君と異界の空に落つ2 第59話
初めて出会う”大神”である。玖珠玻璃は無言でたじろいだ。
川で繋がる寺の近くだ、仲良くしている耀と瑞波が、近くの山へ動いた気配があった。夕刻を目前に栄次らしい気配も走り、珍しいなと考えて塒(ねぐら)で塒(とぐろ)を巻いていたか。そんな彼等の気配が呑まれるように消えたので、おかしい、と思った彼は急いで道を辿ってきたのだ。
此処に繋がる”道”は水路、地下水脈の一である。耀がよく行く温泉と同じ、山の下で見えない水路が繋がっている。この辺か、とあたりを付けて登ってきたが、彼等の気配があるようで、姿が何処にも無い。玖珠玻璃は妙な焦燥を覚えるように、暫く付近を彷徨った。
神が自分の神域に他者を内包する状態。術(すべ)も力も足りない彼には初めての感覚で、偶に彼を訪ねてくる者にも聞いた事が無い状態だから。困り果てた玖珠玻璃は一旦足を止め、瑞波の気配を辿ったが掴み損ねて消えていく。ならば耀なら……と辿ったが、こちらも同じ。山に咲く花の香りが、漂って消えていくのと似ているか。
此の近くである筈なのに。水脈の中で彼は思った。
少し大きくなった体。扱える水の量も増えたのだ。遠くの街に出掛けていく耀の姿も、ほぼほぼ追えるようになったと思う。そんな自分がこんなにも彼等の近くに居るというのに、何か得体の知れない力で出会えなくされている。無事に帰ってくるなら”善し”だが、登ってくる胸騒ぎは何だろう……? 玖珠玻璃は少し前、彼等が気にした話題を思い、此処がその山なのだ、と気付くのだ。
だとするのなら、何としてでも彼等に会わねばならない。もう一度、瑞波に意識を合わせ、駄目なら耀に合わせたか。苦心しながら何度か挑戦するうちに、人が夢を視るように、異界と見(まみ)えた玖珠玻璃だ。ぽつりぽつりと断片が奥の目に浮かんで消えて、蟒蛇(うわばみ)のような化け物と戦っている耀が視えた。
瑞波は苦しい顔をして、後ろの栄次を守って見えた。そのうち栄次も、守られるだけじゃ駄目だ、と考えたのだろう。耀と瑞波の守りの手を掻い潜ってくる化け物に、怖じながらも意地を見せ、持ち前の才で振り切った。水遊びをした際に、滝壺に沈んだ栄次だが、そもそも体を動かすのが上手いので、無茶な遊びをしがちなのだろう。それが活きたというように、栄次は着物一枚の差で化け物の手から逃げていた。そんな動きがあるか、と玖珠玻璃が思う程。よくあそこまで体が動く……感心する勢いだ。
それで、栄次か────と、思いつく。
瑞波”様”が言っていた。その子は貴方が守護する土地の近くに生まれた子供である。国を治める神々が生まれた子供を守るため、近くに居る神との縁を太くしている場合がある、と。元々の相性もあると言ったか。子供とはいえ自分の事を初めから視ていた栄次である。もしかしたらその”縁”を辿っていけるやも。そうして玖珠玻璃は初めて人との縁を辿った。
瑞波の事を辿った時と、耀を辿った時とも同じ。何か見えない郡葉(ぐんよう)があり、壁のように隔たれる。細く細く絞られていく縁を切らさないようにして、玖珠玻璃は邪魔な枝葉をすり抜けた。
成る程。元が太い縁。瑞波”様”が言う事を理解する。
耳に挟んだだけと言ったが、貴重な話だと思う。どうして神の集団が嫌いなのか知れないが、玖珠玻璃は子供らしくも、”呼ばれる”と面倒なのだな、と。生まれながらに強く成る事を約束された竜神は、有象無象がある種の規律を守る為、習合して生きていかねばならない、理解が追いつかない。
壁を通り抜けるうち、蜘蛛の糸程にも細くなる、栄次との縁を辿った彼は、薄氷(うすらい)のような膜の奥に、急激に広くなる界を感じた。それは神域と言われる結界を越す直前、蜘蛛の糸が運よく通る小さな小さな綻びの先、人の子の霊魂を潰さんとする勢いで、口が裂けた化け物が突進してくる様子が見えた。
咄嗟に腰の剣(つるぎ)に手を掛け、小さな綻びに飛び込んだ。化け物が相手だと解釈した彼の剣には、容赦が無いどころか強い神気まで乗っていた。小者だか”良くないもの”が山に湧いた事がある。それが良くないものであるのを知らなかった彼だから、緩慢と様子を窺い、結果として処置が遅れた。大きくなってきた頃に知り合いの神に注意され、手伝って貰って片付けたのだが、大きくなってしまっただけ大変な仕事になった。
あれは見ても分からなかったが、これは見ただけで分かる化け物。栄次の縁を頼りに踏み込んできた玖珠玻璃は、ありったけの力を込めて、顔から斜めに切り捨てた。
絶命には至らなかったが断末魔のような声が響いた。化け物と思って急いで来たから、神と言われて困惑をした。女神様……女神様……? この化け物が……? と少年は思う。少年、玖珠玻璃は、未だ生まれて数百年。良いも悪いもこれから広く、学んでいく時である。見た目に騙されてはいけない。行いに騙されてもいけない。目の前の山祇(やまつみ)は、彼にも学びを齎すのだろう。全力で切った筈の相手が、痛い、で済ませた現実だ。一緒に相手をしてやるという、懐の深さは”流石”であるか。おいで、と妖艶に微笑まれた玖珠玻璃は、初めて女神の事を恐ろしいと考えた。
いつか自分も伴侶を得たく、瑞波”様”が女神であれば良かったと思ったが。そも、女神とは、斯くも恐ろしいものであるのか────と。
『避けろ! 玖珠玻璃!!』
『────っ』
耀に叫ばれ飛び退いた。
栄次は既に遠くへ逃げて、驚いた顔で自分を見ている。神域における、ある種の相性の良さ故か、耀に出来ていなかった”女神を押し除ける力”を見遣り、クスは神様だったのか!? と、あの日の友の言動に、漸く追い付いた顔をして見ていたか。
ついでに、凄ぇ! 何だあれ!? 手も使わずに回ったぞ! しかも後ろに!!
栄次の感動には暇(いとま)がない。
女神とは恐ろしいもの……気持ちが萎んだ玖珠玻璃にとって、神域で滲み聞こえてくる栄次の心音は、救いというか、切り替えというか、助けになるらしい。
加えて耀が遠くで叫ぶ。
『玖珠! 遠慮はしなくて良い! 女神様も腹の中に溜まった穢れを吐き出したいらしい!』
俺達だけじゃ足りなかった! 来てくれて助かる! と。
聞いた事の無い話であるが、恐ろしい女神も奥で微笑む。扇の端を口に添える動きは、化け物にしては優美な形(なり)である。それから”穢れ”と叫んでいたか。瑞波に「才がある」と言われていた玖珠玻璃は、自らの才を以ち、穢れの部位を視たようだ。
成る程、あの赤黒い所が────。
耀の穢れは真っ黒い。
そうして玖珠玻璃は、穢れにも種類があるのを知った。
少し前に見た通り、耀は苦戦を強いられている。遠慮しなくて良いというより、女神の動きを見ていれば、自分を足して”ぎりぎり”だろうと思うのだ。玖珠玻璃だって剣(つるぎ)を握ったばかりである。耀より神掛かった動きが少し出来、ほんの少し力が強いだけなのだけど。
それでも立ち向かわないという選択は無い。女神は腹の中に溜まった穢れを吐き出したいと言ったらしい。死人と蜈蚣が繋がった化け物の形をした彼女の腹に、確かに赤黒い球体がぎゅうぎゅうに詰まって視えた。あれでは苦しかろうと思うし、耀に感じていたような、忌避感が浮かんできたので眉間を絞った玖珠玻璃だ。
貰った剣を握りしめ、そこに祓えの意思を乗せる。感覚は瑞波が教えてくれた。あとは経験を積むだけ、と。瑞波の力には遠く及ばぬけれど、乗せたほうが効くだろう。
振り下ろされる尻尾を頭上で受けて、神気を放って振り上げた耀を見る。
久方ぶりに目にした太刀だが、禍々しさは健在だ。禍々しいのに、耀が手にすると神々しい気を放つ。魅力的に映る太刀だが、玖珠玻璃が持ったらたちまち狂う。他の神もそうだろう。どうして手にする事が出来るのか。耀の中には神の気配と、人の気配と、穢れの気配。穢れた太刀を手にしても狂う事なく振り抜ける、耀は不思議な人間で、玖珠玻璃の友神だ。
すっと息を吸うように敵を見据えた竜神は、耀が再び女神の攻手を受け止める姿を見遣る。視線がそちらに向いていたから、無防備な体の裏を目指して、波型に反った体の間へ滑り込むように駆け出した。
女神は寸でに気付いたのだろう、折り曲げていた長い腹を下ろして、玖珠玻璃を丸ごと潰そうと動いて見えた。その隙を見逃さず、耀は右手の下へ向かった。瑞波は耀の狙いを読んで、玖珠玻璃を潰そうとする女神の腹を、少し強めに叩いたか。他も数箇所叩いてやって、自分の意識がそこにあるのを、女神に印象付けるように働いた。
急に落ちてくる腹を見上げて、玖珠玻璃は”ひやり”としたものの、瑞波の一撃の隙を見て、その下から逃げ果たす。耀の動きを読んでから視線を栄次へ向けて、さも、そちらの確認を強くした”ふり”をした。ついでに近くに来た足を数本、容赦無く薙いでいく。切られた場所から”どろり”とした穢れが流れ落ち、また足が生えてきたのを苦渋と見た竜神だ。
瑞波はそれが再生されて穢れが少し薄くなるのを、玖珠玻璃と同じように苦々しい顔で見た。人が使う薬に似て、異(い)なるものが”生贄”だ。一度口にすれば神外の力を得られ、段々虜になって、食べる度に気が狂う。その”力”を使ったのだろう、だから薄くなる穢れであって、女神の正気が少しだけ失われた事に気が付いた。
あぁ、そうか────と、瑞波だけが気が付いた。いくら穢れを飲み込んだとて、狂わない耀や凪彦の事である。祓えの三神は特別であり女神であるので、祓い仕事が生まれた時は専ら瑞波が随行するのだ。嫌だと思えど瑞波とて空気を読めない訳じゃない。それに、意思が独立している祓えの神達は好ましい。危うい場所に彼女達が行くという憂いがあれば、嫌でも自分が随行した方が”まし”だから。それらの仕事先で見てきた”狂った神”達だ。成れの果てしか見た事が無かった為に、単純に、人を喰らえば、狂うのだろうと考えていた。こうした”体質”の違いだったり、”耐性”の出方があるのだな、と。瑞波が知る限りの三柱は、喰っても力を使わなければ、一先ず狂わずに済むのだろう、と考えた。
ならば……と視線は厳しく変わる。此処まで大きな女神様が狂う所は見たくない。格下の神ならば、張り手の一つで正気に戻ろう。弱い妖怪は吹き飛ぶが、元々穢れた存在だ。元々綺麗な存在である、彼女が知らずと狂うなら……傷を付けての”毒出し”は、方法として危うい……と。きっと今まで狂った事が無かった為に、喰べたいという欲求とだけ向き合っていれば済んだのだろう。無事に済んだら伝えなければ……眼差し厳しく瑞波は思う。
女神の腕の右手側を狙い定めた耀はといえば、玖珠玻璃と瑞波が作った隙で懐深く潜り込む。静かな性格の彼らしく、潜むように進んだが、太刀を振る気配を読まれて寸でで奥へ逃げられた。すかさず尻尾を振り下ろされて焦った耀だけど、太刀の反動で逃げた先で、玖珠玻璃の剣に助けられた。
礼を言う間も無いように蜈蚣の胴が二人を薙いで、それぞれ別の方向へ引き離す。両者仕切り直しというように、改めて睨み合う四柱だ。
これを幾度か繰り返すうち、耀と玖珠玻璃の息も合っていく。二人の息が合った様は”筋が良い”様子であって、武神のたまごと言われても遜色のない身のこなし。互いに互いを信頼し、信用するから出来る攻め手は、はらはら見守る瑞波の目にも、見事なものに映ったようだ。次第に栄次は自分の身を瑞波の後ろに置くだけでよくなり、瑞波も偶に手を貸すだけで良いので考える余裕が出来てきた。
玖珠玻璃が足を薙ぎ、幾度か胴に当てていくと、その度にどろりと穢れが零れ、女神の正気が削がれていくが。瑞波はそちらも見守りながら、大きな浄化の意思を、固く強く高めていった。
如何に大神に匹敵する位にある女神でも、一度に三柱の相手をすれば小さな隙が増えていく。豊穣の神であるのもあろうが、相手をする三柱は、祓えの男神、幼くとも強い竜神、未だ神位はあやふやな人の子なれど、ぶつかったなら痛いじゃ済まない神器を握る少年だから。御自身(おんみずから)”良い”とは言ったが、息の上がる戦いで、それこそ狙った状況とはいえ、嬲られるのは悔しそうだった。
耀は玖珠玻璃が来てからの女神の動きで気持ちを読んで、あぁ、この方は屈服するのを善しとしない方なのだ、と。勝手な想像であるけれど、豊穣の神らしからぬ、強く高い気高さを垣間見た気がしたのである。
或いは、それこそ女神たらしめる気位なのかも知れないが、そりゃあ天津神が示した階級に、組まれるのを善しとしないだろうな、と。ある意味、凪彦に通じるような独神(どくしん)ぶりを感じ取り、強い方だ、と尊敬を込め、握った太刀へと耀は力を込めたのだ。
食べてしまった穢れを全て吐き出してしまいたい、と。もう生贄を取らずとも良いように、と思って下さったのだから。瑞波と玖珠玻璃の手を借りられる、幸運な自分なのだから、この期を逃してはならないし、女神様にも報いねばならない、と。
焦ったつもりは微塵も無いが、耀の目には段々と、打ち取れる”筋”が見えてきた。だから、その時、逃さぬ────と。
耀の預かり知らない場所で、正気を削られていた山祇(やまつみ)が、全身の爪を降り注がせて、本気で自分達を消そうとした中を、背に幾本の爪を受けながら、痛みを無視して進んだ先で、床に太刀筋を引きながら、振り上げ、切ろうとした人の子を。
視界に収めた女神は真に、消さん、と全身全霊を掛け、まるで頭突きをするように、動いた刹那の事だった。
『あっ』
それは駄目です……!! と、溜めていた浄化の気をぶつけ。
それでも”足りない……!!”と無言で嘆いた瑞波の対角で。
『耀!!!』
玖珠玻璃も何かを感じ、不意の竜体で女神の足を。
足から転ばせるように、体当たりしていったのだけど。
頭に”切る────!!”しか浮かばなかった耀の集中力だから、凛とした双眸と、女神の視線が交わった時。
ひゅっ……と息を飲み込んで金切り声を消した瑞波の目には、黒髪の子供の男神と、見つめ合う酷薄の女神の顔が、布一枚でぶつかるような瞬間の光景が。
額と額が合わさる刹那、耀の太刀は低い位置にあり、女神の頭突きに対すると、絶対に間に合わない────と。
顔を背ける事も出来ずに、涙が零れた瑞波の前で。
耀は懐かしい……懐かしい声を、耳にする現(うつつ)に逢ったのだ。
『全く……お前は無茶をする……』
『…………?』
『だから、暫く側に居てやるよ────』
と。
ふわりと体の中から何かが出て行く感覚がして、手に何かを握った子供がそれで女神の顔を打つ。
ぱぁん、と乾いた音がしたのだろう。
神々が使う結界術とは少し異なる結界(かべ)が出来、出て来た勢いをそのままに、男児は女神を打ち据えた。
『やれ、耀。今しか無いぞ』
落ち着いた、聞き慣れた、それは懐かしい声である────。
耀はほぼ無意識に、握った太刀を振り抜いていた。
『飲め────呑め────喫(の)め────耀よ。お前の”仕事”だ。俺等を呑んだあいつを丸のまま、呑み込んだ時のように────』
『────!!』
耀の中から出てきた男児に顔を強く打ち据えられて、腹の下から切り上げられた女神の中からは、どろどろと穢れが零れ落ち、見る間に床が汚れていった。
彼女の聞こえない断末魔が響く中、見慣れない男児は凪彦のように、持てる”力”でそれらを小さな玉にした。
強大な”結界”の力である。元は守護、主人(あるじ)を守り抜く力の筈だ。それは彼の中で大きな進化を遂げて、耀を”守る”カタチとなって顕現したようだった。
『瑞波様、念の為、今一度大きな清めの意思を』
『え……えぇ』
『俺がそれをまとめて、耀に呑ませる玉にしますので』
耀を失う恐怖から一転、頼まれて気を戻した瑞波である。
神器の鈴を手にすると、祓えの意思を降り注がせた。
どうか、こちらの女神様の、穢れが清められますように。
願った意思は光となりて、彼女の体を浄化した。
流された穢れを集めた男児である。穢れの元は集落の子供の魂魄だ。今は汚れてしまっているが、耀の中で綺麗にされる。この場で打ち捨てられるより、ずっと転生が早まる筈だ。
耀の中で慰められて、心が軽くなるように。
きっと自分と同じように、進む力を分けて貰える筈だ。
集めた穢れを耀に差し出し、呑め、と語った丈弥(じょうや)である。
耀は差し出された穢れの玉を見て、あぁそうか、と悟った顔をした。
俺はその為に此処に居る────。
玉を呑み込んだ耀である。
また暫くは穢れで体が重くなるだろうけど、目の前の友のように、彼等を浄化出来るのだ、と。
それこそが”お前の仕事”になる、と。
目の前の丈弥は無言で頷いた。
『丈弥……丈弥……久しぶり……!』
女神の事も、瑞波の事も、玖珠玻璃も栄次の事も忘れて、耀はその人に抱きつくと、万感の想いで泣きついた。
凪彦に記憶を預けて一年半。浄提寺(じょうだいじ)で世話になった、小坊主の先輩だ。耀が呑み込んだ神に呑まれた、三人の犠牲者のうちの一人である。
『お前は本当に仕方ない奴だな』
と。
泣きながら抱きついてきた後輩の事を、抱き返して頭を撫でてやる懐を見せた丈弥である。彼はずっと耀の中に居て、全てを見ていた理解者だ。耀が成長したように、あの頃よりも少しだけ、大人になった雰囲気のある丈弥である。
『丈弥、どうして……?』
問いかけてきた後輩へ。
『魂魄の浄化が済んだんだ。亡骸を見舞ってくれただろう? 半分、お前の側に居て、神に取られたものと合わせて、俺達はお前の中で一度、眠った。離された魂魄が戻るのも、時間が掛かるから。あの世へ逝くのと迷ったが、一応、世話になったから。暫くお前の側に居て、眷属ってやつをやる事にした』
多分、お前が持っている神の気が移ったんだろう。守護さんというよりは、神使の並びに近くなる。成仏は遠のくけれど、色々出来るようになったから。俺も”続き”を楽しむし、存分に使ってくれよ、と。丈弥はからりと口ずさみ、よろしくな、と微笑んだ。
情報量が多すぎて、え? と固まる耀である。
『繋がっているだろう? 俺とお前は。綾世(あやせ)が言っていたように俺は守護の力が強いみたいだ。お前を守ったり、結界を張れたりする。あぁそうだ。怠けずにちゃんと修行をすればだな、篝(かがり)にも柳衣(やない)にも、予定より早く会えるぞ』
と。
さも当然、当たり前、と返してきた丈弥を見遣り。
急に涙が引っ込んだ、耀は子供の顔をして。
『は? 眷属? どういう事?? 修行? 修行、って?? 待って待って、二人とも、今は俺の中に居んの!?』
驚愕混じりにあたふたと、慌てる耀を見るのも珍しかったかも知れない。
取り敢えずよろしくな、と、爽やかに返す”兄さん”を見て。暫く人間らしい動揺を、晒していた耀である。