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『シルクロード.com ─史上最大の闇サイト─』と、偉大な何かを成し遂げるには

違法薬物販売の闇サイト

本作は、ゼロ年代に実在した、違法薬物販売の闇サイト「シルクロード」を題材にした犯罪映画。通常ではアクセスできないダークウェブと呼ばれる場所に闇サイトを立ち上げた青年ロス・ウルブリヒト(ニック・ロビンソン)と、パソコンに疎くメール送信すらままならないベテラン刑事リック・ボーデン(ジェイソン・クラーク)の追跡劇を描いています。当初は、天才ハッカーに対して、アナログな「現場100回」タイプの年配刑事が執念の粘りを見せて追い詰める、といった、いわゆる「デジタル vs アナログ」的なストーリーを予想し、また期待してもいたのですが、実際には意外な方向へ展開する作品でした。

自分の人生に不満を抱えた青年ロスは、自称「リバタリアニズムの信奉者」として、闇サイト「シルクロード」での薬物販売を、政府の統制に対する反逆、リバタリアニズムの実践として行っていました。やや頭でっかちで、両者が結びつきにくい部分はあるのですが、それはいいとしましょう。一方、アルコール依存で施設に入っていた刑事リックは、ようやく施設から退所し、刑事としての仕事を再開。迷惑をかけた家族との関係を修復し、ひとりの人間として出直そうとしていました。ロスの作った闇サイトは途方もない成功を収め、シルクロードは1日につき1億円という途方もない利益を生み出しています。

ちょっと派手にやりすぎてしまった闇サイト運営人

青年の成長譚だったはずが

一般的に、こうした映画で闇サイトを運営する人物は、真っ暗な部屋でパソコンをカタカタ叩いては口の端をちょっとだけ持ち上げて笑うような、謎めいた人物として描かれがちです。この映画のようにごく普通のナイーブな青年として登場すると、つい闇サイトの運営を応援したくなってしまいますし、警察から逃げ切ってほしいと思ってしまいます。一方、刑事のリックはといえば、態度は悪いし、捜査途中で手にした大金を使い込んでしまうしで、ずいぶん困った男です。「アナログ vs デジタル」とはいうものの、意外に早くパソコンを覚えて、犯人とチャットでなりすましトークをしたりとデジタルへの順応も早い。

個人的には非常に楽しんだ作品でしたが、それは犯罪追跡劇としてというよりは、何も持たない主人公が闇サイトというビジネスチャンスに着目し、商売を成功させていくまでのサクセスストーリーの部分に爽快さを感じたためでした。青年が恋人を失ってしまうくだりや、そこで自暴自棄になった主人公が超えてはいけない一線を超えてしまうといった展開にこそ、本作の魅力があったような気がします。「偉大な何かを成し遂げさえすれば、その善悪は問わない」というテーマにもアメリカらしさを感じた作品でした。

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