【名盤伝説】 "AIRPLAY" AORの二大巨匠が奇跡のコラボレーション。
お気に入りのミュージシャとその作品を紹介しています。
AORの金字塔『AIRPLAY (邦題:ロマンティック)』(1980)です。
AOR (Adult Oriented Rock) とは日本独自のカテゴリーで、大人が聴いても楽しめるRockという意味。1970年代半ば頃からアメリカン・ポップ・カルチャーに傾倒した20代を中心にもてはやされた音楽です。熱量激しく奏でるrock'n'rollとは異なり、凝ったアレンジで「お洒落で上質な、洗練された都会派の音楽」とよく表現されるものの、実態はよく分からずw、その曖昧な定義により聴く人によって解釈は大きく異なります。このアルバムも当時の単なる売れ線のロックと見なす人もいます。ただし楽曲やアレンジのセンス、ここに集ったミュージシャンをみると間違いなくその後のAORと呼ばれる作品で中核をなす強者揃い。ましてやユニットの中心メンバーがこの2人(後述)だという意味で、AORの代表的なアルバムだと私は思っています。
AIRPLAYは当時売り出し中のJay Graydon (G)とDavid Foster (Key)が、Vo.にTommy Funderbrukを迎えたユニット。AIRPLAY名義で制作された唯一のアルバムです。その後の2人の活躍を見れば、このコラボは奇跡のようなアルバム。Graydonのダブルトーンのギターが唸り、Fosterの甘いローズピアノが優しく響く…全曲良しなんてアルバムはそうありません。
参加ミュージシャンは2人のLA人脈が総動員。1978年にデビューしたTOTOからSteve Lukather (G)、Jeff Porcaro (Ds)、David Hungate (Bs)、Steve Porcaro (Key)。主にR&B系で活動していたカッティングギターの名手Ray Parker Jr.(G)。78年にはFosterプロデュースでソロアルバムを制作しているベテランのソングライター&ボーカリストBill Champlin (Cho)。スタジオワークを中心に活動していたMike Baird (Drs)、Tom Kelly (Cho)。ハワイ出身のフュージョンバンドSEAWIND Hornsの中心メンバーJerry Hey等々、まだ若かった頃の重鎮たちが勢揃いです。
【収録曲】
M1: Stranded (4:28)
いきなりのハイトーンコーラス群に、一体何が始まるのかという衝撃のイントロは、まさに金字塔と評されるアルバムのA面1曲目に相応しいと言えるでしょう。続くGraydonの幾重にも重なるギターとFosterのピアノリフで、一気に曲に惹き込まれていきます。案外ハードな曲調で、どこが大人っぽいのかと感じる方もいるかと思いますが、聴き込むほどに呆れるような緻密な音の階層。ただのハードロックとは一味違います。中間部のギターソロは、数あるGraydonのソロの中でも秀逸です。
実はこのアルバムは曲ごとのクレジット記載がありません。特にこの曲のドラマーが誰なのかがよく話題になっていました。様々な識者が分析をしていますが、当の本人達に確かめても「誰だったかな」との返答に埒があきません。個人的にはAメロのリズムのコンビネーションがやや平坦な印象があるため、Jeffっぽいフレーズを叩いているMike説に一票です。
M2: Cryin' All Night (4:47)
この曲もイントロが印象的。生ピアノに被るギターとシンセの滝のようなフレーズがハードな曲調を華麗に彩ります。Vo.はGraydon。この曲もドラマー論争がありますが、フレーズの細かさとタム回しのグルーブでJeffだと私は思います。GraydonとFoster両者のアレンジの特徴が程よくミックスされた佳作です。
M3: It Will Be Alright (4:00)
箸休め。落ち着くミディアムバラード曲が登場。Tommyの優しく謳いあげる歌唱力が十分に活かされています。この曲のギターソロこそGraydonのソロの1・2を争う名演だと思います。
M4: Nothin' You Can Do About It / 貴方には何も出来ない (4:42)
先にThe Manhattan TransferによりカバーされるGraydonの名曲。Vo.もGraydon本人によるもの。お歌もとても上手です。Jerry Heyのホーンアレンジが効いています。独特のシャッフルビートを、気持ちよさそうにリズムを刻むJeffの顔が浮かびます。
M5: Should We Carry On (3:47)
ロマンティックなスローバラード。収録曲の中でも早期に作られた曲だそうです。Fosterお得意のメロディアスなナンバーです。
M6: Leave Me Alone (4:35)
曲中のギターはLuke。師弟共演です。TOTOの曲と言ってもいいようなテンポの良いロックチューンですね。中間部のトーキングモジュレーターによるフレーズはギターではなくキーボードとのこと。
M7: Sweet Body (4:40)
ただハイトーンで歌い上げるだけではないTommyのボーカルセンスが活きるポップ・チューン。ブリッジ部分で奏でられるギターとシンセの音の壁がAIRPLAYのサウンドアレンジの典型。何気ない展開ですが、ゆったりと心を委ねたくなる不思議な曲です。
M8: Bix (4:15)
この曲もJerry Heyのホーンアレンジが効きまくる曲。TommyとBill Champlinのボーカル対決が聴きどころ。Billのソウルフルなボーカルセンスは天下一品ですね。後半のFosterによるシンセベースとHungateのベースの絡みも楽しいです。
M9: She Waits For Me / 彼女はウェイト・フォー・ミー (3:41)
日本ではこの曲がシングルとしてカットされた、いかにもAIRPLAYらしいアレンジが随所で聴けるテンポの良い佳作。Vo.はGraydonでリードに絡むコーラスはFosterとのこと。Hungateのベースも案外細かな技を聞かせてくれます。
M10: After The Love Is Gone (4:29)
ラストを飾るFoster作による名バラード。E, W & Fでお馴染みのナンバー。元々はBillのために書いた曲だったようで、それをEarthのモーリス・ホワイトが是非譲って欲しいと懇願したのだそうです。そんな経緯がありながら、ここでもバックアップミュージシャンとの立場をわきまえてTommyと共演するという、これだけの名曲を譲るBillの優しさが滲む名演となっています。
※この項はAIRPLAY 25th Anniversary盤のライナーノートを参考にさせていただきました。
このアルバムは本国ではあまり評価されませんでしたが、日本では人気が出始めていたTOTOなどと同様に、ウェストコースト・ロックとしてマニアの間で大評判になりました。当時の日本のレコード会社の制作マン達が寄って集ってこのサウンドを聴き込んで、当時のJ-POPアルバムの多くがAIRPLAYアレンジ一色となりました。松田聖子の「SQUALL」「青い珊瑚礁」「チェリーブラッサム」などのアレンジの原型は、間違いなくこのAIRPALYサウンドですね。そんな作品のバックを担っていたのが、後にバンドとして活動する PRACHUTEの面々。松原正樹、今剛の強力ツイン・ギターを擁して、当時のJ-POP界のレコーデイングに数多く参加しています。
しかしAIRPLAYとしての活動はこのアルバム1枚で終了し、以降2人はそれぞれの制作活動に忙殺されていきます。後に1994年、Foster が日本のJT主催の音楽イベントに主役として出演した際に、2人は奇跡の再会を果たします。そんな歴史的な映像がこちら。
この公演の時には私も会場にいました。途中のGraydonのソロパートでは、周囲の元ギターキッズだったおじさん達全員が指でフレーズをなぞり、本当のエアプレイをしていましたね(笑)。
その後の2人の活躍については、それぞれまた別の記事で紹介したいと思います。
発表されてから40数年が経ちますが、未だに無人島に持っていくアルバムの最有力候補の1枚です。
[追補]
現役ミュージシャンでもAIRPLAY追っかけが存在します。Ole Børudです。彼が来日した際に何度かライブを観ていますが、本当にAOR好きみたいです。とことん真似ていて何だか嬉しくなってしまいます。
Nothin' You Can Do About It (Cover)
AIRPLAYサウンドを完全コピーしようとする奇特な人たちが世界には存在します。
ギター3本で合奏している姿は微笑ましいです。
AIRPLAYIN' - a band tribute to AIRPLAY plays "Cryin' All Night" 2009
AIRPLAYサウンドに魅了されたアーティストが日本にも数多くいます。その一人、角松敏生。学生時代にリアルタイムで彼とは仲間と一緒に「これは凄い」と大騒ぎして聞いていました。彼の音楽キャリアの振り返りとして、キーボードの小林信吾とのコラボで制作したアルバム(2020年)では、ジャケットからオマージュ全開というか大丈夫かというくらいの真似しよう。「Cryin'’All Night」をほぼ原曲アレンジのままカバーしています。この時は一度病床から復帰した小林氏でしたが、このアルバムリリースから程なくして亡くなってしまいます。制作に何とか間に合ったというようなタイミング。思い出の作品となりました。合掌。
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