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これまでに夢中になったモノやコト

 演劇に夢中になった。

 中学三年生の時に、高校生の兄が出る演劇を近所のホールに観に行った。そこでみた兄は普段の兄とは全然違って輝いていた。毎朝鏡の前で自分の毛先をいじりつづけているあの兄がこんなに格好よく見えるだなんて衝撃だった。

 それから数か月がたって、高校一年生になり、私は演劇部に入部した。中学の時に入っていた剣道部は、先生が怖く、行くのが嫌で嫌で仕方がなかったため、部活とはこんなに楽しいものかとびっくりした。初めて舞台に立った時の事は、今でも忘れられない。舞台の袖で先輩に「演劇って楽しいですね」と言ってしまったぐらい最高だった。小さな時から引っ込み思案でいつも母親の影にかくれていた私が、人前で発表するのが苦手で学校をずる休みしていた私が、そんなことを思うだなんて衝撃だった。

 大学生になって、他大学の演劇サークルに入った。そこは本気で演劇をやりたい人であふれていた。サークル外の演劇のオーディションをうけて公演に参加する人も多く、私も何回か参加した。4年間、演劇をたくさんした。本当に楽しい日々だった。

 社会人になって、介護の仕事についた。仕事に追われる日々はめまぐるしく、演劇をする心の余裕がなかった。知り合いから演劇に誘われることもあったが、仕事がシフト制で、稽古に参加することは難しく断ってしまった。

 一年間介護をして、別の仕事に就くために、出身県に帰った。子供の頃からずっとなりたかった職業だったのに、すぐに挫折して、やめてしまった。たくさんの人に迷惑をかけた。死んで償った方がよいかと毎晩毎晩考えたが、かえって迷惑をかけるだけだと思い、踏みとどまった。演劇をしていた頃の仲間から連絡をもらうこともあったが、元気でやってるよと嘘を返すだけだった。

 退職して、数か月がたった今、また介護の仕事をしている。日々つらいことも多いが、仕事にも慣れてきて、心の余裕もでてきた。また演劇やりたいなと思い始めた。車で30分のホールで市民演劇が毎年開催されている。今年の応募はもう終わってしまったが、来年は参加したいと思う。また夢中になれるだろうか。そうだったらいいなと思う。その時まで元気でいたい。

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