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白杯選者の一人、亀山こうきの特選6句の発表(亀山賞)

 参加者197人。投句数516という、かなりの規模の俳句大会になった白杯。良い句がたくさんありました。その中から特選ということで、小生が特に気に入った句、6句を発表します。

 まず516句の中から、予選ということで気になった句を片っ端から選んでいったら45句になりました。そのなかから6句に絞り込みました。かなり無茶なダイエットですが、やりきりました。勿論選びきるまで作者の名前は伏せて行いました。選ばれた人は本当におめでとうございます。そして選ばれなかった人も、そもそも選ばれる確率が1.1%程度の狭き門です。泣く泣く選べなかった句も沢山あります。あまり気にされずに、今後も俳句、楽しまれてください!

 それでは……

・亀山賞(特賞)


秋雨にクロックムッシュ焼ける音

作者 マヒルムラサキ さん

 光景が浮かびます。とてもやさしい景色です。でも少し泣きたくなるのは何故でしょうか。それはきっと秋雨「に」としたことによるのでしょう。「秋雨やクロックムッシュの焼ける音」と、整えると俳句らしさが出ますが、この何気ない、素朴な優しい景色に対しては少々仰々しいかもしれません。「に」としたことで、秋雨のしとしと降る音と、クロックムッシュが柔らかく焼ける音とが一句の中で絶妙に同居します。飾らない、作者の普段の生活が見えてきます。この一文字の差で世界観が変わる。まさに俳句の醍醐味です。そして「秋雨の降る様子」と「クロックムッシュが焼ける音」以外の何も説明をしない。なかなかできることではありません。何かを人に伝えるときは、意図が伝わるかどうか不安であれこれと説明したがるのが人情です。しかしこの句にはそれがありません。作者のマヒルムラサキさんは作詞家とのこと。さすが言葉のプロだなと感心致しました。この句を見て、クロックムッシュを初めて食べたのは秘密です(笑)おめでとうございます!

・亀山賞次席(2位)


銃を咥える空想をして銀河

作者 springs さん

 カッコいいの一言です。「死んでやろう」「こんな人生もういやだ」誰しもが一度は思ったことがあるはずです。ここにピストルがあれば、引き金を引くだけでこの辛い世からおさらばできるのに……「死んじゃいけない」、「生きていればいいことがある」なんて励ましは安っぽいヒューマニズムでしかありませんし、「お前に何が分かるんだと」少し腹立たしくさえあります。しかし、世界はとても美しいんです。その美しさの中に自分と言う人間が存在しているというだけでも、生きる価値があると小生は思っています。辛くなったら空を見上げてみてください。そこには何千年と変わらない美しい星空が広がっています。見えないだけなんです。そこにあるんです。この句はそんなことを改めて示してくれているように思います。まるでロマン・ロランの「ジャン=クリストフ」やユーゴーの「レ・ミゼラブル」を読み終えて後のような、生命に対する尊厳を感じます。美しく、カッコいい一句。出会えてよかったです。おめでとうございます!

・3位


牛飼いの娘は無口朝の月

作者 y=Rx さん

 「牛飼いの娘は無口」とはなんと詩的な表現なのでしょう。そして、なぜ無口なんでしょう。人間に失望している娘さんなのかもしれません。しかし、悲しさはこの句からは感じられません。言葉にしなくとも大好きな牛とは分かり合えている。私には牛がいるから。そんな強さも感じます。そんな、けなげに働く娘さんを「朝の月」という清涼な季語が見事に支えて、景を浮かび上がらせます。流石アポロ杯で大金賞をとられた実力者。季語の選び方が絶妙です。おめでとうございます!

・4位


星飛んで宅配便の止まる音

作者 junchan さん

 この句を一目見て『魔女の宅急便』を想いました。素敵な配達員が、素敵なものを届けてくれる。そんな先ぶれとして星が飛んでいるようです。星飛ぶとは流れ星のことです。「流れ星宅配便の止まる音」でもよかったのかもしれませんが、これだとちょっと味気ないですね。星飛んでとしたことで、ちょっとおてんばな、元気な配達員の様子が伝わってきます。佳句だと思います。おめでとうございます!

・5位


蔦の診療所で読めるドラえもん

作者 菊池洋勝 さん

 この痴呆的なまでの長閑さはなんでしょう。俳句の大会に投句といったら誰だって少なからず、肩に力が入るものです。しかし、この句からはそんな力みを一切感じません。俳句とは読み手の人生そのものであると思っています。日記と俳句の違いは、共感性の有無です。作者は蔦の診療所でドラえもんを読んでいた。それだけしか言っていませんが、どこか不思議と懐かしい。17音を触媒に、読み手の記憶の底の思い出を蘇らせてくれる。まさしく共感性抜群の一句。なんてことを思って作者を調べてみたら、句友の菊池洋勝さんだった。流石です。

・6位


カレンダアをちぎるその音が悲しい

作者 そら|肩書きのないnoter さん

 流浪の俳人、種田山頭火の「まっすぐな道でさみしい」を彷彿とさせる無季の俳句。季節感はないし、破調。それでもしっかりと核には俳句らしさがあります。俳句の大会だから、無季の俳句は選外にしようと思っていたのですが、あまりにも心に惹かれたので選びました。「その」が絶妙ですね。自由律俳句というと「自由」が強調されがちですが、やはり「俳句」なんです。自由律俳句に興味がある方は是非そのことを覚えておいてほしいです。

・他の先生方の選者賞のリンク


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