見出し画像

台風で無料キャンセル可能な旅行商品の提案

はじめに

2022年台風14号 (NANMADOL) は、さまざまな観点で注目を集めた台風でした。

発達のピーク時は猛烈な勢力を持ち、台風の中心がほぼ真上を通った屋久島では最大瞬間風速50.9m/sを観測するとともに、約930hPaまできれいに海面気圧が低下する様子を観測。鹿児島に上陸時の中心気圧は歴代4位タイの935hPa、宮崎県では総雨量が1000ミリ近くにもなりました。

各地でさまざまな被害が出たものの、これだけの勢力の台風であったにも関わらず比較的被害は少なかった印象で、市民の防災意識の向上や、気象庁や報道による事前の注意喚起、そして菅前総理の功績の1つである効率的なダム運用の効果などが指摘されました。

その一方で、連休中でも観光地が比較的閑散としていたことで過度な報道の影響を指摘する声や、逆にライブを強行したら帰宅難民が続出して周辺施設に迷惑をかける結果となったケースなど、付随するさまざまな事象も目に付きました。

これらの件について特に議論するつもりはありません。

今回、私の家族が経験した事例をもとに、旅行商品の設計、特にキャンセル料の扱いについて、当事者視点で書きたいと思います。

実際に起きた事象

私の家族は、9月17日・18日の日程で西日本方面で開催されるフェスに行く予定でした。台風14号が鹿児島に上陸したのが18日なので、フェス日程にクリーンヒットしたようにも見えますが、フェス開催地への影響のピークは19日だったので、まだ少し余裕があったとも言えます。

私の記憶では、フェス開催の1〜2日前にはネットニュース等で台風の影響を懸念する報道がありました。私も『フェス開催可否判断はいつになるかな?』と思いながら、台風予報や気象予測データを眺めていました。

結果としてフェス開催判断の情報が出てきたのは17日、つまりフェス初日の日中で、曰く『17日は開催するが18日は台風の影響を考慮して中止』とのことでした(※1)。

(※1)
フェスの判断については理解しますが、もう1日早く意思決定できたんじゃないかなーとは思います。
少なくともフェス開催の前日に『18日は最新の台風予報をもとに中止判断する可能性があります。17日○時に最終決定します』くらいは情報出せたはず。

さて私の家族の旅程は、興味のあるアーティストが出演する18日朝に空路で東京から現地へ向かい、ついでの予定も入れて20日に東京へ帰る計画でした。
フェス最終日の18日が最大の目的であったため、中止となってしまったら全く行く意味がありません。しかも17日の段階では、下手に18日に現地へ行ってしまうと、20日に帰れなくなる可能性もありました(※2)。

(※2)
私の記憶では、17日の段階での気象庁予報だと、台風14号は20日の復路便の時間帯にはフェス開催地エリアを通過してしまっている予想でしたが、GFS・ECMWFなど海外の数値予報モデルは、転向後の台風が偏西風に乗り切らずにゆっくり東進するシナリオを計算していました。もしこうなってしまったら、20日はフェス開催地エリアの飛行機は全便キャンセルになる可能性も考えられました。

なので、残念ではありますがキャンセルするしかありません。家族が予約していたのは飛行機とホテルがセットになっていた旅行商品でしたので、その商品を販売した旅行会社にキャンセルについて連絡を取りました。

ここで問題になったのが行きの18日、往路便がどうなるかです。

先述の通りフェス開催地の最寄り空港に関しては、18日の段階ではまだ本格的な影響が出る前でした。気象会社でエアライン向け航空気象予報を経験し、エアラインの運航管理部門も経験した私から見ても、18日朝の便はまだキャンセルになるような予想ではありませんでした。

案の定エアラインのサイトでも、家族が搭乗する予定の便についてはキャンセルや条件付き運航の対象にはなっていませんでした。

そして旅行会社の回答は『18日朝の往路便がエアラインのサイト上でキャンセルないし条件付き運航の対象便として掲載されたらキャンセル料無しだが、そうでなければ通常通り前日キャンセルで40%のキャンセル料がかかる』ということでした。

結局17日夜まで待ってもエアラインの運航判断に変化なく、これ以上待って日付が変わってしまうと当日キャンセル(キャンセル料100%)になってしまうため、仕方なく前日キャンセルをしました。

旅行会社に提案したいこと

さて今回、台風という大自然の不可抗力が原因なので、旅行会社もエアラインも旅行者も「仕方ないよね」で、誰もがプラスマイナスゼロになるべき状況のはずでした。少なくとも全員痛み分けになるべきです。

しかしながら、結果としては旅行者(つまり私の家族)のみがマイナスを喰らっており、旅行会社側はほとんど何の価値も提供していないにも関わらず、旅行代金の40%も受け取りました。キャンセル料が無料にならなかったのは、このような状況にあってもエアラインが通常運航したからでした。

…よくよく考えると、何かおかしいですよね。

旅行会社の提供する価値って何でしょう。ホテルや航空便の予約ができるサービスを運営していることが価値でしょうか。もう少し広く、旅行者が旅をする上で必要なサービスを提供することで、旅行者が旅の目的を達成するお手伝いをすることが真の価値だと言えないですかね。大げさかもしれませんが、エアラインも同様の側面があるはずです(※3)。

しかし今回は、台風のせいで、自然災害のせいで、旅行者が旅の目的を達成できる状況では無くなったのに、ホテルや航空便のサービスだけは提供できるからキャンセルするなら金をよこせと、そういう状況になりました。意地悪な書き方をしてしまいましたが、実際そういう解釈にならないでしょうか。

(※3)
エアラインに関して、私も中の人の経験があるからわかりますが、単に売上のためだけでなく、公共交通機関を担う責務として、可能な限り便を飛ばしたいと考えます。しかし場合により、ぎりぎりまで運航することが乗客の価値にならないこともあるのだな、と思いました。

そこで考えたのが、タイトルの通り『台風が来たら無料でキャンセルできる旅行商品の提案』です。
現状でも直接的に影響を受ける場合は無料でキャンセルできる旅行商品もあるとは思いますが、実際には台風の影響はもっと広範囲に及びます。エアラインはまだ運航するような状況でも、旅行者が旅行目的とするようなイベントや施設が中止・閉館になることは少なからずあります。

そこで、あらかじめ『台風のせいなら無料でキャンセルできる』という旅行商品を設計して販売するのはいかがでしょうか。その分を代金上乗せしてもいいし、オプション料金を取るでもいいし、いっそお値段据え置きで他社との差別化のためにやってもいいかもしれません(ちょっと無責任に書いてますが)。

これあったら、特に沖縄や小笠原に行く時はいいですよね。やっぱり夏季に行きたいけど、必ず台風リスクは付いてきます。あらかじめ『台風の影響がある可能性があれば無料でキャンセルできる』ということが保障されていたら、予約も取りやすいし安心です。
結果として旅行会社もエアラインも予約数が増え、オプション料金を適切に設定していれば、無料キャンセルが発生しても利益UPにつながることが期待できます。旅行者にとっても、旅行会社・エアラインにとってもWin-Winです。

ただここで問題は、いったいどこまでの範囲が台風の影響と言えるのか、またそれを誰が判断するのかです。本当は台風あまり関係ないけど「台風来るからキャンセルしたい」と言い出す人もいるでしょう。微妙なところとして、台風が前線を刺激して広範囲で雨が降るような場合でも、「雨が降ったら楽しくないからキャンセルしたい」と言い出す人もいるでしょう。

そこで気象予報士など気象の専門家が、台風の影響と言える範囲の決定を気象学的観点からサポートするのです。これ一筋縄にはいかないと思いますが、気象予報士が社会課題に取り組む1つのケースとして、とても意義のあるものではないかと思うのです。いかがでしょうか?

さいごに

ということで、9月17日に泣く泣くキャンセル料を払ってキャンセルした家族といろいろ議論して、やっぱ納得いかんなーって結論になって、ならどうすれば今より多くの人がハッピーになるかと考えて浮かんだのが『台風なら無料でキャンセルできる旅行商品』というものでした。

もちろん荒削りなアイデアだとわかっていますが、でも気象予報士や気象データアナリストが活躍できる機会の1つにならないかなーとは期待しています。

私も、もし興味を持ってくれる旅行会社・エアラインの方がいましたら、ぜひ一緒に考えてみたいと思いますので、よろしければ以下よりご連絡いただけますと幸いです!

ところで、このnoteを書いているまさにその間に、以下のようなニュースが目に飛び込んできました。これも似たような発想ですよね?

『降雨予測で全額返金』とありますが、記事をよくよく読み込んでみると、本当に『予測』で返金なのかな?と疑問に思うところはありますが…(たぶん記者の方が予測と観測の概念の区別が付いていないのでは?と思います)。

いずれにしろ、こういった形で気象がビジネスに貢献していく事例が増えていって欲しいですね!


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?