マガジンのカバー画像

君と異界の空に落つ 第2章

48
浄提寺を降りて祓えの神・瑞波と共に、旅に出た耀の成長の記録。 ※BL風異界落ち神系オカルト小説です。 ※何言ってんだか分からないと思いますが、私の作品はいつもこんなです。 ※古…
運営しているクリエイター

2024年5月の記事一覧

君と異界の空に落つ2 第39話

 耀(よう)は養い親である善持(ぜんじ)から、十分な飯を貰っているので、畠中の家で出された夕飯が特別多いとは感じなかった。けれど、綺麗に並べられた皿の上に、これまた綺麗に盛り付けられた料理である。筍(たけのこ)の煮物には山椒の芽が飾ってあるし、若い蕗の煮物は美しい緑色、焼き魚の下に彩りを添えるよう、ベニシダの新芽が置かれて食欲をそそってくれる。汁からは香ばしい味噌の匂いが漂って、品よく盛られた玄米も美味そうだった。  まるで客をもてなすような綺麗な料理だが、家にあるもので済ま

君と異界の空に落つ2 第40話

「古来より武力というものは卑しいものとされている。大陸でも官僚、つまり文官が国政に影響力を持つ。それは儒教が根底にあり、国家とは斯くあるべきという、人民の中にある理想と道徳、知性を持つものが、政をすべきであるという思想に基づく。つまり文尊武卑であり、武は軽んじられるものなのだ」  流れてきた大陸人の影響を受けたこの国も同じである。戦いを担う武士(もののふ)は乱世においては重要視されるものの、一度(ひとたび)平定が叶った後は文官が世を治める、というように。 「書記や古事記を

君と異界の空に落つ2 第41話

「その木刀はどうしたんだい?」  拝み屋のお師匠様が言う。 「あ、これは九坂(くさか)様が譲って下さいました」  ふぅん、という顔で眺めた”さえ”は、習うのかい? と聞いてくる。耀は少し緊張しながら「そのつもりです」と返すのだけど、こっちの修行はどうするんだい? と咎められる事もなく、むしろ「その方が良いだろうね」と返してくれたのだ。 「毎日通うのは大変だろう。うちに住むかい?」 「あぁ、いえ」  と。  そうか、さえさんはそっちの”つもり”か。  苦笑を浮かべた耀

君と異界の空に落つ2 第42話

 開ききったつくしの芽、頭を丸めた蕨の芽、湿った場所には”こごみ”が集い、蕗の薹も薹が立つ。足元には丸い蕗の葉が広がり始めた様子であって、畠中の家で出された食事を思い出した耀だった。  水を飲みに整えられた水場へと降りていけば、清流のあちこちに芹が腕を伸ばすようだ。芹は寺の畑を通る小川に生えると知っているので、此処で採っては帰らぬけれど、此処にも食べられるものがある、と記憶した。  耀は清水で喉を潤しながら、帰りは”さえ”の足に合わせずに済む訳で、行きより早く戻れるだろうと考

君と異界の空に落つ2 第43話

「只今、戻りました!」  意気を込めて声を出す。  寺はいつも通りのようでいて、何処か静かで寂し気だった。  そこへ耀の声が響くと、吹き返すように賑やかになる。急に鶏の声が響くし、善持が走ってくる音もする。風が吹き抜けたようになり、木々のざわめきや鳥の声も。 「無事かぁ!?」  家の後ろから現れた善持であるので、もう一度「遅くなりました。只今、戻りました」と返す。  笠を結える紐を解き、背中の籠を下ろして見せる。自分達の為に途中で摘んできたのを知ると、善持も嬉しそうな顔

君と異界の空に落つ2 第44話

『此処までどうやって登ってきたの?』 『水を辿って』 『あれ? でも、この川、寺の川まで続いていたっけ?』  玖珠玻璃(くすはり)は湯に浸かる耀を見ると、地面の下の水路も辿れる、と。相変わらず”きりり”とした顔で呟いた。  それから、『町はどうだった?』と聞いてきて、外の様子に興味を示したようである。耀はのぼせぬように、一度、温泉の外に出て、丁度良い岩に腰掛けた。 『人が沢山居たよ。お店もあってね。縁結びの手伝いをしてきたんだけど、望み通り上手くいったらさ、剣術と武術を習