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プー、プー、プー 電話が切れた後の音が悲しい

電話のベルが鳴る。
「もしもし」
出ると、しばらく沈黙。

あ、おばちゃんかな。

もう一呼吸待ってみると、
「もしもし…しゅうのもりさんか?そうやんなあ?元気にしてる?旦那さんも?ぴーちゃんも?かいらしなったやろなあ?えー?今日な、本に書いてあったんやけどな…。」

ずっと続く。
私は
「うん。私や。元気やで。」
とか
「へー」「うんうん。」
を繰り返す。

叔母は耳が聞こえないからずっと一方的に話す。
けっこう長く話すので受話器を持つ手がだるくなる時もあった。

少し経って我が家も留守電機能付きの電話機になった。
すると叔母の声が留守電に入っていても、録音時間の制限があるので途中で話が切れている。
すぐに手紙を書く。
留守電に入っていたよ。ごめんね、と。
そして返事が届いた。
留守だったのになぜ叔母からかかってきたとわかるのか、という内容だった。
そうか、叔母は子供の頃から聞こえないから留守電というシステムを知らない。
電話が私の代わりに電話に出て、かけてきた人の声を録音するんだと伝えてみたが、どうもわかりにくいようだった。
そうだようなあ。「留守にしております」とコンピューターが答えて、録音するっていうのは、経験してみないとわからないと思った。
それでも叔母は想像力を働かせて、相手は留守かもしれなくて、自分の声が少し録音されると理解したかもしれない。
それ以来、電話に私が出て聞いていても、途中から
「やっぱり留守なんかなあ?もう切るねえ。」
ということもあった。
「出てるよー。おばちゃん、私、いてるよー!」
と大きな声で伝えても届かなかった。

プー、プー、プーとなる音がなんだか悲しかった。


叔母は多才で絵も描いて俳句も読んで、料理も、裁縫も編み物もできました。
私には何一つしんどい話はしませんでした。
叔母の兄である私の父には、いろいろ辛いことを話していたようですが…。
私は叔母にお世話になってばかりでした。

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