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ケンブリッジ大学経済学修士課程の評価

留学生活も残すところ期末試験と修論の執筆になったので、この時点で経済学修士課程の振り返りをしようと思います。

留学を考えている方修士レベルの経済学の勉強について興味のある方の参考になれば幸いです。

ケンブリッジ大学経済学修士課程の概要については、以下の記事でまとめたのでこちらも併せてご覧ください。

修士課程に期待していたこと

他学部の大学院生に不思議がられるのことの一つに、経済学修士課程は自らの研究を進めていくリサーチ中心のプログラムではなく、講義を中心としたインプット型であることが挙げられます。

それだけ、経済学は広く、深く、学ぶことが多いということなのでしょうか(そう思いたい)?

少なくとも、1年の修士課程で身につけられるものはたかが知れています(ちなみに日本や米国の修士課程は通常2年)。自ら経済学モデルを組み立てて、新しい理論を提唱できるようになる、とかいった大それたことは期待できません。

あくまで、公的機関などで経済学を用いた分析が行えるようになる、といった実践的な知識の修得が念頭に置かれていることを理解しておく必要があります。

さて、私の目標は①経済学の基本的な分析枠組みへの理解を深めるほか、②実証分析の手法を重点的に学ぶ、といったものです。

より具体的には、学術論文を読解し、そこでの分析を再現できるような基礎力を身に付けること。その上で、論文で示された枠組みを参考にしながら、自分で実証分析が行えるような応用力を付けたい、といった感じです。

実際どうだったか?

第一の目標である「経済学の基本的な分析枠組みへの理解を深める」ことについてはそこそこ満足できるプログラムだったと思います。

例えば、マクロ経済学はローマーの「上級マクロ経済学」を中心に、「消費」、「投資」、「失業」、「金融政策」といった基礎的なトピックの基本的なモデルをしっかりと学ぶことができます。もちろん、研究論文ではもっと高度なモデルが使われているとは思いますが、基礎を学んでおくことで、そうした最先端の論文の読解力も上がると思います。

また、計量経済学は学部生も使うWooldridgeのIntroductory Econometricsに沿った基礎的な内容ではあるものの、学部と違い、線形代数を使ってより厳密に読み進めていくので理解が深まり、今後独学をする際にも役に立ちそうな講義だったと思います。

ミクロ経済学は応用を中心とした授業だったのでなんとも言えません。ミクロ経済学を重点的に学びたい方はこの点注意が必要だと思います(前述の記事でも書きましたが、今回紹介しているMPhilの他に、PhDへの進学を視野に入れたMResというプログラムもあるので、そちらを検討してみるといいでしょう)。

第二の目標である「実証分析の手法を重点的に学ぶ」点については、「可」と評価しています。

PhDへの進学を念頭に置いていない本コース(MPhil)では、卒業後に官庁・実業界などで働く人が大半です。そういう意味で、計量経済ソフトにおけるプログラミングといった、即戦力になれるような実践的スキルの修得が大事なはずです

にも関わらず、インプット中心の授業が多く、StataやEviewsといったソフトを使って自分で分析を行うようなアウトプット型の授業が少なかった印象です。そこは修論の執筆を通じて、自分で身につけろという方針なのでしょうか。

私は「実証マクロ経済学」、「応用計量経済学」といった実証科目を選択しましたが、それでもMatlabを多少使ったくらいで、授業の大半は座学でした。評価方法が筆記の期末試験となっていることからも、インプットを重視した授業であることがお分かり頂けると思います。

もちろん、分析手法の理論的な基礎を学ぶことは重要です。とはいえ、アウトプットを通じて身に付くことも多いので、そこはもう少し工夫していただけたらより良いプログラムに仕上がっていたと思います。例えば、筆記の試験の比重を下げて、エッセイでの評価を多くするといったことが考えられます。

独学で同じ勉強ができるか?

ケンブリッジ大学経済学修士課程の費用対効果を評価するために、独学で同程度の勉強ができるか考えてみました(ちなみに、本プログラムは留学生の場合約500万円します)。

ここでは、あくまで経済学の修得という点にのみ焦点を当てます。修士課程という称号を得ることや、ケンブリッジ大学というコミュニティーに属することで得られる知的刺激といった副産物は一旦考えないことにします(本プログラムの価値はほとんどこれらが占めると思いますが)。

前述の通り、多くの講義は市販の教科書をもとにしています。というか、経済学修士はどこも似たような教科書をもとにしていると思います。そういう意味では、独学でこうした教科書を読み進めることができるならば、経済学修士程度の知識は身につけられたと言えると思います。

ただ、多くの場合こうして独学で教科書を読み進めていくことは難しいと思います。なんせ、大学院でも教科書の隅から隅まで読むことはないですし、難しい箇所はすっ飛ばします。つまり、教授が内容を取捨選択し、要点だけをかいつまんで説明してくれるという「編集力」に大学の良さがあると思います。

また、過去問や解答付きの練習問題といった教材が豊富であることも大学の良さだと実感しました。結局教科書を読んでわかったつもりになっても、自分で手を動かして問題を解かない分には、あまり頭に入ってきません。市販の教科書にも練習問題は付いていると思いますが、略解であることが多く、あまり役に立たないこともあります。

このように独学では難しいこともありますが、独学するならばどうすれば良いか?私の暫定的な回答は、経済学に詳しい友人(経済学博士取得者など)などに、自分の興味のある分野でおすすめの文献・教科書を聞いてみることだと思います。

あとは、バリバリのエコノミストになろうと思っていない多くの方からすれば、経済学理論より実践的なスキルの修得の方が大事だと思うので、計量経済ソフトで遊んでみることも良い独学の方法だと思います。フリーソフトのRを使ったオンラインの教材や教科書は結構あるので、これで簡単な回帰分析などを練習することが良いと思います。

おわりに

経済学修士課程にて、約1年間勉強してわかったことは、今まで経済学を全くわかっていなかったこと、またまだ勉強することが多いということです。つまり、生涯勉強し続けていくことが大事なのだと実感しました。ということで、今後も知的好奇心を大事にしながら、勉強を続けていきたいと思います〜!

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