見出し画像

【名盤伝説】“Larry Lee / Marooned (ロンリー・フリーウェイ)” 夏のAORの定盤。波の数だけ抱きしめたい。

MASTER PIECE 暑い季節になると、やはりこのアルバムが似合います。ラリー・リーの唯一のソロアルバム『Marooned (邦題: ロンリー・フリーウェイ)』(1982)です。

ラリーはUSサザンロックバンドThe Ozark Mountain Daredevilsのメンバーとして1973年から活動しています。74年のセカンドアルバム収録の名曲「Jackie Blue」の作者でもあります。

このバンドはカントリー・ロックとして評価されていて、確かに純粋カントリー調の曲も収められていますが、個人的にはサザン・ロックだったり、この曲のようにブルージィな曲もあり、一括りにカントリーと評するのは無理があるなという印象です。要はバンドとしてのまとまったオリジナリティというよりも、ソングライター集団だったというのが正しいようです。

このOMDの活動を続けながらも自作のデモ・テープ作り続け、81年にソロ・アルバムの制作を始めます。プロデュースはJohn Ryan。彼が主に手がけた作品には、産業ロックの人気バンドのSTYXやファンクバンドのThe Gap Band、同じく白人ファンクロックのRARE EARTHなど幅が広すぎます。とても同一人物がプロデュースしたとは思えないリストが並びます。

ラリー自身はこのOMDでの活動をとても大切にしていたようです。ソロアルバム制作にあたっても、バンドメンバーが理解してくれたことにとても感謝していると述べています。そしてほぼ全曲ラリーのオリジナルで1982年にアルバムがリリースされます。

参加ミュージシャン
Larry Lee-all Lead & Background Vocals
Tom Kelly, Bill Champlin, Richard Page, Rick Danko, Venetta Fields,
Rosemary Butler-Background Vocals
Jon Goin-Guitars
David Hungate-Bass
Mike Baird-Drums
Nicky Hopkins-Keyboards
David Sanborn-Alto Saxophone
Gabriel Katona-Synthesizer, Ike Stubblefield-Synthesizer
Lenny Castro-Percussion
David Campbell-Orchestrations

フロントに大物スタジオ・ミュージシャンを揃えたうえで、手堅いリズム隊、分厚いコーラス陣・・・完璧な布陣ですね。プロデューサー氏の実力が十分に活かされていると思います。

そして出来上がった作風を元に、日本盤は徹底したAOR路線でプロモートされます。先ずはジャケットの差し替え。夏の定番となった爽やかイメージの鈴木英人氏のイラストを採用。さらにアルバムの邦題を、原題の「Marooned 」=「孤独な、置き去りされた」を置き換え、テンポの良いシングル曲からドライブのBGMを想起させる「ロンリー・フリーウェイ」に改題します。

日本盤のジャケット
オリジナル盤ジャケット

このプロモーションには、以前からのOMDのファンから強烈な批判が起きます。しかし私はこの戦略は大正解だったと思います。オリジナルを否定はしませんが、このプロモーションのおかげで日本ではこのアルバムは人気の定番作品になったのですから。売り手側を批判してマウント取っているつもりが、実は買い手側も批難していることに気付いていないようですね。好きで聴いているのだから、それ以上でもそれ以下でもありません。聞き方は千差万別です。この収録曲から、いなたいカントリー・ロックとして聴けというは、個人的には受け入れられませんね。

M1 Waiting To Let Go
M2 Don't Talk (ロンリー・フリーウェイ)
M3 Marooned (ひとりぼっちのアフタヌーン)
M4 The Best Is Yet To Come (乾いた季節)
M5 Number One Girl (君はナンバーワン)
M6 Satisfaction Guaranteed (I Could Give You Love)
M7 Only Seventeen
M8 Hollywood (悲しみのハリウッド)
M9 Just Another Girlfriend
M10 Hang On

アルバムのトップを飾るM1。この曲大好きです。この曲を聞いてこのアルバムはAOR路線で推すぞと決めたくなる気持ちはよくわかります。

そしてM2はシングルとしてもリリースされます。アルバムタイトル曲ではありませんが、何故か同じ邦題が付けられています。ま、気持ちはわかりますけど・・・そしてとても珍しいラリー自身の演奏シーンを交えた動画がありました。ラリーが動いている…それだけで感謝ですね。


さらにこの「ロンリー…」は1991年公開の映画「波の数だけ抱きしめて」の挿入歌としても採用されます。

作品は湘南のミニFM局を舞台にした青春恋愛ドラマ。私も大好きなホイチョイプロダクション制作の3部作、ユーミンの楽曲を全面採用した「私をスキーに連れてって」に続く作品。3作目はサザン・オールスターズをフューチャーした「彼女が水着に着替えたら」でした。

左から織田裕二・中山美穂・別所哲也・ 松下由樹・阪田マサノブ

この「波の…」の時代設定は1980年半ばで、当時の文化や世相を忠実に再現していることから、当然のようにAOR作品てんこ盛りとなっています。個人的に特に記憶に残っているシーンとして、DJ役の中山美穂が仕入れたばかりの『TOTO IV』の輸入盤のシールド(当時の輸入盤LPはビニールで完全に包まれていて、未開封、すなわち一度もこのレコードは掛けていませんよという目印になっていました)を爪で開けて、ジャケットの中の匂いを嗅ぐシーン。当時の輸入盤は独特の匂いがしていたのです。このシーンを劇場で観た時に、思わず心の中で「そうそう」と叫びましたね^^;;。

いよいよ夏が・・・という季節には、素麺とラリー・リーということで。


懐かしのAOR作品の記事をまとめています。宜しければどうぞご覧ください。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?