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『長ぐつをはいたネコと9つの命』『生きる LIVING』

『長ぐつをはいたネコと9つの命』

ドリームワークスのアニメーション。英語圏には、「なかなかくたばらない」という意味合いを持つ「A cat has nine lives」という言い回しがあり、本作のタイトル「9つの命」に転用されている。英語では他にも「好奇心は猫を殺す」(Curiosity killed a cat)だとか、猫系のことわざは結構多い気がする。主人公の猫、プス(アントニオ・バンデラス)は英雄として大冒険を続け、危険に身をさらず無謀な生活を繰り返したために、9つあった命のうち8つを失ってしまい、最後のひとつを残すのみとなった。そこへ死神がやってきて、彼の最後の命を奪おうとする。死の恐怖にかられたプスは、命からがら逃げ出すのだった。字幕版で鑑賞。英語とスペイン語の混合で語られるせりふも、豊かで楽しい。

主人公のプスは「Fearless」(怖れ知らず)な英雄だと周囲にもてはやされ、いまさら「怖い」とは言い出せない状況へとみずからを追い込んでしまっていた。恐怖心を抱かないことが義務になり、周囲の期待を裏切らないよう、無意識のうちに理想の英雄像をなぞっていたのだった。そうした主人公が、周囲との人間関係を大切にし、ものごとを正しく怖れ、いまある命を大切に慈しみながら生きていくと決めたとき、変化が訪れる……という展開は、率直に胸を打つものであった。登場人物にみな役割がある脚本のよさも魅力で、わけてもお宝の奪い合いをするクマの一家など、実にすばらしいキャラクター造形で応援したくなった。劇場に来ていた外国人親子の子どもが、嬉しそうに笑ったりと反応していたのが実によかった。

『生きる LIVING』

黒澤明の『生きる』(1952)を、英国版でリメイク。ロンドン市役所に勤務する老いた男ウィリアムス(ビル・ナイ)が、ある日がんを宣告される、という形で物語が作り替えられている。主人公の余命は長くて9ヶ月。彼はみずからの死期を悟って生きる気力をなくし、それまでまじめに勤め上げてきた市役所へも顔を出さなくなる。酒を飲んでうろつきまわる毎日だったが、やがて役人だった頃にやり残したことがあったと思い出す。市民からたびたび請願されていた、公園を作る仕事であった。ウィリアムスは意を決して公園の整備に乗り出した。

近頃、子どもの頃からよく見知っていたミュージシャンや作家などが相次いで亡くなり、人生って思ったより短いものだとつくづく感じている。できれば生きているあいだに何か有意義なことがしたいけれど、日々の生活は容赦なく押し寄せてくるし、働いて給料をもらわなくてはやっていけない。死ぬまでに何ができるだろうかと考えてしまうが、何もできずに終わってしまいそうな気がする。つくづく死ぬとはさみしいものである。何かこう、ついそんなことを考えてしまって。ひとりの人間ができることは少ないし、偉業は達成できないかもしれないが、それでも何かをすることで、私たちは小さな満足感を得られるのではないかと、本作のビル・ナイを見ながら素直にそう思えた。胸に響く映画であった。

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