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社会批評: バンクシーvsチームラボ

「アートが、アート好きな者のためではなく、金持ちのものとなっている。」と、憤慨するバンクシー。ストリートアーティストとして活躍している彼の作品は、作品に関わるパフォーマンス活動も含めて分かりやすい社会風刺のメッセージに溢れている。

先日、作品が高額に落札されたことに対する腹いせなのか、バンクシーは過去の自分の作品を「適正価格」で抽選販売すると公言し、富裕層お断りのメッセージ付きでWEBサイト「GDP」をオープンした。

過去にも自身の作品を、NYのメトロポリタン美術館前の露天商と混じり、プロの世界では、数千万円でやり取りされる彼の絵画を、数千円程度で販売する社会実験を行っている。露天では、オークションやギャラリーでやり取りされている1/1000程度で販売しているにも関わらず、購入者は限りなく少なく、おまけに売れた作品の内のいくつかは、値切られてしまう。マーケット価格という言葉の二重性(ラベル付きのプロの世界のオークションvsラベルなしの露店での販売)に対する皮肉たっぷりのパフォーマンスをやってのけている。

アートの世界の矛盾を始め、複雑に絡み合う現代の社会課題をアートの力を借りて分かりやすく痛切に訴えかけてくるのがバンクシーである。

それに対して、チームラボは、にこやかに楽しげな雰囲気で、人々を惹きつけていく。美しいデジタルの世界の体験を通して、世界は本当はボーダレスで、時間も空間も自然などあらゆるものが今につながっていることを示してくれる。

チームラボの花の作品は、濃縮した時間の中で、花が咲き乱れ、散り、そしてまた別の花が咲き始めるというのが繰り返され、そこに人が入ることで、体験自体がまた変化していく。あらゆるものがつながり、そして偶然により生みだされる美しさは、たくさんの人が作品に絡むことで、より誘発される。

グローバル化の巨大の力に対して各地で起こっている排斥的な拒絶反応に対して、他者がいることに対する快楽を作品の体験を通じて暗示するチームラボ。チームラボの体験は、言語やコンテクストの共有さえを超えて、圧倒的なビジュアル的な魅力で人々を取り込んでしまう。

現代が抱える様々な社会課題を、バンクシーは痛切な風刺で『言語的』とも言える、分かりやすさで訴えているのに対して、チームラボは、あまり語らずボーダレスであることの快楽を『体験』を通して、体感させる方向からアプローチしていく。

風刺と快楽という異なる力で、社会批評を展開しているイギリスと日本を代表する現代アートユニット。同じ時代に同じ課題を抱えて生きている私たちに対して、この2つのアート集団は、どう世の中の見え方を変えていくのか、今後の展開が楽しみでしょうがない。

その未来を占うかのように、チームラボの解体新書が、PLANETSから発売される。境界のない世界を目指すチームラボを体現する本のタイトルは、「人類を前に進めたい」だ。グローバル化する社会に生きる私たちの指南書となりそうなこの本は、先行予約をすると、日本の未来について語った冊子もついてくるそうだ。稀代なアーティストと評論家が見据える、未来の日本の見え方を獲得するパスポートが先行予約で簡単に手にすることができる。

アートとは、時に冒険で、まだ誰も価値がわからないものに価値を見出すプロセスである。まだ評価が定まっていない本に(Amazonのレビューがない状態で)ビッドすることも、1つのアート体験になるのではないかと思う。

余談だが、アートだって、商品価値が定まってオークション化されたセカンダリーマーケットで購入する人より、プライマリーマーケットで発見する人の方が、断然にカッコいい。

とは、言え、本の内容は、一部無料公開されており、中身が充実していることは既に保証済みである。

バンクシーの「GDP」プロジェクトもはじめとして、今年の10月は芸術の秋がより深まりそうだ。

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