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2024年版欧州チップ事情:フランスじゃチップ要らないって誰が言った?

フランスの飲食店には請求書にはサービス料込、チップ不要という古き良き伝統がありましたが、アメリカ人観光客の増加とウェイター達の少なからぬ打算によって事情が変わってきているようです。お隣の英国から見たフランスのチップ事情、2024年版です。

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◎”Keep the Change”(お釣りはいらないよ)”

飲食店が発行する請求書は全て込み(①tout compris)というのが長い間フランスの伝統でした。この背景には店がウェイターに対し生活できるような給料をちゃんと支払うので追加で客からチップをもらわずとも生活していけるという飲食業を軽んじないフランスの美しい伝統があります。
ところが近年増加したアメリカ人観光客達は本国同様に会計の20%ものチップを渡していかないと恥だと考え(② be shamed into)、フランスでもその慣習を貫きます 。また、普及が進んだクレジットカードの決済端末には自動的にサービス料を追加する設定やチップの支払を選択する機能が付いており、フランス人のウェイター達も図らずしもチップの恩恵に預かる機会が増えました。
プロフェッショナル気質で有名なフランスのウェイター達もまた人間ですので、もらえるものはもらえるに越したことはありません。また請求にサービス料込と謳っているからといっても、その大半は経営者のポケットに入るのが実情です。フランスでもチップを期待する風潮が生まれつつあります。
これに対してフランスの民衆は美しきフランスの伝統をアングロサクソン達に汚されたと憤っているわけですが、この変化は英国にとっても由々しき事態です。エチケットと飲食に関しては”先進国”であるフランスでチップの習慣が定着したらその影響が英国に及ぶのは時間の問題。既に別途サービス料を支払う習慣の定着した英国で、更にチップの支払まで必要になったとすれば二重苦(③double whammy)という事になってしまいます。もはや外食などしてられないという嘆きが聞こえてきそうです。

□本日のポイント■■■

①tout compris /全て込み

フランス語でall in(全て込み)を意味する言葉です。サービス料を別途設定せず料理の代金に全てのせるという事になります。
ただ、チップが必須とされているわけではないという事で気持ちの良いサービスをうけたり、特別なお願いをした際にはチップを渡す習慣はあるようです。pourboire(for drink、お酒の代金)というそうです。

確かに”Service Compris"(サービス料込)と記載されています

🔳 In recent years the restaurant bill has almost always been tout compris, with any service charge automatically included.
(試訳)近年はレストランの請求書は”tout compris”(全て込み)であるのが常であり、すべてのサービス料金が自動的に含まれていた。

② be shamed into /-しないのは恥とされる

これやらないと恥だよ!と言って人に何かさせるという言い回しです。良く日本は恥の文化だと言いますが、英語の中にも同じ発想はあるようです。

🔳Americans have long been shamed into leaving at least 20 per cent, as those waiting at tables are often barely paid at all and have to use all their brazen aggression to make enough to live on.
(試訳)アメリカ人は少なくとも代金の20%を残さないのは恥ずかしい事だと考えている。彼らの国ではウェイターの給料が少ないため、遠慮せずチップを獲りにいかなければ生活していけないのだ。

③double whammy /二重苦

whammyは元々はネイティブアメリカンの言葉で呪いの意味です。1934−1977に渡って新聞に掲載された風刺漫画、Li'l Abnerの登場人物が自らの特殊能力の名称として使用したのが定着しました。
サービス料とチップを両方払わなければならないのは確かに二重苦です。

帽子をかぶっているやつがEvil Eye Fleegle、whammy(呪い)の使い手です

🔳The Brits have only just learnt that you don’t need to tip; now there is a double whammy: service charge plus tip. Is it still worth eating out?

(試訳)英国人はこれまでチップを支払う必要はないと教えられてきたわけだが、これからはサービス料に加えてチップの支払いという二重苦に苛まれる事になる。果たしてそれでも外食する価値があるのだろうか。

◇一言コメント

タイトルは”お釣りはいらないよ”という意味の慣用句です。お釣りになる小銭はウェイターさんが取っていいよという事ですね。ちなみにドイツ語では少し多めに渡しておいてStimmt so!(それでピッタリという事で!)という言い方をします。チップの割合や有無と同じで言い方も国によって様々です。それにしても、アメリカのチップ相場はよくわかりません。ある旅行本には10-15%と記載されていて違う本には20%と書いてあったり、店の高級度合いにもよるとか定りません。戸惑いがちな観光客としてはtout comprisが良いです。

■全文&試訳

The French, who long scorned tips, are being corrupted by the Anglo-Saxons
フランス人達はチップに対して長らく軽蔑してきたが、アングロサクソン達の影響で堕落しようとしている。

The French waiter, whose Gallic demeanour of superior professionalism or surly cussedness usually leaves, with the taxi driver, the most lasting impression on every visitor, is again determining the attitudes and mores of an entire nation — this time on the perennial topic of tipping. In recent years the restaurant bill has almost always been** tout compris**, with any service charge automatically included. At best, a diner will leave the change, perhaps a few coppers, on the dish. And neither the bistro nor the waiter would expect anything more: waiters are meant to be properly paid and accepting tips is below their dignity.

フランスのウェイターといえばタクシードライバーと並び、上質のプロフェッショナリズムによって、ある時は無口で無愛想な振る舞いによって訪れる人の記憶に残る存在だ。そんなウェイター達にまたもや国全体の姿勢と規範が左右されようとしている。今回は議論の絶えないチップについてだ。
近年はレストランの請求書は”tout compris”(全て込み)であるのが常であり、すべてのサービス料金が自動的に含まれていた。せいぜい食事を終えた人が小銭、おそおらく銅貨数枚程度を席に残すくらいのものだった。店もウェイターも請求書以上は何も期待せず、ウェイターはきちんと給料を支払われ、チップを受け取るのは自らの品位に背く行為だった。

But tourism, credit cards and especially the Americans are changing attitudes. Tourists from the rest of Europe are used to doing some quick percentage calculations and adding on a tip. Americans have long been** shamed into** leaving at least 20 per cent, as those waiting at tables are often barely paid at all and have to use all their brazen aggression to make enough to live on. And card machines, now almost the universal end to a good meal, either add service automatically or provide an option to click under the watchful and maybe menacing eye of the waiter. The result? They now expect tips again, even in France.

しかし、ツーリズム、クレジットカードそして何よりアメリカ人達がこうした態度を変えつつある。欧州地域からの観光客はパーセンテージの計算をして代金に上乗せする計算を素早く行うことに慣れているし、アメリカ人は少なくとも代金の20%を残さないのは恥ずかしい事だと考えている。彼らの国ではウェイターの給料が少ないため、厚かましい侵略行為に依らなければ生活していけないのだ。そして、今や世界中で良い食事を得る手段となったクレジットカード決済端末はサービス料を自動的に加算するかクリックする事で選択できる仕組みを備えている。選択式の場合にはウェイター達はその挙動を注意深く監視し、多分脅しをかける事になる。結果どうなったか。なんとフランスにおいてもウェイター達は再びチップを期待するようになってしまったのだ。

The French public are outraged. Anglo-Saxon practices are corrupting the dignity of work, just as English is corrupting the beauty of Racine’s language. The waiters, naturally, have few complaints — especially as a service charge on the bill often goes straight to the management and rarely into an open pocket or outstretched hand. And since the French have, for centuries, determined etiquette and cuisine, what happens at Maxim’s will soon be de rigueur in London and Manchester. The Brits have only just learnt that you don’t need to tip; now there is a double whammy: service charge plus tip. Is it still worth eating out?

フランスの民衆は激怒している。アングロサクソンの習慣が仕事の品位を台無しにしたのである。それはあたかも英語がラシーンの言語の美しさを台無しにしたかのようだ。ウェイターがほとんど文句を言わないのは当然のことだ。請求書に記載されたサービス料は経営者のポケットに直行という事は多々あり、ウェイター服のポケットや伸ばされた手に行き着くことは殆どない。そして、フランスが何世紀にもわたってエチケットと料理を自分たちの決定事項としてきた経緯からすれば、Maximで起きた事は時を経ずしてロンドンやマンチェスターでは作法という事になる。英国人はこれまでチップを支払う必要はないと教えられてきたわけだが、これからはサービス料に加えてチップの支払いという二重苦に苛まれる事になる。果たしてそれでも外食する価値があるのだろうか。

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