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「むかし試した古典技法の話」Vol.3-ドライコロジオンの作り方1- by K

こんにちは、カロワークスのKです。
月に1回連載の当記事もついに4回目になります。
前回の記事で梅雨のお話を書き、次回の記事では梅雨明けのご挨拶ができるといいな…などと考えていましたが、まだ梅雨の真っ只中であります。。
昨今の梅雨は昔の梅雨のイメージとだいぶ変わってしまったように思います。これも環境変化の影響なのでしょうか…
記録的な豪雨被害に遭われた地域のみなさまに心よりお見舞い申し上げます。


当記事は写真術の黎明期のお話を中心に展開していますが、今回から実際にドライコロジオンの制作を行なった時のお話をしていきたいと思います。
専門的なお話となりますが、ご覧いただけますと幸いです。

さて、前回ではコロジオン湿板の利用に限界を感じ始めた写真家たちのお話を書きました。
人類の視界が広がると同時に、写真の技術も手軽さを求めたことがわかりますね。
湿板の煩雑さを無くし、より簡便にするために当時の人々が考えた方法は、以下のように大きく3種類に分けることができます。
*「乾板」というと一般的にはゼラチン乾板を指して使われますが、ここではコロジオン乾板として用いることとします。

(1)「湿った状態を保持する方法」
(2)「保護膜を施す方法」
(3)「硝酸銀を一度洗い流し、処理をする方法」

 (1)はその通り蒸発を防ぎ、湿気を保たせる方法です。
板に感光液を塗布し、硝酸銀に浸けて感度を持たせた状態(「銀浴」と言います)のまま、その上からもう一枚ガラス板を密着させるというもの。または、蜂蜜や水飴を塗って保湿させる方法があります。
非常にアナログ(古典技法自体がアナログですが…)といいますか、物理的に乾燥させない方法です。
しかし、ガラスを重ねることで板の重量が増したり、保湿材の取り扱いも難しく、ベタベタとしてしまい考えただけでも不便です。総じて、この方法は実用には不向きだと考えました。

 (2)はコロジオン膜の上に別の膜を張るという考え方です。コロジオン膜の孔のなかに卵白やアラビアゴム、ゼラチンなどを入れる(上から塗る)ことにより、孔の閉じを防ぐという方法です。
フランス人科学者 ジャン・マリー・トーペノ(Jean Marie Taupenot 1824-1856)発案の卵白でコーティングする方法や、
リチャード・ヒル・ノリス(Richard Hill Norris 1831-1916)発案のゼラチンコーティング法があります。
しかしこれらは成功事例が見つからず、また著しく感度が低下してしまう難があったため、制作には使用しませんでした。

 (3)はコロジオン乾燥時に析出してしまう余剰な塩類をあらかじめ洗い流し、タンニンなどヨウ素と化合しやすい 物質でコーティングする方法です。
洗い流しによって感度が低下しますが、タンニンによりヨウ化銀の感光力を増幅させ、また現像液に硝酸銀を足すことによって不足した感度を補うことが可能な方法です。
このタンニンプロセスはチャールズ・ラッセル(Charles Russell 1820-1887)が発案し、当時広く知られることになります。ウィーンの写真家 ウィルヘルム・バーガー(Wilhelm Burger 1844-1920)が明治元年に長崎で撮影したタンニンプレートは、制作から9ヶ月経ったものを使用したとされていますが、それでも綺麗な像が得られている、との文献も残されています。

また、チャールズ・ラッセルは「タンニンプロセス」というそのままのタイトルで本を出版しています。

スクリーンショット 2020-07-12 16.23.12

引用:Googlebooks
Googlebooksで無料で読むことができます。
この書籍を参考に制作を行いました。

 コロジオンプロセスは、透過物を支持体として像の膜を載せればネガとして利用することができます。
また像の濃度より濃い色を背面に置くことによって、そのままネガ像をポジ像として見せることができるのも特徴です。「アンブロタイプ」と呼ばれています。
もっともポピュラーなのはガラスを支持体とする場合ですが、
ガラスも透明度の高いガラスであればネガに、ルビーグラス等濃い色のついたガラスを用いることでアンブロタイプとして見せることができます。
ガラスの裏を黒塗りすることでも見せることが可能です。
私は当初、このアンブロタイプの方法で作品制作を行いたいと考えていました。

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引用:Wikipedia

 ドライコロジオンプロセスでガラス上に像を作り、アンブロタイプとすることは不可能ではありませんでした。
しかし背面に置く布、ないしは黒塗りをした面と画像面の間にガラスの厚みが入ることで像が正像に見えづらくなってしまいます。
画像濃度が高いウェットコロジオンでは銀が乗っている像部分の白が際立って見えましたが、ドライコロジオンでは感光性を保持するためコーティングとして使用しているタンニンの色が着くため、像が若干茶色味を帯びることが原因と思われます。
そのため、像をポジとして見せるには、可能な限り像と黒い面が密着している必要がありました。
ガラスを用いればネガとして応用することもできましたが、様々検討した結果、作品制作にはボスティックサリバン社が販売しているティンタイプ用アルミプレートを使用しました。

次回はアンブロタイプとした際のガラス板とアルミ板との見え方の比較や、
種板制作の詳細について続きの解説をしていきます。
どうぞよろしくお願いします。



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