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「むかし試した古典技法の話」Vol.5-ドライコロジオンの作り方3- by K


こんにちは、カロワークスのKです。

8月が終わり、9月になりました。今年は四季を感じる機会が無く、気づいたら…というかたちになってしまいました。なんだか寂しいですね。
秋は行楽のシーズンではありますが、今年は旅行をしに行くわけにもいかなそうです。
今年は大人しく読書の秋・芸術の秋を楽しんで過ごすべきかもしれませんね。
(ヘッダーの写真は、過去の今頃の時期に旅行に行った際のものです。少しでもその気持ちを思い出したいなあ…と思います。)

さて、ドライコロジオンについて連載している当記事も5回目を迎えました。
自分の制作経験を改めて振り返るとてもいい機会となっています。
ニッチな記事ですが、いずれドライコロジオンの制作を志す方のためになれたら幸いです。

さて、前回は支持体の違いによるドライコロジオンプレートの見え方の違いや、ガラスプレートに必要な研磨のお話をしました。
一つ一つの細かい工程の積み重ねで結果が大きく変わるのが古典技法の奥深いところです。
今回も、大事な工程の一つである「下引き」について解説していきます。

下引きは制作の中で一番と言っても過言ではない程、準備に時間をかけるべき工程だと私は考えています。
この下引き工程をいかに丁寧に行うかがコロジオン制作の肝になります。
板にコロジオンを塗布する際、液が滑らかに流れるとムラが無く綺麗な膜となりますが、ゴミが混入し引っかかってしまったり、厚みの差が出てしまうとムラの原因となります。
また、下引きを行うことでコロジオン膜を剥がれにくくするという大きな効果を持ちます。
「乾きムラを極力減らすこと」
「ホコリをほぼ入れないこと」
を目指し、下引きをより不備なく制作するための方法を模索しました。

筆者が制作を行っていた際の下引き液のレシピがこちらです↓

●ゼラチン下引き液 約550ml分

ゼラチン…3.3g
氷酢酸…0.6ml
蒸留水…500ml

まずゼラチンを冷たい蒸留水に浸し、暖かい部屋のなかで2~3時間かけて膨張させます。
その後氷酢酸を加え、ゼラチンが溶けるまで緩やかに、アルコールランプ等で火にかけます。
そして次の薬品を加えます。

アルコール…37.5ml
ヨウ化カドミウム…1.31g
臭化カドミウム…0.33g

ここまで作り、よく溶けたことを確認できましたら、2回コーヒーフィルターでろ過したあと1日置きます。
そして、長期保存する場合は冷蔵庫に入れます。
これだけ用意できれば、8×10サイズのプレートをだいたい15-20枚ほど下引き加工することができます。当時は液を注ぎ足していたので、きっかり何枚分というよりは目分量というのがふさわしいかもしれません…

使用する際は、

・下引き液を温めるもの
・下引きした際に流れた液を入れておくもの
・流れた液を再利用する時のもの

以上3種類のビーカーを用意し、ホコリが入らないように注意してラップをかけます。
ろ過した下引き液は、温め用のビーカーに泡が立たないように注意深く注ぎます。泡が立ってしまったら、丁寧に掬っておきましょう。
この時もコーヒーフィルターにかけながら、丁寧に注ぐのがベストです。

液の用意が整ったら、蒸留水で洗った綺麗なトレーを用意し、下に新聞紙やビニールシートを敷いておきます。
トレーの近くに、壁や台など立てかけておける場所を確保して行いましょう。板の接地面にはキッチンペーパー等を張り、敷いておきます。
板を用意し、ブロアーでホコリを飛ばしてトレーに斜めに立てかけます。
そして傾斜を利用して一気に液を注ぎます。端にかかりづらいので、ビーカーを左右に移動させながら満遍なくかけるとよいでしょう。多めに注ぐことでムラやゴミを避けることができます。
液をかけ終わったらすぐさま立て起こし、ホコリがつかないようになるべく早く塗布面を下側にして壁に立てかけます。
この際、板を縦向きではなく横向きにして立てかける方が乾燥ムラがより出にくいです。
壁と板は極力近づけ、風をおこさないようにそっとしておきます。
トレーに残った液は、一旦用意したビーカーに戻し、それからコーヒーフィルターを挟んで3つ目のビーカーに注ぎ戻します。
これを繰り返していると1つ目のビーカーの液が減り、3つ目のビーカーの液が増えていくので、ある程度溜まったら1と3のビーカーを交換して使用します。
液を注ぐ時は極力ビーカーの口を外気に晒さず、また温めている時も常にラップをかけるかフィルターを敷いた漏斗を乗せておきましょう。そうすることにより、見える形のホコリやゴミを大きく取り除くことができます。

THE TANNIN PROCESSの文中にて、下引きは
“自然乾燥ではなく、ドライヤーなどで乾燥させる方が好ましい。”
という記載があったため、当初はフィルム用の乾燥機で実験を行いました。しかし、ホコリが尋常じゃないほど付着してしまったので早々に変更し、ヘア用のハンドドライヤーで乾燥させることにしました。強い熱風で速乾できるため、ホコリの混入はある程度避けることができましたが、地層の断面のような乾きムラがどうしても出てしまいました。

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↑地層のような乾きムラに、端に液が届いていない…かなりの失敗例です。
コロジオンプレートの利点は、洗い流してプレートを再利用できるところもありますので、失敗したら流してまた実験、を繰り返します。


この時に入った地層のような線は現像後も残って現れてしまうため、ハンドドライヤーの使用は諦め自然乾燥にシフトしますが、依然ホコリやゴミが混入する問題がありました。速乾することに注目していたので、次にドラフトチェンバーを使用して乾燥を行います。
以前よりムラも、ゴミの混入も少なくなりましたが、まだ満足いく結果は得られませんでした。
その後、先述した立てかけの位置に気をつけ、液を度々濾過するなど丁寧に試行した結果、自然乾燥でもほぼムラなくゴミが入らない方法に行き着くことができました。
注意する点は

・とにかく液にゴミを入れない!
・気泡を作らない!
・慎重に立てかけること!


です。これをこなすことは非常に骨が折れますが、先述したように下引き工程で十分に気を遣いプレートを作ることで、美しいプレートを作るための大切な土台ができるのです。

乾燥させたゼラチンプレートは暗箱の中に入れて、温度湿度に気をつけてさえいれば無期限に保存することができます。
あらかじめ下引きプレートをできるだけ多く作成し、準備しておくと後々楽になります。

次回はいよいよコロジオン液を塗布する工程のお話に移ります。
地道な作業が続いていますが、次回もどうぞよろしくお願いします!


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