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3度目の正直〜テクニックを見せつけた日


(患者さんからの了承と希望もあり、本日の記事を書いています。)


九州から当科にカテのために通われている鍼灸師さんの治療を先日行いました。

この前、東洋医学の話を書いたのも、この鍼灸師さんに自分の身体の相談、変形性脊椎症やこれに伴う坐骨神経痛のことを相談した経緯です。

僕は北斗の拳の世代なので、経絡や気功などについて信じるほうですが、
この患者さんに簡単な施術、というよりマッサージに近いものですが
それだけでも10年以上困っていた腰痛や坐骨神経痛が軽快し、
本気でこの患者さんの兄弟子先生のところに現在通院はじめてます。

まだ1回しか受診していませんが、実は長年全くよくならず、痛み止めしかなかった腰痛と神経症状が、今はかなり軽減しています。施術直後は症状が数日間、完全に消失しました。有名な鍼灸師の先生方のグループ?のようで、海外でも活躍されているお師匠さんがいるらしく、西洋医学かぶれになりやすい我々医療者からみたら、目から鱗、ですよ。

もっと若ければ、弟子入りしたい、カテと鍼灸合わせ技ならもっと多くの患者さんのがんの症状を緩和できるのに、と本気で思いました。


さて、前置きはここまでで、先日この患者さんの6回目の治療をしました。
重粒子線治療後の再発という、僕にとっても初めての状態の病態で、
かつ免疫治療(へんなクリニックのあぶないやつじゃなくて、チェックポイント阻害剤です)を並行して地元の大学病院で投与し、そこの先生方と連携して動注している患者さんです。

なにが良かったのか、真実はわかりませんが、
一発目の治療が超超、著効して、僕も驚きましたし、本人も地元の先生も驚かれたそうです。
技術的には、ちょっと難しいけどいつもやっているパターンだな、って感じで僕として特別なことをせずいつも通り初回治療をしているので、これは抗がん剤の相性や、もしかしたら、チェックポイント阻害剤との未知の相性、重粒子線治療後のなんらかの影響など、とにかく見たこともないほど効きました。

当科の治療は1回で終了ではなく、追い込むように著効例でもまだ繰り返し、極力減量を目指します。その患者さんにも2回、3回とやったのですが、

確信はないのですが、重粒子線治療後だからでしょうか、通常の放射線治療後の再発ではありえない、骨盤内の血流動態の変化がカテをやるたびに起こりました。

例えば、1回目の治療で動注した血管を、2回目撮影したらがんに全く届かなくなっていたとか、そもそも子宮動脈からも治療したのですが、3回目以降は子宮動脈から子宮が全く栄養されなくなったとか。
動注は濃い抗がん剤なので、やはり血管にも多少負担がかかります。
それでも栄養動脈は通常より発達して太いので、1、2回の動注で潰れることはありません。実際に、血管はちゃんと残っている。でも病気に届かなくなっている。

骨盤内の血流動態、各血管の支配範囲が毎回変化するんです。
それも、とんでもないことが毎回起こります。

これに対して、IVR-CTは有効で、変化した血流動態を、確認したい動脈から造影剤を流しながらCTを撮影することで、支配範囲を確認できます。
がんカテには絶対に必須のアイテムですね。

毎度毎度、変化する血流動態をCTを何度も撮影しながら行うので、他の方より時間がかかりますが、鍼灸のおかげで2時間超えても足が痺れず、集中してカテを行っています。患者さん(先生)は、私の治療のためにマッサージしてるだけですよ、と言ってくれてますが、ほんと助かってますし、現在の鍼灸師の先生と結びつけていただいて感謝ばかりです。

さて、3度目の正直と書きましたが、これ、卵巣動脈の治療のことです。
卵巣動脈は、実は子宮とも連続しており、子宮筋腫の患者さんはUAEという治療の際に子宮動脈を塞栓することが基本なのですが、時に卵巣動脈からも治療が必要になります。この場合、子宮筋腫は血液を欲しがる良性腫瘍なので、卵巣動脈は比較的太くなり、僕のレベルでは、ほぼ100%、カテを入れることができます。

ただ、がんの場合はそうとは限りません。特に中年以降の卵巣動脈は細くなります。そして、がんが血流をさほど欲しがらないタイプですと、卵巣動脈はかなり萎縮し、カテを入れることが非常に難しくなります。

今まで卵巣転移に対して何度か動注をするために、卵巣動脈にカテをいれたことがありますが、お一人だけ細すぎていれれなかった以外、それでも全員治療できていました。まあ、感覚的に9割5分、挿管可能な印象でした。

ただ、この患者さんの卵巣動脈は、術前の造影CTでみても入り口が細すぎて見えません。1mmの極小スライスで何度も見ても、入り口がはっきりしないんです。入り口から先も、印象的には髪の毛のような細い卵巣動脈がほそぼそと子宮につながっており、ほんまにこれ、子宮にいってるの?そんな感じでした。

ただ、この患者さんは、骨盤の血管から子宮が栄養されなくなっていることをIVR-CTで確認されていたので、卵巣動脈しかない!(これは解剖の知識)と思い、過去2回、トライしました。1回目は1時間で挫折、万全の対策をとって前回2回目のチャレンジをし、2時間がんばりましたが、あと一歩でカテが目的部位まではいりませんでした。

この患者さんは、がんカテとの相性が抜群です。初診の時からそう感じてましたし、実際に1回目の治療で著効しています。問題は血管。そう、血管にカテをぶち込めば、そして薬をちゃんと流せば勝てる、そういうケースです。

この場合、技術、が問題となります。

狙っている血管は、わかりやすく言えば、4車線の太い高速道路から、人1人通れるほど狭い道が急に分岐している、そんなイメージ。
大動脈っていう一番太い血管から、細径の極細のカテが入るかどうかわからないくらい細い、そして入口もよくわからい、そんな状況でした。

でも、この血管に入れれば効く、だめなら効かない、答えは明確。
まさに全集中で、本日治療に臨みました。

日頃から腰痛でお世話になっておりますし(笑)、どちらも患者で先生という不思議な関係。でもお陰様でこちらも腰と足の調子が絶好調。
かなり集中できましたね。

やったことは実はシンプルです。mm単位でカテを動かし続けただけです。
大動脈の拍動で微妙に動き続けるカテを、mm単位で操作し、見えない入り口を探し出し、そして、そして、3度目の正直でしたが、ぶちこめました!

いや、気持ち的にはそう書きたくなるのですが、カテを留置できました。

その後、ここからCTを撮影し、やっぱりですね、骨盤から栄養されなくなっていたところが見事に造影剤で光りました。
ようは、子宮動脈は存在するんだけど、重粒子線の影響か、血管の先の先は画像で確認できないような閉塞をきたし、本来機能しないはずの細く萎縮した卵巣動脈からがんが栄養されていたんです。

当然、ぼくは、よっしゃ!と叫び、患者さんも、ありがとうございます!と大喜びで、スタッフ全員で動注が終了するまで集中して治療を完結できました。


普段から、がんカテはテクニックだけでは治らない、
がん全般の知識があって、それで適応を決めることができて、
そして適切な抗がん剤を選ぶ知識も必要だ、そう書いています。

それは、テクニックがあることが当たり前、が前提として書いています。

今回は、ここ数年でも一番苦労し、でも絶対に入れなければならない血管でした。
そこに入れるために培った25年の技術をぶちこみました。

むろん、結果は、適切に入った抗がん剤が今後ちゃんと効いてくれるか、になりますが、適切に入れなければ動注の意味がありません。

久しぶりに満足のいくテクニックを発揮できました。
(普段の症例は、そんなテクニックを意識しなくても瞬殺で血管に入れれますので)

そして、もうひとつ書きたいのが、放射線技師の成長です。
現在、2人の技師が専属してカテについてくれていますが
勉強熱心で、予習もしっかりしており、患者さんからも評判です。
カテ室の雰囲気も非常にいいです。

今回のように、難しい症例になると、どんどん技術に集中して自分の視野が狭くなります。そんな時、優秀な技師は、今している血管が本当に正しいのか、他に選択肢はないのか、他の方法がないのか、そんなことを術者にアドバイスしてくれます。今日も何度か血管の選択などで助かりました。
撮影も二人とも迅速に実施してくれますし、なにより看護師さん、僕、技師、3者が協力して、良い雰囲気で仲良く治療に従事しています。
患者さんは、そんな雰囲気を一番察しますので、僕らのがんカテを繰り返している患者さんたちから、今のメンバーは非常に好評です。

なによりも、僕も仕事がしやすい。

病院内で、僕が行ける場所は限られていますが、カテ室が僕にとってのオアシスです。

今週は、今回のお弟子さん(患者さん)の結果をもって、土曜日に兄弟子先生のところに自分の治療に行ってきます。
また元気になれると思うので、施術が楽しみです。



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