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19世期のイーロンマスク!?ランチェスターさんが最強のテック起業家だった件

木下斎さんのジブン株式会社ビジネススクールに”入学”して一週間。
最近教室という環境から遠ざかっていたので、久しぶりの”教室”の空気に緊張と期待の心持ちです。

さて、初回のテーマはランチェスター戦略です。ジブン株式会社に当てはめて考えると、、、と進めたいところですが、その前に少し自分の中でしっくりくる所まで色々調べてみる事にしました。急がば回れ、と。

何とか理論とか何とか戦略が出てきた場合、言葉に踊らされない為のちょっとしたコツがあります。それはざっくりでも良いのでルーツとなった人の経歴を調べる事、そして一番最初の部分だけでもその人自身が書いた本の書き出しを読んでみるという事です。一丁目一番地という言葉がありますが、そこをしっかり定めてから知識を積み重ねていくと方向が狂いません。

ちょっと遠回りですが、ランチェスター戦略のルーツであるFrederick W. Lanchesterさんとその著書Aircraft in warfare, the dawn of the fourth armを一緒に覗いてみませんか。

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◎”Aircraft in warfare, the dawn of the fourth arm”(戦争における飛行機、第四の兵種の夜明け)

19世期のイーロンマスク?!

調べてみて興味深かったのはFrederick W. Lanchester、以下ランチェスターさんは実は理論的な研究に明け暮れた学者さんではなかった事です。彼の本業はガチのエンジニアです。工業高校を出てエンジン製造会社の見習いからの叩き上げで、業務の中で先進的なエンジンのデザインを数多く考案し特許をいくつも取得します。その中には現在のエンジン設計の礎となった画期的なものもあり、発明家レベルの独創性を発揮し活躍します。

Frederick William Lanchester


そんな彼が雇われの身に留まるわけもなく、みずから兄弟とともに独立しエンジンの製造会社を立ち上げます。先進的なエンジンの開発と並行して自動車本体の開発にも進出しており、今風に言えばテック起業家という感じの人だったようです。彼が17歳の時に1885年にはドイツのKarl Benzが世界で初のガソリンで動く自動車(3輪でしたが)を発明していますが、ランチェスターさんもその5年後に独立とほぼ同じタイミングで英国で最初のガソリン車を製品化しました。当時の動力は蒸気が主流でしたので、ガソリンで走る自動車は出始めの電気自動車の様に先進的なものであったはずです。

ランチェスターさん、自動車やめるってよ

そんなランチェスターさんの自動車とエンジンの性能は当時抜群であったわけですが、彼自身の興味は飛行機に傾いていきます。革新的な機能と抜群の完成度に定評のあった自動車の事業は堅調でしたが、会社は兄弟のGeorgeさんに任せ、本人は航空機(①aircraft)の開発にのめり込んでいきます。その後の自動車事業はあのロールスロイスのライバルとして市場でも一定の地位を維持しましたが、1931年にダイムラーから買収される形で終息を迎えます。歴史にもしはありませんが、ランチェスターさんが引き続き自動車に情熱を持ち続けていたならば現代の自動車市場の様相も異なるものであったかもしれません。

しかし、ここでフェイドアウトするようなランチェスターさんではありません。彼のエンジニアとしての才能は飛行機の分野でも発揮されました。飛行機の技術的な問題を次々と解決する他、流体力学の研究など革新的な業績を残しますが、そんな折にが第一次世界大戦が勃発します。そして、ランチェスターさんの研究は飛行機の戦闘への応用という要素を強めていきます。そして、発表されたのが現在ランチェスター戦略と言われているもののベースになっている書籍であるAircraft in warfare, the dawn of the fourth armでした。

弱者の論理、いつ出てくるの、、、

ここでいよいよ弱者の戦略の登場か!と思いきやパラパラとめくってみると中々弱者の戦略はでてきません。ようやく第五章になって、ところで本筋とは少し離れる(②digress)が、、、という感じで集中の原理やN二乗といった”ランチェスター戦略”的な内容となります。

実際にこのAircraft in warfare, the dawn of the fourth armは学術的な理論を扱った本でもなければ、戦略論でもありません。タイトルにあるfourth arm(第四の軍種)とは飛行機なわけですが、第一が歩兵、第二が騎兵で第三が水兵、そしてそれに続く第四の兵種として飛行機を提言するという流れです。英国といえばこの第三の水兵によって覇権を築いた国家であったわけですが、この頃になると軍事的な発展著しいドイツや圧倒的な物量を誇る米国に追い上げられ安泰とは言えない立場。いわば新進気鋭のエンジニアが国の未来を危惧し提言を行うという切羽詰まった文章だったわけです。

兵種としての航空機の技術的な特徴や用途を論じた後に実際の戦闘におけるj兵力が消耗する(③attrit)数の予測を数理的に予測する手法と、その中で数的優位がどのように撃破数に影響するかが論じられます。この部分が後世に残る弱者の戦略の部分となります。ビジネスもある意味戦争ですので、そうした勝つ事に焦点を当てたフレームワークがハマったのでないでしょうか。ランチェスターの戦略はイギリスにとどまらず米国、そして日本にも普及し今でも活用されています。

弱者の戦略は危機感の戦略だった

ここで一つしっくりきたのが、ランチェスター戦略の重要な要素は危機感であったという事です。第一次世界大戦に突入していくなかで着々と最新鋭の技術を導入するドイツは脅威そのものであり、その中でどうやって英国の地位を維持するのかという事を背景にした考え方です。当然スタート地点にこの危機感の部分が必要不可欠となります。つまりランチェスター戦略の学びをジブン株式会社経営に活かすには、その実情を踏まえ健全なる危機感を持つ事が最初のステップになるはずです。逆に健全な危機感を持つ人にとってはランチェスターの戦略は初めからしっくりきているものなのかもしれませんね。

次の投稿では、ようやく皆さんに追いつくべく自分の状況に当てはめて行動面を書いていきたいと思います。

□本日のポイント■■■

①aircraft/航空機

航空機という訳になりますが、飛行機であるairplaneだけでなくヘリコプターや気球なども含め空を飛ぶ装置の総称がaircraftです。当時はここにツェッペリン伯爵が実用化し世界を驚かせた飛行船(airship,ランチェスターさんはフランス風にはdirigibleと呼称)も含まれます。
航空機が最先端の技術でありながらも、英国軍が導入に慎重であったのは当時の飛行機が戦闘に耐えうる装甲や武器の重量を積載できなかったからでした。その点、飛行船はガスの浮力で重量物を運べるのでむしろ軍事利用に関する期待は大きかったのかもしれません。結果は皆様もご存知のとおり航空機の時代となったわけですが、最先端の技術のうち何が残るのかを予測するのは難しいというわけですね。

🔳 It is, unfortunately, not yet possible to draw conclusions of a lasting nature from the actual usage of aircraft in the present war, mainly for two reasons. Firstly, the machines at present available (with possibly a few exceptions) are entirely without armour or defence of any kind, and, dirigibles apart, are, generally speaking, without guns or other offensive armament of an effective character.

(試訳)残念な事に未だ難しいのは、この航空機の恒久的な性質を現代の戦争における実例に基づき結論を導く事だ。主要な理由は以下の2つである。まずは今日使用されている機体には装甲や何がしかの防御装置が備わっておらず(いくつか例外がある可能性はある)、攻撃装置についても飛行船以外一般的には備わっていないからだ。また2つ目の理由として機体の数量があまりに少ない為、軍の部門として航空部隊が取るに足らない要因となってしまっている事がある。

②digress/本筋とは少し離れる

脱線しますけどね、という感じの言葉です。授業でも脱線って、本論よりも記憶に残ったりしますがランチェスターさんの脱線はその後何百年も色あせない20世紀最高の脱線だったわけですね。

🔳 It is necessary at the present juncture to make a digression and to treat of certain fundamental considerations which underlie the whole science and practice of warfare in all its branches. One of the great questions at the root of all strategy is that of concentration

(試訳)現時点で本題を離れある根本的な考察を行う事が必要だ。これは戦争の仕組みと慣行のありとあらゆる部分で重要となるものである。すべての戦略の根幹にある最も大きな問いの一つは、集中に関するものだ。

③attrit/消耗させる

擦って減らすというのが語源です。ランチェスターの文脈では戦闘により兵士が数を減らしていく事を指します。その減り方を微分方程式で表現している記述が第五章になりますが、数式部分は正直辛くて読みきれませんでした笑ちなみにwar of attritionという言い方になると消耗戦という言葉になり、すこし違う意味合いとなります。じりじりと戦争を長引かせ相手が疲弊するのを待つ作戦です。進行してくるナポレオンに決定的な勝利を挙げさせず疲弊と冬を待ったロシアの戦い方が有名な例です。

🔳In 1916 he published Aviation in Warfare: The Dawn of the Fourth Arm, which included a description of a series of differential equations that are today known as Lanchester's Power Laws. The Laws described how two forces would attrit each other in combat, and demonstrated that the ability of modern weapons to operate at long ranges dramatically changed the nature of combat -- a force that was twice as large had been twice as powerful in the past, but now it was four times, the square of the difference.

(試訳)1916年にランチェスター氏はAircraft in warfare, the dawn of the fourth armを出版し、その中で今日ランチェスターの法則として知られている一連の微分方程式を記述しました。この法則は2つの勢力が戦闘においてお互いをいかに消耗させ合うのかを表し、近代兵器により可能となった長距離攻撃が劇的に戦闘の性質を変化させた事を示しました。過去の戦闘では倍の兵力は倍の戦力差であったのに対し、現代の戦闘では兵力の差の二乗が戦力の差となるというものです。

◇一言コメント

今回は特別編でジブン株式会社ビジネススクールに合わせてランチェスターさんに関する調べ物と著作のかじりを扱ってみました。言ってみれば局地戦(学びの内容に関連する情報をピンポイントで提供)、接近戦(受講者の方に、オープンチャットで告知)になるでしょうか。

次のステップは弱者の戦略を自分の取り組みに当てはめて考えること。こちらも、noteにして言語化しています。




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