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ジェフ・ベック

歌の無い音楽をインストゥルメンタルと呼ぶ、略してインスト。普段からクラッシックやジャズを好んで聴いている人ならともかく、一般的に聴かれる類の音楽ではない。言葉の壁が理由で洋楽には縁がないという場合よりも、インスト曲の方がはるかに縁遠いのであるまいか?そりゃまあそうだろうなと思う。だって歌が無かったらどこをどう聴いていいのか普通は分からないもんね。

自分がインスト曲を良いと思って聴き出したのは多分中学生のころ。吹奏楽部に入っていて楽器だけの音楽に抵抗がなかったこと、ギターが好きで(本当は吹奏楽じゃなくてロックギターの方です)ギターの音に意識が向かっていたこと、中二で親にエレキギターを買ってもらってギター熱がどんどん高まっていって、どこかで知った三大ギタリストの一人ジェフ・ベックが演っている音楽がギターインストだったこと、そんなこんなが自分とインストとの出会いだったと思い出される。ジェフ・ベックによって一般的じゃない歌の無い音楽が自分の中で中心になっていった。

1975年にリリースされたジェフ・ベックのソロ第一弾『ブロウ・バイ・ブロウ』は全編インストでありながら、全米第4位/100万枚の売上を記録したヒットアルバムである。歌にこそ価値があると考えているアメリカ人の音楽文化から見れば驚異的な記録・出来事ともいえる(日本でも1999年にリリースされた坂本龍一のピアノインスト曲「エナジーフロウ」が155万枚のヒットを記録したこともまた驚異的な出来事だった)。ジェフ・ベックのギターインストは何故一般的に受け入れられたのか?

ここからが本題。ジェフ・ベックである。
彼の醍醐味は、ソロ以降のギターインストゥルメンタルにおけるゾクゾクするギターフレーズと活きた音そのものにある。
しかしギターインストゥルメンタルという新たなジャンルを切り開く以前にもまた魅力があって、第2期ジェフ・ベック・グループはバンドとしての輝きに溢れていた時期(ボブ・テンチが歌ってます)。

代表作と聴きどころ
①『ブロウ・バイ・ブロウ』 邦題「ギター殺人者の凱旋」
➤5曲目「スキャッターブレイン」の頭のギターソロ、特にその後半部分は秀逸。フレーズを逆さに弾くような、取って返すような独特なアプローチで攻めてくる(井上陽水の詞の世界に通じるものを感じます)。
➤8曲目「ダイヤモンド・ダスト」で聞ける演奏は他のギタリストの追随を許さない技術の高さを誇る。また、この曲の後半(アルバムのラスト)、マックス・ミドルトンによるエレクトリックピアノソロにいたっては、ジェフのギターが演奏から去った喪失感が逆にその存在を際立たせる演出になっており、“ダイヤモンド・ダスト”が見事に表現されてもいて感動もの。
本来リズム楽器であるはずのギターをどうしてここまで歌わせることができるのか(そりゃボーカルいらないよね)、ジェフ・ベック恐るべし!

②『ワイアード』
➤2曲目「カム・ダンシング」の重厚なギターソロスタートは、「まってました!」の真打ち登場。寄席大トリの貫禄あります。

彼の長いキャリアにあって前述のソロ2作品は間違いのないところ。ソロ以前のバンドとしての優れた作品は、第2期ジェフベックグループの3作品を挙げたい。
③『ラフ・アンド・レディ』
➤2曲目「シチュエイション」にはユニットとしてのノリノリの一体感あり。アコースティックギターのアクセントもまた素晴らしい。

④『ジェフ・ベック・グループ』 通称「オレンジアルバム」
➤9曲目「デフニットリー・メイビ―」はスライドギターを使った名演。しかしそこはジェフ・ベック。ライ・クーダーのようないわゆるスライドギターは弾かない。これほどまでに切なく歌い上げるスライドギターソロはここでしか聴くことができない。スライドを選択した意図、そしてイメージを表現できるプレイの確かさは、かつて「ベックはベッカク」と言われていたのもうなずけるというもの。

最後は、彼が亡くなってからリマスター版として2023年3月にリリースされた2枚組、
⑤『ジェフ・ベック・グループ/ガット・ザ・フィーリング ライヴ1971ー1972』
➤第2期ジェフベックグループのライブ音源を聴くことができる作品で、生々しく攻撃的なアンサンブルはまさにゾクゾクのレンゾクである。

他にも、ライヴにおける「エンジェル(フットスッテプス)」の神懸かり的高音域スライドプレー、ZZトップとの「ラフ・ボーイ」のエンドソロなど名演は多い。

それにしても30年以上聴き続けてきた理由はなんなのだろうか?
ギターがロックの花形だから?
自分がギターを弾いていたから?
ギタリストにペレやマラドーナのようなスーパースターを感じているから?
歌無しのインストものは言葉の壁を気にしなくてもいい洋楽だったから?(そもそもいまだに洋楽を聞くことがオシャレだと思って、洋楽聴かなきゃってなってるってこと!? ハズカシイ…)
自分と同じ誕生日。ここに運命を(勝手に)感じているから?(ハズカシイ パートⅡ…)

享年78歳。
生涯現役、最期までシャープでかっこよかったジェフ・ベックなのである。

『ブロウ・バイ・ブロウ』 (Blow by Blow) :1975年リリース
『ワイアード』 (Wired) :1976年リリース
『ラフ・アンド・レディ』(Rough and Ready) :1971年リリース
『ジェフ・ベック・グループ』(Jeff Beck Group)、1972年にリリース
『ガット・ザ・フィーリング - ライヴ 1971-1972』(Got The Feeling - Live 1971-1972)、2023リリース

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