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ジンファンデルという盲点

ジンファンデルはワインの世界で最も見落とされている品種の一つだと思う。

イタリアのプリミティーヴォと同一品種であることが分かった後でも、様々な評論誌で高得点を取るワインが出てきても、人気は今ひとつで、注目される機会に乏しい品種だ。

その理由は、恐らく以下の二点にある。

第一に、消費者や専門家の間でジンファンデルの格付けが低いこと。欧州の有名産地のワインに慣れた人々は、例えば、フランスで多く栽培されているブドウ品種を通じて、新興産地の価値を判断しようとする「きらい」がある。Opus Oneはこうした国際比較を通じてNapaの地位向上に成功した例と言える。

裏返せば、ジンファンデルのような土着品種は、フランスでの栽培実績ががないために、伝統産地好きの消費者から見ると、味の「相場」が見極めにくい。実際、ワイン好事家の間で、ジンファンデルを含む土着品種への評価は高いとは言えず、ブルゴーニュ・ボルドー・ローヌ品種よりも一歩下がると見られている。

第二の理由は、カリフォルニア・ワインへの先入観の強さだ。曰く、果実味は豊かだが酸が不足する、食事に合わない、パーカリゼーションの申し子等、日本や欧州では未だにカリフォルニア・ワインに対してこうした見方が根強い。そうした文脈の上に位置づけられているせいか、数ある土着品種の中にあって、ジンファンデルは消費者だけでなく専門家からも敬遠されているように見える。

結果的に、これまでジンファンデルは「一部の愛好家が飲むマニア向けのワイン」と見なされてきたと言って良い。

しかし、近年、こうした位置付けが転換しようとしている。

カリフォルニアでは今、長い年月を経た畑の価値を見直す運動が盛んになっている。Historic Vineyard Society (HVS)というNPOが設立は、教育やイベントを通じて、カリフォルニアに現存している禁酒法以前から存在するような古い畑の保全や価値向上に向けて活動している。

Roberto Camuto, "California's Old-Vine Connoisseurs," Wine Spectator, 18th April, 2023

これら古い畑に植えられている品種は、ジンファンデル、サンソー、カリニャン等、単一ワインとしての知名度に欠けるものが多いが、HVSに参加している生産者達はこうした畑から素晴らしいワインを生産しており、昨今、注目を集めている。

中でも、Carlisleはトップレベルのジンファンデルを生産していることで有名だ。特に、1920年代に植樹されたMancini ranchと自社畑であるCarlisle vineyardのワインは、愛好家の関心を惹きつけて止まない。

赤スグリ、カシス、ブルーベリー、ブラッドオレンジ、オリーブ、コーヒー、ヴァニラの香り。充実の果実味、洗練された酸。タンニンは溶け込んでいる。豪奢で長いアフター。バランスは抑制的。二日目になると一層まとまりが出てきた。

このジンファンデルは、カリフォルニアらしい果実の力強さに負けない酸を兼ね備えている。複雑で多層的なワインの表現力を持ちながら、味わいは洗練されている。優れたワインの条件を満たしていると言って良い。

他品種でこれと同等のワインを探すとなると、恐らく、倍以上の値段を出さなければ見つけることは困難だろう。ジンファンデルはそれだけ見落とされている品種とも言える。もっとも、愛好家にとっては分かりきったことではあるのだが。

今日のワイン:
Carlisle Mancini ranch Russian River Valley Zinfandel 2022
94pts
https://www.carlislewinery.com

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