パンデミックが「終わった」英国で写真を考える

パンデミックが「終わった」。

そう断言していいかどうか分からないが、ここイングランドでは、法的拘束力のある規制はすでになくなり、マスクをする人も少なくなった。最初のロックダウンが発表されてから2年となる3月下旬には、ガイダンスのみとなっている陽性者の自己隔離もなくなるかもしれない。以前から言われていたようにエンデミックとなるのだろう。

仕事柄、写真を考えてみたい。この2年のパンデミックを象徴する写真は何だろうと時折考える。パンデミックの初期はマスク、人のいなくなった繁華街、ソーシャルディスタンスをとってスーパーに並ぶ人たち、買い占めで空になったスーパーの棚、病院の前の救急車などが多かったように思う。

もちろん最前線で奮闘する医療関係者を撮影したものもよくみた。その中でも印象的なポートレートに仕上げたのがジョアンナ・チャーチルさんの「メラニー」だ。チャーチルさんは自身も看護師で、仲間を何人も撮影している。「メラニー」は「Hold Still」という写真集の表紙にも選ばれている。インスタグラムで他の作品も見ると、この人はほぼ自然光で撮影しているように見えるのだが、この写真はスポットライトのような光がまだ若いであろう看護師に画面左上から当たっている。人物は縦写真のほぼ中央に左に向いて座っていて、顔だけカメラの方を向いている。画角に違いがあれど、フェルメールの「真珠の首飾りの少女」のようだ。しかしこの看護師は眉をひそめてカメラを睨みつけている。完全防備とは言い難いビニールの防護服と手袋、防護マスクをつけ、おそらく長いであろう髪を無造作に後ろで括った頭には、透明プラスチックの防護メガネが乗っている。一言で言えば、初期の切迫した感じがよく出ている。専業の写真家が撮ったらこうはならなかったかもしれない。

世界中の報道写真家が応募すると言われる世界報道写真(World Press Photo)で2021年の大賞に輝いた、つまり2020年に撮影された報道写真からトップに選ばれたのはデンマークの新聞社のスタッフ、Mads Nissenさんの考え抜かれた作品。ブラジルのケアホームの老人が看護師にビニール越しに抱きしめられているというものだ。ほぼ左右対称の構図で、背景は暗く落ちている。老女を抱きしめる看護師の手は透明ビニールに通されているのだが、それがちょうど老女の背中で天使の羽のように見える。完成されすぎている気がしないでもないが、この写真家のスタイルなのだろう。取材の下調べには念には念を入れるらしく、連絡先などエクセルに入力してまとめるそうだ。

取材対象は同じパンデミック下のお年寄りでも、Nissenさんと逆のアプローチを取ったのがキアラン・ドハティさんだ。この元ロイターのフォトグラファーは古いフィルムライカで期限切れのイルフォードを使って年老いた父親を撮影した。ガラス窓越しにハッピバースデーを歌う子供たちを見つめる老父の後ろ姿をとらえている。モノクロの荒れた粒子がこの写真をインスタグラムのフィードの中で一際目立たせることは想像に難くない。ちなみにこの写真はサンデータイムズ誌に見開きで掲載された。ドハティさんは過去にデジタルのライカで撮影したウィンブルドンのストーリーで世界報道写真展の賞を受けている。この作品も応募しているのだろうか。

最初のロックダウンからちょうど2年の3月24日、世界報道写真展の地域ごとの受賞者が発表される。パンデミックの写真が今年も選ばれるのか、選ばれるとしたらどんなテーマでどういう手法で撮影されたものになるのか。

今回は報道寄りの写真ばかりになってしまったが、機会があればアート寄りの作品も紹介してみたい。

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