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R'evolution

【五芒星】

其は人間である。循環である。変化である。 順であれば守護となり、逆であれば闇に堕ちる。 

普遍なる場所にて。

 朗読する男。

A)第三の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきてた。そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。この星の名は「苦よもぎ」と言い、水の三分の一が、「苦よもぎ」のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ。第四の御使が、ラッパを吹き鳴らした。すると、太陽の三分の一と、月の三分の一と、星の三分の一とが打たれて、これらのものの三分の一は暗くなり、昼の三分の一は明るくなり、夜も同じようになった。また、わたしが見ていると、一羽のわしが中空を飛び、大きな声でこう言うのを聞いた、「ああ、わざわいだ、わざわいだ、地に住む人々は、わざわいだ。なお三人の御使がラッパを吹き鳴らそうとしている」。

 ゴシックロリータの少女が現れる。

B)何読んでるんですか?

A)黙示録。

B)面白いですか?

A)全然。

B)じゃあ、何で読んでるんですか?

A)世界が滅亡すればいいのにと思って。

B)どうしてですか?

A)明日テストだから。

B)テスト嫌いなんですか?

A)好きなヤツなんていんの?

B)兄は好きでした。

A)お兄さん?

B)はい、毎日のように勉強してました。

A)頭良いの?

B)いつも学年一位を取ってました。

A)どこの学校?

B)学校には行ってません。

A)は?

B)兄は自殺しました。一位を逃したことがショックだったみたいで。

A)大変だね。

B)スッキリしました。

A)スッキリ?

B)兄がデキるので、私はいつもダメ妹扱いだったんです。だから私、嫌いでした、兄のこと。……母は、兄のことお気に入りみたいでしたけど。自慢できる良いお兄ちゃんだ、でもお前は何の取り柄もないゴクツブシだ、恥さらしだって。だからスッキリしました。兄が死んで、母は父と喧嘩して、家を出て行って。私は今、幸せです。

A)幸せ、ね。

B)幸せです。あなたは幸せですか?

A)……主観的に言えば幸せじゃない、けど、客観的に見れば幸せに見えなくもない。まぁ、幸不幸って主観的なものだと思うから、自分の考え方を変えれば良くて、要はテストを楽しめばいいってことだけど……断固拒否する。

B)どうしてですか?

A)嫌いな教授の科目だから。気に入らない学生の人格否定して吊し上げとか、人として最低。死ね。

B)気に入らない学生なんですか?

A)昔から先生には好かれない方だったけど、あんな露骨なのは初めて。お前こそ小学生からやり直せって感じ。

B)同じですね、私と。

A)どこが?

B)押し潰されそうになってるところ。私は解放されましたけど。私のお兄ちゃんになってもらえませんか。

A)は? 何で?

B)あのお兄ちゃんは、偽者です。あなたが本物。

A)本物ね。良いけど。

B)お兄ちゃん、その本読ませて。

A)難しいよ、

B)難しい?

A)解釈が。

B)第五の御使が、ラッパを吹き鳴らした。するとわたしは、一つの星が天から地に落ちて来るのを見た。この星に、底知れぬ所の穴を開くかぎが与えられた。そして、この底知れぬ所の穴が開かれた。すると、その穴から煙が大きな炉の煙のように立ちのぼり、その穴の煙で、太陽も空気も暗くなった。その煙の中から、いなごが地上に出てきたが、地のさそりが持っているような力が、彼らに与えられた。彼らは、地の草やすべての青草を、またすべての木をそこなってはならないが、額に神の印がない人たちには害を加えてもようと、言い渡された。彼らは、人間を殺すことはしないで、五か月のあいだ苦しめることだけが許された。彼らの与える苦痛は、人がさそりにさされる時のような苦痛であった。その時には、人々は死を求めても与えられず、死にたいと願っても、死は……。

 Aはいつの間にかいなくなっている。

 パンクスタイルの女が現れる。

C)何それ。

B)黙示録。

C)面白い?

B)面白いです。

C)ふーん。あんたさ、死にたいと思ったことある?

B)え?

C)ウチはあるよ。だから最初剃刀で手首切ろうとしたんだけど、怖くてできなかったから、ネットで一緒に死んでくれる人募集したの。三人集まって、練炭自殺しようってことになって、睡眠薬飲んでからやったんだけど、全然眠れなくって、途中で苦しくなって、窓開けちゃった。

B)そうなんですか。

C)あんたは死にたいと思ったことないの?

B)殺したいと思ったことはあります。

C)誰を?

B)内緒です。

C)ウチのこと殺してって言ったら殺してくれる?

B)駄目です。

C)そ。殺人のニュース見るたびに思うんだよね。私のこと殺してくれればいいのにって。

B)何でそんなに死にたいんですか?

C)何でそんなに生きていたいの? ……ウチね、間違えて生まれてきちゃったんだよ。

B)間違えて?

C)ホントは産みたくなかったんだって、ウチのこと。デキちゃったから、仕方なく産んだんだって。

B)……。

C)死にたいよ。

B)死ねばいいじゃないですか。

C)そんな、簡単に言うけどさ。失敗して後遺症残ったらどうすんの? 植物状態になったらどうすんの? 救急車呼ばれて大事になったらどうすんの? 余計にお荷物じゃん。そんな簡単に死ねないよ。

B)私の兄は死にましたよ。飛び下りて、一発で。ホントは生きていたいんじゃないですか?

C)そんなことない。

B)じゃあ、どうして詰めが甘いんですか? もっと確実な方法取ればいいのに。

C)たくさん人を殺して、死刑になれば確実だよね……。でも、それじゃ本当に、ウチ、何のために生きてきたのか分かんなくなっちゃう。人を殺すために生まれて来たの? そんなの悪魔じゃん。

B)人を殺すのは悪魔ですか?

C)じゃない?

B)じゃあ、お侍さんも悪魔ですね。

C)それは違うと思うけど。

B)悪魔はどうして悪魔になるんでしょうか。

C)さあ。悪魔に聞いてみれば?

B)悪魔ってどこにいるんでしょうか。

C)さあね。ってか、あんた何でそんなカッコしてるわけ?

B)好きだからです。

C)親に何か言われたりしない?

B)何も言われませんよ。

C)羨ましい。

B)お金さえ渡しとけば良いと思ってるんです。

C)そうだよ、金だよ。金さえあれば何とでもなるのに。

B)そうですか? お金があったら、死なずに済むんですか? じゃあ、経済的に豊かなこの国で、自殺する人が多いのはなぜですか? 本当はもっと大切なものがあるんじゃないですか?

C)あんたって宗教の人? さっき悪魔がどうとか言ってたし、その変な本とか超怪しいんだけど。

B)変な本じゃありません。聖書です。

C)やっぱ宗教じゃん。よく駅前で街頭演説してるやつ。

B)あれはまやかしです。

C)現実でしょ。ウチは絶対、宗教には入らないから。勧誘しても無駄だよ。

B)勧誘じゃありません。

C)っていうのが、勧誘の常套句だよね。

B)勝手に決めつけないでください。

C)じゃあ、勧誘じゃないってことにしといてあげるけど。あんた、学生じゃないの? 学校は?

B)学校嫌いなんです。

C)ウチも嫌いだったから、あんま人のこと言えないけど。勉強はちゃんとした方良いよ、ウチみたいになりたくなかったら。

B)勉強より大切なものはないんですか? 何のために勉強するか分からなかったら、勉強は出来ても中身のないデクノボウになるんじゃないですか?

C)でも、もっと勉強しとけば良かったのにって思うことって、あるよ。良いトコに就職した同級生なんか見てるとさ。学生のとき勉強したかしなかったかで、その後の人生ガラッと変わるんだなって、全然住む世界が違くなるんだなって、思った。ウチ、早いトコ死ぬ予定だったからさ。勉強しても意味ないって思って、頑張らなかったんだよね。そしたらこのザマ。死にたいよ。

B)死ねば良いじゃないですか。

C)ははっ。ハッキリ言うね、スッキリするよ。死ぬな、頑張れ、とか言われてもさ。バッカじゃないのって思うんだよね。頑張れないから死にたいんだよ。いつでも死ねるって思えるから頑張れるんだよ。希望を奪うようなこと言うなっつの。

B)希望ですか?

C)希望でしょ。ウチ、多分、恋してるんだと思う。

B)誰にですか?

C)死神様に。

B)不謹慎ですよ。

C)何が?

B)一生懸命生きようと思ってる人に失礼です。

C)ホント、死ねば良かったのにね。何でまだ生きてるんだろ。

B)本当は、生きていたいからじゃないですか。誰かを殺してでも自分が生きていたいと思うのは、人間の本能だと思います。

C)何のために?

B)生き残るために。

C)映画じゃあるまいし。

B)……。

C)生き残って、何すれば良いのさ。

B)私に聞かれても困ります。

C)そうだよね、困るよね。私が生きてるの、困るよね……死にたいよ。

B)死ねば良いじゃないですか。

C)ありがとう。じゃあね。

 清楚系の女が現れる。

D)すみません、隣良いですか?

B)はい。

D)すみません。……あの、

B)はい。

D)お付き合いしている方はいらっしゃいますか。

B)はい?

D)彼氏さんはいますか。

B)いませんけど。

D)そうですか……。

B)好きな人ならいます。

D)そうですか。あの、たとえばの話なんですけど、もし、その好きな人との間に子供ができたとして、産みますか?

B)子供?

D)はい。

B)(ナイナイと手を横に振る)

D)そうですよね……どうしましょう。

B)どうしたんですか?

D)出来ちゃったんです。

B)(お腹の膨らみを表すジェスチャー)

D)(同じジェスチャーを返す)

B)どうしましょう?

D)どうしましょう。

B)どうしたいんですか?

D)おろせって言われたんです。でもそれって、殺人じゃないですか。人を殺すのは、悪いことです。

B)そうですね。でも、

D)彼は人を殺せって言ってるんですよ。酷くないですか? おろさないなら別れるとも言われました。脅迫じゃないですか?

B)でも、合法ですよ。罪にはなりません。

D)合法なら何をやっても良いんですか? 人を悲しませたり怒らせたりして良いんですか? 浮気だって法律じゃ裁けないんですよ、不倫は裁けますけど。でもだからって浮気して良いことにはなりませんよね? そういうのと同じじゃないですか。いくら合法だといっても、人殺しには変わりありません!

B)虫を潰すのと、人を殺すのと、何が違うんですか? 合法か、合法じゃないかの違いですよね。

D)!

B)そういうことですよね。

D)虫なんかと一緒にしないでください。

B)虫なんかと一緒じゃないですか。人の命なんて。ゴジラが街を壊すのと、人が蜘蛛の巣を払い除けるのと、何の違いがありますか? 食事だって、動物や植物の命ですよ。私達は毎日何かを殺して、食べて、生きています。自分が生きるというのは、他のものを殺すということです。今更、何を躊躇う必要ありますか?

D)じゃあ、もし仮に、自分が虫みたいに潰されたとしても、文句は無いんですね。

B)……。

D)人でなし。死んじゃえ。

 D、怒って去っていく。

 B、横になる。

A)風邪引くよ。

B)……お兄ちゃん。

 A、Bに自分の上着をかけ、缶コーヒーを飲む。

B)頂戴。

A)ブラックだよ。

B)飲めるよ。

A)そう。

B)……あったかい。

A)冷たい方が良かった?

B)あったかい方が良い。

 B、Aにもたれ掛かる。

A)兄妹なんじゃなかったっけ?

B)良いの。

A)欲しいのは、お兄ちゃんじゃないでしょ。

B)……。

A)良いよ、一緒にいてあげる。

B)ねえ、もし明日世界が終わるとしたら、どうする?

A)街を歩く。歩いて、一つ一つの景色を目に焼き付けながら、本を読む。君は?

B)一番好きな服を着て歩く。

A)どうして、そういう服着ようと思ったの。

B)これは、私の精神だから。

A)精神?

B)たとえ同じものを着ていても、精神が伴わなければ、ただのコスプレ。

A)コスプレじゃないの?

B)違う。コスプレは普段の自分と違う自分になるためのもの。これは、本来の自分を取り戻すためのもの。

A)本来の自分。

B)良い子でいるの、疲れちゃった。

A)髪も染めればいいのに。

B)私は黒が好きなの。

A)茶色も似合うと思うよ。

B)私は着せ替え人形じゃない。

A)人形みたいなカッコだけど。

B)人形になりたいと思うことはあるけど、それは誰かのためじゃなくて、自分のためだよ。人形は、ずっと変わらずに美しいでしょ。人間みたいな煩わしさがなくて、無機質で、冷たくて、羨ましい。

A)ピグマリオン。いや、ナルキッソスか。人形に自分を重ねてる。

B)ナルキッソス?

A)ナルシストの語源になった人。他人より自分が好きって感じ。でしょ?

B)ハッキリ言うね。

A)だから嫌われやすいんだよ。

B)私もハッキリ言う方だよ。

A)兄妹だから。……順調?(本を示して)

B)まあまあ。

A)予言の自己成就って知ってる?

B)知らない。

A)たとえ根拠のない予言であっても、人がそれを信じて行動することによって、予言通りになること。例えば、震災で買い物が出来なくなるんじゃないかと考えた人々が買い貯めに走ることで、ホントに商品がなくなっちゃうとか。逆に予言の自己破壊ってのもあるけど。

B)自己破壊?

A)予言が、予言されたが故に、嘘になってしまうこと。有名な予言ほど当たらないって話もあるね。予言を見聞きした人がその行動を変えることで、変わった分だけ、予言された時点での未来とは違う未来になるっていう。

B)へぇ。

A)だから安易に信じちゃいけないよ。この本も。

B)信じちゃいけない。

A)そう。

B)世界は滅亡しない。

A)滅亡させられるよ。

B)どうやって。

A)死ねば良い。そうすれば自分にとっての世界は終わる。

B)死にたいの?

A)それは二次的な望み。っていうか本気にしたの? 世界が滅べばいいのに、なんて嘘。

B)どうして嘘吐くの。

A)それはどうして二酸化炭素を吐くんですか、っていうのと似ているね。呼吸しているからだよ。言葉があるからだよ。俺は植物になりたかった。

B)植物?

A)言葉を知らないから。いや、言葉そのものを体現しているからかな。語られたことは嘘になる、それは過去のものだから。けれど植物は、常に現在を生きている。それは嘘がないということだよ。羨ましい。

B)植物になりたいっていうのも嘘?

A)半分は。……俺は嘘を吐きたくないんだけど、言葉を喋る以上、嘘を吐かざるを得ない。俺は黙っていたいんだけど、それは許されないから、言葉が無意味になるまで喋り続けなければならない。意味があることに意味はない。意味は言葉と自分の関係性だから、他人にとっての意味と自分にとっての意味には関係がない。興味もない。俺にとって言葉に意味があるとしたら、組み立てられること、の一点に尽きるね。世界は巨大な森。言葉は木を伐採し、組み立てて、椅子や机、棚、箱を生み出すことができる。それが言葉の有用性。

B)よく分かんない。

A)ほら。俺にとっての意味と君にとっての意味は全然違う。なのに同じであるかのように振る舞うから、コミュニケーションには齟齬が生まれる。まぁ、齟齬を前提としてのコミュニケーションなんだけど。

B)大学では何勉強してるの。

A)数学。

B)数学?

A)意外?

B)文系だと思った。

A)サークルで文章を書いてはいるけどね。数字も言葉でしょ。言葉を組み立てるという意味では、文章を書くのも数式を書くのも一緒。音楽もそうだと思うけど、残念ながら、そっちの文法とは馴染みがないんだよね。芥川も言ってるじゃん。数学できない奴に文章は書けないって。

B)知らない。

A)学校は?

B)出席日数足りてて、テストでそれなりの点数取ってれば問題ないでしょ。

A)不真面目なんだ、お兄さんと違って。

B)勉強するとからかわれるから、勉強しないようにしてたの。その癖が抜けなくて。

A)怠け癖は早いうちに直した方が良いよ、苦労するから。

B)怠けてないよ。

A)怠けてるでしょ。君は何をしたいの? 何になりたいの?

B)何もしたくないし、何にもなりたくない。ずっと今のままでいたい。

A)変わりたくない?

B)そう。

A)無理だよ。絶対無理。いずれ、変わらなくちゃいけないときが来る。

B)それは嫌。

A)……一つ、良い方法があるよ。

B)何?

 A、Bに耳打ちして去る。

C)……何してんの。

B)横になってるんです。

C)見れば分かるし。ねえ、見て。

 C、うでまくりをする。包帯が巻いてある。

B)……ファッション?

C)失敗しちゃった。

B)剃刀は怖いんじゃありませんでしたっけ?

C)泥酔してれば怖くないかなーって思ったんだけど、やっぱ痛くて止めちゃった。

B)駄目じゃないですか。

C)ホント駄目だねー、死ねないよ。

B)手伝ってあげましょうか。

C)ホントに?

B)その代わり、殺して欲しい人がいるんですけど。

C)ウチを悪魔にしたいんだ。あんたこそ悪魔だね。で、誰を?

B)私です。

C)あんたも死にたいんだ? 良いよー。でもどうやって手伝うつもり? 一緒に死のうってワケ?

B)飛び降りましょうか。いっせーのせで。

C)どっから?

B)歩道橋とか。

C)迷惑じゃん。

B)学校とか。

C)若い子のトラウマになるでしょ。

B)ビル。

C)歩行者にぶつかったらどうすんの。

B)崖。

C)大体柵あるじゃん。

B)じゃあ、どっから?

C)しゃーない、一緒に探すか。

B)ありがとうございます。

C)何で急に死にたくなったの?

B)……。

C)言いたくないんなら良いけどさ。

B)永遠が欲しいんです。

C)は?

B)私、今、とても幸せなんです。だから、ずっと幸せでい続けたいんです。

C)だから死ぬの?

B)はい。

C)変なの。

B)じゃあ、普通って何ですか?

C)さあ、よく分かんないけど。皆と同じってことじゃない?

B)違っちゃいけないんですか。

C)いけなくはないと思うけど。

B)なら良いじゃないですか。

C)良くないとは言ってないじゃん。

B)そうですね。

E)普通、というのは極端ではない、ということですよ。尖ってなくて、丸いこと。それが一番幸せなんです。角が立たず、楽に生きられる。

C)誰? 知り合い?

B)いえ。

E)自殺するのは勿体無いことですよ。

C)何、宗教の人?

E)まぁ、似たようなものかもしれませんね。

C)やめてくんない、ウザいから。

E)無理に死ぬ必要はありませんよ。あなた、もうすぐ死にますから。

C)は? 頭おかしいんじゃないの?

E)そう思ったこともありましたね。悪魔とか死神とか呼ばれて、自分は生まれて来ない方が良かったんじゃないかと思って、死のうとしたことも。でもそういった経験はすべて、必要なものでした。だら今では感謝しています。

C)何、自分が救われたからって、他の人も救いたいって訳? バッカじゃないの。そーゆーのを余計なお世話って言うんだよ。上から物を言ってさぁ、バカにすんなよ。あんたとウチらは違うんだから同じように救われる訳ないだろバーカ。

E)汚い言葉は自分を卑しくしますよ。

B)やめてください、張り合うのは。

C)そうだよやめろよ。

B)折角の幸せな気分が台無しです。

C)……あんた、どっちの味方?

B)私は私の味方です。

C)あっ、そ。じゃあ一人で勝手に死んだら? 私もそーするから。じゃーね、もう二度と会いたくないわ。

E)良いんですか?

B)別に。関係ありませんから。

E)これは。

B)知ってるんですか?

E)私のです。

B)? 私のお兄ちゃんのですよ。

E)あなたのお兄さんの? お名前は。

B)いえ、名前は知らないんですけど。

E)水子さん。

B)違います。ここで会ったんですけど、ホントの家族じゃないんですけど……でも、懐かしい感じがして。だからお兄ちゃんなんです。

E)好きなの?

B)好きなんでしょうか。

E)そう見えますけど。

B)好きって何でしょうか。

E)自分にとって、大きな存在であること。だから失われると、とても痛い。

B)痛い。

E)ここが。ポッカリ穴が空いたみたいになって、生活にハリがなくなって。

B)よく、分からないです。

E)分かるようになれたら良いですね。

B)良いんですか?

E)それが、人として生きるってことだから。

B)生きる。

E)そう。

B)それは、変わるってことですか。

E)そうですね。

B)私、変わりたくないです。

E)怖いの? 失うことが。

B)怖い?

E)でも、失えば失うほど豊かになるものですよ、人生は。

B)……分からないです。

E)そのうち分かりますよ、生きてさえいれば。

B)死んでしまった場合は。

E)だから勿体無いんです、死んでしまうのは。

B)勿体無い。

E)死なないで。生きて。

A)妹に余計なこと吹き込まないでもらえませんか。

E)……お兄ちゃん。

A)そうですけど。

E)これ、どこにありました?

A)ここにありました。もしかしてあなたのですか? ならお返ししますけど。

E)いえ、お持ち戴いて構いませんよ。本は読まれるためにあり、人の手に渡るごとに、豊かになります。

A)良いんですか?

E)大丈夫ですよ。燃やしてしまっても。

A)そんな勿体無いことはしませんよ。有効活用させてもらいます。

E)そうしていただけると嬉しいです。では、私はこれで。

10

A)知ってる人?

B)知らない人。

A)駄目だよ、知らない人の言うことを聞いたら。

B)どうして?

A)これ、読み終わった?

B)まだ。

A)どの辺まで読んだ?

B)「わたしはまた、一匹の獣が海から上って来るのを見た。それには角が十本、頭が七つあり、それらの角には十の冠があって、頭には神を汚す名がついていた。」……どうして角が十本で頭が七つなの?

A)十七章九節。「七つの頭は、この女のすわっている七つの山であり、また、七人の王のことである。」十二節。「あなたの見た十の角は、十人の王のことであって、彼らはまだ国を受けてはいないが、獣と共に、一時だけ王としての権威を受ける。」

B)そのままの意味じゃないんだ。

A)だから色んな解釈ができる。

B)例えば?

A)有名なところでいうと、八章十節の苦よもぎ。苦よもぎはロシア語でチェルノブイリ。「たいまつのように燃えている大きな星が、空から落ちてきてた。そしてそれは、川の三分の一とその水源との上に落ちた。この星の名は『苦よもぎ』と言い。水の三分の一が、『苦よもぎ』のように苦くなった。水が苦くなったので、そのために多くの人が死んだ。」

B)事故の予言?

A)かもしれない。

B)黙示録は始まってるの?

A)かもしれない。

B)たくさんの人が死ぬの?

A)かもしれない。

B)……綺麗。

A)え?

B)神様って美しいものが好きなんだ。

A)黙示録でその感想は初めて聞いたよ。

B)世界は美しいんだね。

A)それは思うけど。

B)お兄ちゃん。

A)何?

B)私、今とても幸せ。

A)良かったね。

B)好きな人と一緒にいられて、世界が美しいと分かって。

A)ん?

B)一緒に、死んでくれませんか。

A)……プロポーズ?

B)うん。

A)一緒に、死ぬの?

B)そう。

A)何で?

B)幸せだから。

A)……ごめん、俺、好きな人いるんだ。

B)そうなの?

A)だから一緒にはいられない。

B)……騙してたの?

A)そもそも兄妹だよね? 恋人じゃないよね?

B)……そっか。

A)そうだよ。

B)じゃあ、生きるね。さよなら!

11

E)……残念。

A)邪魔しないでくんない?

E)邪魔したのはそっちでしょう。余計なこと吹き込んで。

A)邪魔があってこそ人は成長する。

E)どう転がるか分からないでしょう。

A)だから面白い。

E)人をオモチャにしないで。

A)それは神様にこそ言うべきだよね。

E)神様を馬鹿にすると、神様に嫌われるよ。

A)何信じちゃってるの?

E)何で信じられないの?

A)全然信じてない訳じゃないよ、この世界は美しいから。「神は永遠に幾何学する」。真も善も信じないけど、美だけは信じてもいい。

E)……悪魔。

A)ラプラス、マクスウェル、悪魔の階段、悪魔の証明。確かに悪魔は魅惑的だ。でも、肉親にその言い草はないんじゃない?

E)本、返して。

A)さっきはご高説垂れてたクセに。口だけ?

E)泥棒が何言ってるの。

A)借りただけだよ、ちゃんと返すから安心して。

E)じゃあ借りる前にそう言って。

A)頭カタイな。だからモテないんだよ。

E)別にモテたいって思ってないから。

A)早く相手見付けないと心配されるよ。

E)余計なお世話。

 A、去る。

 E、大きく溜息を吐く。

12

 同じように溜息を吐くD。

D)……どうしましょう。

E)どうなさいました?

D)産まなくちゃいけないんです。でも産めないんです。

E)大変ですね。

D)そうなんです。どうしましょう。

E)どうなさりたいんですか。

D)死にたいです。

E)どうしてですか。

D)なんかそういう運命なのかなって思って。そのためにこんな状況になっちゃったのかなって。

E)そんなことはありませんよ。

D)どうしてそんなことが言えるんですか。

E)全ての人に、生きる意味があるからです。

D)それは、悪い人にもですか。

E)悪は弱さから生まれます。どんな人にも弱さはあります。

D)でも、良心の欠片も無いような人っているじゃないですか。

E)そう見える人は確かにいます。けど、本当にそうなのかどうかはあなたには分かりませんよね。その人には、本当にどこにも良いところが無いんですか?

D)分かりません、もう、何が良いのか悪いのか。優しく見えることもあるんです、でも、とても残酷なときがあって。私は彼の何を信じたら良いのか、何が本当なのか、分からないんです。

E)離れましょう、彼から。今のあなたは混乱しています。冷静になるために、一旦距離を置きましょう。

D)でも、赤ちゃんが、

E)大丈夫です。落ち着いて考えれば、方法はありますから。まずは彼から離れてください。

D)どうやって。

E)DVの相談所があります。ネットで検索すれば、すぐに出てくる筈です。そこに電話するか、直接行ってみてください。大丈夫ですか、できますか?

D)……そうですね。分かりました。

E)お気をつけて。

13

E)またわたしが見ていると、ひとりの御使が、底知れぬ所のかぎと大きな鎖とを手にもって、天から降りてきた。彼は、悪魔でありサタンである龍、すなわち、かの年を経たへびを捕らえて千年の間つなぎおき、そして、底知れぬ所に投げ込み、入口を閉じてその上に封印し、千年の期間が終わるまで、諸国民を惑わすことがないようにしておいた。その後、しばらくの間だけ解放されることになっていた。また見ていると、かず多くの座があり、その上に人人がすわっていた。そして、彼らにさばきの権が与えられていた。また、イエスのあかしをし神の言を伝えたために首を切られた人々の霊がそこにおり、また、獣をもその像おも拝まず、その刻印を額や手に受けることをしなかった人々がいた。彼らは生きかえって、キリストと共に千年の間、支配した。それ以外の死人は、千年の期間が終わるまで生きかえらなかった。これが第一の――

14

A)復活である。

E)……何で、いるの。

A)さあ。神様の思召し?

E)ごめんなさい。悪魔なんて言って。

A)別に良いよ。本気じゃないって分かってたから。

E)じゃあ、どうして死んじゃったの。

A)……。

E)お兄ちゃん。

A)……一緒にいたら、二人とも死ぬって思ったから。生きてて欲しかったから。普通に幸せになって欲しかったから。

E)でも、だけど……死なないで欲しかった。一緒に生きて欲しかった。置いていかれて、すごく寂しかった。

A)ごめん。

E)……うん。

A)ごめんな。

E)……うん、大丈夫。大丈夫だから。

A)変わんないな。

E)変わんないよ。

A)でも、昔よりずっと強くなった。

E)そうかな。

A)安心した。……良い人、見付けなよ。

E)……うん。

A)元気で。

E)うん。……また、会おうね。

 A、Eの腹を示す。

 Eは驚いて、腹に手を当てる。

15

 絵本を腹の子に読み聞かせる母親のイメージ。

E)御使はまた、水晶のように輝いているいのちの水の川をわたしに見せてくれた。この川は、神と小羊の御座から出て、都の大通りの中央を流れている。川の両側にはいのちの木があって、十二種の実を結び、その実は毎月みのり、その木の葉は諸国民をいやす。のろわれるべきものは、もはや何ひとつない。神と小羊との御座は都の中にあり、その僕たちは彼を礼拝し、御顔を仰ぎ見るのである。彼らの額には、御名がしるされている。夜は、もはやない。あかりも太陽の光も、いらない。主なる神が彼らを照し、そして、彼らは世々限りなく支配する。彼はまた、わたしに言った、「これらの言葉は信ずべきであり、まことである。預言者たちのたましいの神なる主は、すぐにも起こるべきことをその僕たちに示そうとして、御使をつかわされたのである。見よ、わたしは、すぐに来る。この書の預言の言葉を守るものは、さいわいである」。

End

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