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無常会館 | 毎週ショートショートnote

田中と増岡が入場券を買うと、
ロボットが喋り出した。

『ヨウコソ無情会館ヘ。
切ナイ無情感ヲ、オ楽シミ下サイ』

「人が居ないんだ。
これも無情感の演出か」

「現代はこんなもんだろ」

エレベーターの扉が開いていたので乗ろうとすると、
目の前で扉が閉まり上に行ってしまった。

「わぉ、無情」と田中。

「これも演出?!」と増岡。

その後も会館内では無情が多発した。

お釣りが出ない自販機。
流れないトイレの水。
タンスの角に何度も小指をぶつけ、
床がツルツル滑った。

「無情すぎるだろ!」

ようやく出口が見えた瞬間、田中が立っていた地面が崩落した。

「あぶない!」
増岡は咄嗟に田中の手を掴んだ。

田中は宙吊り状態で下を見た。
落ちたら即死だ…

「俺に任せろ!」
増岡は田中を引っ張り上げた。

「ありがとう、増岡。
お前は…最高の親友だ」

そんな様子を陰から覗く者が。

『やはり無情の中で育まれる友情は格別です』

ロボットの着ぐるみを脱いだ白髪の老人が二人を優しい目で見つめていた。

(410文字)


たらはかにさんの企画に参加させて頂いております。

#小説 #ショートショート #毎週ショートショートnote #無情会館


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