見出し画像

夜間飛行

あの日…ボクはいままでにない経験をした。
街灯
車のランプ
マンションや家の部屋の明かり
自動販売機
月と星
全ての光が星のように煌びやかでボクの背中を押してくれていた。
18歳の真冬の深夜、ボクは空を飛んでいたんだ。

「ねぇ、空って飛べると思う??」学校の短い休み時間に唐突によくある漫画の一コマみたいなことを言われ、ボーッとしていたボクは「へっ??」てマヌケな声で返事をしてしまった。
「だから、空って飛べると思う??」
と間髪入れずに聞いてくる。
「飛行機の話??」と聞き返すと、「違う!!」とキミが続けるので、「ボクは飛べないかな。落ちることを考えたら怖い。そう言うキミは飛べると思うのかい??」と返す。
「もちろんよ!!飛んで好きな人のところに一直線!!」と両手を飛行機の羽のように広げてドヤ顔でボクを見る。
「そりゃすごい…。」
ボクが言うとニヤリと笑って飛行機のような形のままスカートをなびかせながらクラスの女子の輪に入っていった。

特に仲が良いわけでも悪いわけでもないただのクラスメイト…を装っていた。
ボクはキミに惹かれていたんだ。
出来ることなら一直線に飛んで行きたいくらいだった。

ボクのクラスは学校で一番仲の良いクラスだと思う。
文化祭や体育祭などの時のクラスの団結力は、周りのクラスが若干引くくらいで人によっては羨ましがり、人によっては面倒くさそうにみられる、そんなクラスだった。
そんなクラス内で告白をしてうまくいってもいかなくてもバランスを崩してしまうのが怖かった。
クラスのみんなもそう思っていたこともあるし、それを言い訳にボクは勇気が出せなかっただけかもしれないけど。

キミとの距離が進展したのは3年生の冬。
ボクはクラスの男子数名とシブヤで待ち合わせをしていた。
少し早めに着いたその瞬間1人、また1人とドタキャンの連絡がきた。
結局ボク以外の全員が来れないことになり、シブヤで1人どうしようかと悩みながら顔をあげると、行き交う人の流れにのっていたキミと目があった。
人の間を縫うようにこっちに来て「奇遇だね~何してるの??」と笑顔で問いかけてくれた。
ボクがことの経緯を話すと「時間あるなら買い物に付き合ってよ」との提案が飛んできた。
ボクは断る理由も無ければ嬉しさを心に押し戻して「まぁ、暇だしいいよ」と返す…もしかしたらにやけていたかもしれない。
買い物にゲーセン、喫茶店と色んな話をした。
好きな音楽。
好きな映画。
好きな芸能人。
趣味の話やクラスの話。
こんなにお互いのことを話したことも無かった。
それはキミのことをたくさん知ることが出来たというボクにとってはラッキーな時間だった。
また遊びに行こう!!って約束してその日は終わってしまった。
楽しかったな。
とても幸せだった時間を思い出しては噛み締めていると、すぐに観たい映画があると誘われた。
それも2人きりで…。
初詣も誘われた。
やっぱり2人きりで…。
短い冬休みはキミとの時間が長くてキミのことを知れて幸せな時間だった。
あっという間に冬休みが終わってボクたち3年生は学校に行く日も少なくなってキミに会える日も少なくなっていた。

そんな日々が続いていたあの夜のキミからの連絡。
「第一志望の大学に合格したよ。4月からはフクオカ!!」
「おめでとう」とボクは精一杯演じた。
キミが遠くに行ってしまう現実が突き刺さる。
葛藤のなか、いきなりボクは「今から行っていい??今!!今会いたいんだ!!」と叫ぶように君に伝えると「いいよ。待ってる」と返事がきた。

全力で自転車を走らせる。
この想いをキミに伝えるために2月前半の寒い夜だというのに汗だくでそれでも休むこと無くペダルを踏んで光のような速さで進んでる気になっていた。
光と言う光が流れていく。
まるでキミの元へ飛んでいくように…。



「ねぇ、昔1回聞いたけど…今は空って飛べると思う??」
ってボクの顔を覗き込みながらキミが聞く。
「…飛べると思うよ。」とボクが言うと、「答え変わったね。なんで??」
ってキミが笑った。
「それはね…1回だけ飛んだことがあるからね」

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?