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【カンボジアの歴史】イエイ・マウ②「国道4号線の祠」



「タニの呪い」を引き起こしたイエイ・マウについて、頭の片隅で気になっていたのですが、そういえば過去にその名前を聞いたことがあったかもと、ふと思い出したことがあります。

一昨年、中国企業の投資による高速道路が開設される以前は、プノンペンからシアヌークビルに向かう人々は、国道4号線を利用していました。その国道沿いで、プノンペンから丁度100キロメートルに山越えをする地点があり、その周辺はピックニルと呼ばれており、峠を越す前の路肩には多くの祠が建てられていました。多くのドライバーが休息地として利用しており、道中の安全を祈願してから旅を続けていましたが、その時の思い出が蘇りました。確かあの場所のニアック・ター(土地の精霊)もイエイ・マウと呼ばれていました。

峠に差し掛かる国道4号線とイエイ・マウの祠
イエイ・マウ



思い立ったが吉日、早速、ピックニルに行ってきました。高速道路ができた影響で交通量は激減し、栄えていた近隣のドライブイン的なお店の多くは廃業していました。その一方で、ここ数年急激に増加しているセブンイレブン付きのPTTガスステーションが新設されており、時代の移ろいを感じます。

PTTと、道路を挟んで閉鎖した多くの店舗
PTT併設のセブンイレブン


前世紀の長閑な雰囲気を取り戻していたその地域で、年長者からお話を聞いてみました。ピックニル一帯では、イエイ・マウは旅行者だけでなく、狩猟者や漁師に加護を与える精霊だと言い伝えられているそうです。フランスの植民地になる前から存在した精霊だと言う人もいれば、100年程前の実在の女性だと言う人もいます。フランス植民地時代に、「フランス人がイエイ・マウの祠を壊したところ事故が多発したが、祠を修復して祀ったら事故がなくなった」との伝承もあるそうです。

かつては、安全祈願のために多くの人が小さな祠を寄贈しました。現在ではその多くが廃棄され、少数だけ残された祠の裏には、かつて寄進された多くの小さな祠が放置されていました。

かつて寄進されたものは廃棄されていた



また、イエイ・マウは嫉妬深い女性の精霊だと言われており、男根を模したものを寄進する伝統があったようです。その痕跡の一部は現在も確認できました。近年では、男根の代用として、バナナを供えるのが一般的なようです。

イエイ・マウの祠の碑石
近年作られた碑石にも男根装飾が残っていた
古くから奉納されていた男根が、祠付近に少しだけ残っていた



ちなみに、中国の投資により開通したばかりの高速道路での交通事故が多発していることから、昨年(2023年)には高速道路のスラエ・アンバル地点にイエイ・マウの祠を作る計画が発表されたようです。時代は移り変わっても、カンボジアの伝統と信仰は根強く残っているようです。

中国企業の投資によって作られたカンボジアの高速道路。祠に参拝することもなくシアヌークビルまで一直線。

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