今日まで毎日のようにパンを焼き続けている。本当は他にも伝えたいことがたくさんあるけど、詳細に書いてしまうと長くなるので、泣きながら割愛。以上が私が毎日パンを焼く意味である。

かけ継いで半年目のルヴァンさま。

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