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【小説】海洋恐怖症

私が海を恐れるようになったのはいつの頃だろうか。

ハッキリと恐怖を感じたのは4歳の頃。当時通っていた幼稚園の遠足で水族館を訪れた時だろう。先に行った友達を追いかけ薄暗い通路を抜けると、ふと横を見ると自分の身長を遥かに超えた生物が蠢いていた。私の3倍はありそうなその体躯はもちろんの事、水槽のライトの色、壁に生えた水草まで鮮明に覚えている。

親に話を聞くとそれよりも前、まだ幼児だったころから私は海を怖がっていたのだという。祖父の家の近くには海水浴場があり、夏になると海によく赴いていた。
初めての海。私は5分と経たず泣き出したのだという。それまで、お風呂を恐れるような素振りもなく市営のプールでも可笑しな素振りは見せなかったそうだ。

水族館は恐ろしいところだ。
私はそう思って生きてきた。しかし、その考えは周囲から見ると異質な様でなかなか理解してもらえなかった。


海洋恐怖症とは、海や大海洋に対して 非常に強い恐怖や不安を感じる状態を指す。
深い水や深海、サメやその他の海洋生物に対して恐怖感を持ち、沿海地域や海岸、船に乗ることや水上 活動を避けることがある。
海洋恐怖症は、過去のトラウマやマスメディアの影響、遺伝的な要因や環境要因などによって引き起こされることがある。


私がこの言葉を知ったのは偶然だった。ある小説の中に、私と同じ恐怖を感じる主人公がいた。

それは私の経験した事そのままであり、共感する部分も多くあった。そこからこの病気に興味を抱き、ネットなどで調べてみたのだ。

特に、海で溺れた記憶は無い。幼い頃から怯えていた事からマスメディアの影響も考えづらかった。遺伝なのだろうか。私の両親は特に海を恐怖することは無い。祖父に至っては船乗りだった。祖父は時折、自分の航海について話してくれた。世界を回る航海の話は面白そうだと思ったが、どうしても恐怖は拭えなかった。

そんなとき、大学で心理学を専攻している友人から「一緒に心理検査を受けてみないか」と言われた。
興味があった私は二つ返事で了承した。
その日、私は友人の車でドライブに出かけていた。車窓から見える景色はいつも見ている物と変わらないはずなのにどこか違って見えた。

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