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スキンケアは実質サウナである

サウナーになってみてわかったこと

いま、世間はたいへんなサウナブームである。どの施設にも人が押し寄せ、連日にぎわっている。土日など、サウナ室でとなりの人とひじが触れ合うほどの混雑ぶりだ。かくいう私も男性サウナー(サウナファンの略称)のひとりなのだが、日々サウナ施設を巡っているうちに気づいた。サウナとスキンケアはほぼ同じ行為なのではないか。これだけ多くの男性がサウナにハマっているいまこそ、サウナ好きの男性を起点としてスキンケアを広める絶好の機会ではないかと思っている。そしてサウナがこれだけ男性にウケるのなら、スキンケアだってきっと男性に支持される。デパコスのカウンターに男性が押し寄せる日がくる。来ますね、わりとすぐに。それは単に「サウナがお肌にいい」「サウナに行くことはスキンケアの一部だ」といった意味ではなく、より基本的な部分で、サウナを構成する要素と、スキンケアを構成する要素には共通点が多いのである。

30万部を超えて爆売れ中の美容本『キレイはこれでつくれます』(ダイヤモンド社)を書いたMEGUMI氏は、同書で「(肌のコンディションを維持するために)週1回のサウナは死守しています」と解説している。また、美容マンガ『そうです、私が美容バカです』(マガジンハウス)を手がけたまんきつ氏も、サウナ通いをテーマにした作品『湯遊ワンダーランド』(扶桑社)を描いており(後にテレビドラマ化)、もともと女性のなかでサウナと美容はユーザー層も重なっており、近い位置にあったといえる。同様に、小学館の美容雑誌「美的」から派生したWEBサイト「美的HEN」では、美容連載と混じってサウナ連載があり、美容やスキンケアを好きな人がサウナに対しても抵抗感なくなじむことがよくわかる。くわえて、タナカカツキ氏のマンガ『サ旅』(マガジンハウス)では、男性がサウナ施設で天然泥パックをする場面が楽しそうに描かれているのも興味ぶかい。サウナでは、マッサージやウィスキング(白樺の葉を束にしたもので身体をペチペチ叩く、ヨーロッパの健康法)もよく行われていて、美容施設としての側面もあるのだ。私自身、この前行った施設では、サウナ室内に盛られた塩を身体に擦り込んで、自分でマッサージした。思うに、サウナ施設にはフェミニンな要素が多い。これほど多くの男性がサウナに夢中になっていること、その事実をより細かい要素に分けて考えていけば、いろいろな可能性が見えてくるのではないだろうか。

サウナ後、雪にダイブする人がいるそうです。イカれてますね

サウナとスキンケアはここが似ている

サウナ施設へ行くほど、そこにはスキンケアで慣れ親しんだ要素がたくさんあると発見した。だからこそ、サウナにハマっている男性にスキンケアを紹介すれば、「それならやってみたい」と感じるだろうし、何の抵抗もなくハマってくれそうな気がするのだ。あるいは、サウナー男性の多くはすでにスキンケアを始めているかもしれない。それはたとえば、落語ファンがジャズに凝りがちで、プログレマニアにはSF小説を読む傾向があり、スニーカーのコレクターの多くがギャンブル好きなように、サウナーはスキンケアにハマるような気がしているのだ。かくいう私もサウナーにして、スキンケアの本を出すほどの美容好きだからわかる。サウナとスキンケアには共通する要素が多すぎるし、あらゆる面で似ているのだ。

香り

サウナファンは香りにこだわる。もっとも重要なのは、サウナ室でおこなわれるロウリュである。ロウリュとは、サウナストーブの上に置かれた石にアロマ水をかけてじゅわーっと蒸気を発生させ、その熱と共にやってくる香りを楽しみつつ汗をかく、というフィンランド式のサウナ方法だ。しかし、これが水道水ではダメなのである。サウナ室で、施設の従業員さんが解説をする。「今日はローズマリーの香りです」。そして室内にいる男性が、蒸気と共に立ち上がるアロマ水の香りを感じるのだ。実にいい。私は、これだけ多くの男性が、サウナ室を満たすアロマ水の香りに胸をときめかせている状況に大きな可能性を感じている。普段、家でアロマを焚いたり、ボディクリームを塗ったりする男性は少ないかもしれないが、それに近い行為がサウナでは日々おこなわれているのだ。私は嬉しい。いい香りを楽しみたい、心地よい香りで気分をリフレッシュしたいという気持ち。スキンケアにハマるには、香りの楽しさを知る必要があるが、男性サウナファンにはその説明が要らない。彼らはすでに、香りの心地よさがどれだけ気分のいいものか知っているのだ。

蒸気が好き

サウナファンは何しろ蒸気が大好きだ。ロウリュで部屋の湿度が上がり、サウナ室がしっとりとした状態になるのが嬉しい。サウナストーブからじゅわーと蒸気が上がるとき、何ともいえず心地よいと思う。そしてスキンケアにおいても、蒸気はとても重要なのである。スチーマーと呼ばれる機械を使って顔を保湿するケアを男性に勧めようとしても、なかなか始めてもらえないが、サウナーになら「これ、顔ロウリュだから」のひとことで全てが説明できる。

蒸気のよさを知っているのはサウナー

乾燥した冬の時期の加湿器も、お肌や喉のコンディション維持に欠かせないが、これもまた「ほら、部屋がサウナ室になるよ〜」と言えば即座に理解してもらえる。ひいては、スキンケアの基礎中の基礎である「保湿」という概念についても、ほとんど説明不要なのである。そもそも「しっとりした状態」が好きなのだから、化粧水も乳液もすぐにそのよさを理解してもらえる。季節ごとの空気を感じて、「いまは乾燥してるな」「今日は湿度が高い」と気づく能力も高い。ここまで保湿に対して飲み込みの早い男性集団が、サウナー以外にいるだろうか。

身体のコンディション

サウナ利用者は、その日ごとの自分の体調をよく観察している。これもまた、スキンケアにとてもよく似ている要素だ。「身体の観察」は、サウナとスキンケアの双方において実に重要なのである。サウナ室に何分いるかを考えたとき、日々の体調によっても違うし、施設ごとにサウナ室の温度や水風呂の冷たさが違うので、毎回ほどよいタイミングを自分の身体と相談しながら入る必要がある。「今日のサウナ室は110度もあるから、普段は10分入ってるけど、7分くらいかな」といったように、ちょうどいい状態を見きわめるのだ。また、サウナーは肌の状態をよく観察していて、サウナ・水風呂の後に皮膚表面に出る赤い斑点を「あまみ」と呼んで、身体の状態をたしかめるシグナルとしているのだが(あまみが出ると、ととのいやすいと言われている)、こうしたきめ細やかな観察もすばらしい。肌の調子を見るのは、スキンケアの基本なのだ。私は、スキンケアを始めるまで、自分の日々の体調を観察する習慣がなかった。そんなことを考えた試しがなかったのである。スキンケアでそれが変わった。たとえば、化粧水をつけた時点で肌がぴりっとする日がある。肌の状態がよくないのである。そういった日は、敏感肌用のアイテムに切り替えてスキンケアを進める。こんな作業も、日々サウナ室に入る時間を細かく調整しているサウナーになら、難なく理解してもらえる。スキンケアもサウナも知らなかった私に「その日の体調を観察して……」と言っても、何のことか意味がわからなかったと思うのだ。

私はいま週3くらいサウナに行っています

肌ざわり

サウナファンは肌ざわりを重視する。いちばん特徴的なのは水風呂だろう。静岡の名門「サウナしきじ」の、駿河の天然水を使用した極上水風呂を経験したサウナーは、口を揃えて「なめらかな水だ!」と興奮する。その肌ざわりが違うと感激するのだ。水の肌ざわり、そんな考え方があったのか。さらには、お湯や水風呂に入っただけでだいたいの水温がわかる、という妙な技能まで習得する始末。もはや肌の感触で水温がわかってしまうのである。「この水風呂、17度かな」などと言い出し、それがわりと当たっていたりするので、慣れってすごいなと感心する私だ。ロウリュをした直後のサウナ室に入ると、「あっ、ここロウリュしたばかりだな」と肌で湿度を感じることができるし、施設のタオルが上質だと「ああ、ここのタオルいいね」と感心している。先ほど紹介したウィスキングも、肌ざわりが重要だ。ことほどさように、サウナーになると肌から感じ取る情報量が増えていくのである。こうした「肌ざわり」の重要性は、もちろんスキンケアでも同じだ。スキンケア業界が大好きな言葉「テクスチャー」は、こうした感触がいかに大切かを示すものだし、クリームに含まれている脂分の量やのびのよさなどを感じつつ、自分に合う製品を探していく楽しみがある。こうした「テクスチャー」の心地よさについて、サウナーには言わずもがなで通じるため、話が早いのだ。

ととのい

サウナーが「ととのい」を目指すように、スキンケアにも「ととのい」に近い感覚がある。時間をかけてスキンケアをし、自分のお気に入りの製品を順番に使用していき、最後の乳液を顔全体に伸ばしたとき、「キマった……」と感じるタイミングが訪れるのだ。スキンケア製品の心地よい香りに包まれ、肌はしっとりと保湿され、ぷるんとした状態に変化する。こうした恍惚の状態で布団に入って横になるときには独特の気持ちよさがあり、これは「ととのい」に近い何かと呼べる気がする。お肌がスキンケアを通して、もっとも心地よい状態まで持ち上げられる感覚とでもいうか。いつものスキンケアルーティンが終わって、お肌がたっぷりの水分を補給されてぷるっぷるのテカテカにキマった状態になり、顔はツヤツヤ、思わず「あれ、間違って顔にみりんでも塗ったのかな?」と錯覚してしまいそうな完成度に達することがあるのだが、これは「ととのい」の一種なのではないかと思う。「スキンケアやると、寝る前にととのいますよ」と説得すれば、サウナーはすぐに始めてくれそうな気がする。

サウナと同じくらい、スキンケアは楽しい

私は、スキンケア本『電車の窓に映った自分が死んだ父に見えた日、スキンケアはじめました。』(平凡社)の著者として、いかに男性美容を広めるかを考え、苦心してきたのだが、まずはサウナーの男性を仲間にするところから始めていけばいいのだ、という具体的な目標が見えて、ちょっと興奮している。彼らにはそれほど多くの説明はいらない。「サウナ室に広がるアロマ水の香りみたいに、お肌がすっと心地よくなるんだよ……」とひとこと言えば、それですべてが伝わるのである。サウナー男性のみなさんには、ぜひ手頃な化粧水あたりから始めてみてほしい。だって化粧水はサウナ室だし、美容液は水風呂で、乳液という外気浴まである。そして最後にはととのいへ……。つまるところ、スキンケアはサウナなのだ。

【スキンケア業界へひとこと】
いま、大盛り上がりのサウナ業界に食い込んでこようとしているのは飲料メーカーである。「オロポ」(オロナミンCとポカリスエットを割った飲み物)の人気に便乗して、「サウナ飲料」という新しいジャンルを開拓しようと、多くの飲料メーカーが新製品を作ったり、施設でサンプルを配ったりしている。とてもいい試みだと思う。そして私は言いたい。他ならぬスキンケア業界こそ、男性サウナファンにアピールすべきタイミングではないのだろうか。なぜならサウナは実質スキンケアなのだから。サウナにはアメニティだってある。そこから攻めていけば確実に取れる大きな集団(男性サウナー層=MS層)があるのに、何もしていない化粧品メーカーは実にもったいないと言うほかない。いますぐサウナ施設にサンプルを置かせてもらうべきである。男性に向けて「サウナが終わったらつけるオールインワン」を出すべきなのだ。そして Male Sauner 層にスキンケアをアピールすべきだと私は思う。がんばってください。

がんばれスキンケア業界! 伊藤より

【スキンケアが好きすぎて本を書いたので、読んでください】

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