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「白い果実」「記憶の書」「緑のヴェール」ジェフリー・フォード

 大好きな山尾悠子さんが訳をされている…?と何気なく手に取ったジェフリー・フォード氏著作の「白い果実」。
 圧倒的な美しい世界観に翻弄されつつも読み終わり三部作だということを知り、慌てて次巻の「記憶の書」「緑のヴェール」を手に取りました。

 この「白い果実」三部作は翻訳者が訳された文章を更に小説家、詩人の方がリライトするというとても嬉しい贅沢仕様なのですが、 幻想的な世界に美しい単語が見事に散りばめられていて情景の描写1つ1つが美しくて文章を目で追っているだけで幸せです。
  ビロウの築いた都市の理想形態市(ウェルビルトシティ)や甘き薔薇の耳というお酒の名前1つとっても響きが官能的で嬉しくなります。

 本編の核となる人物はほぼ皆「美薬」というドラッグを多用しており、美薬の幻覚と現実と幻想が入り混じったような世界観は読めば読むほど深みに嵌まっていくような感覚に陥ります。



 以下ネタバレを含む感想です。(※後半の部分でかなり物語の核となる部分に触れているため、未読の方は目を通さないことをお勧めします。)


 「白い果実」
 ドラッグに溺れつつ人の相からその人を読み取る観相官クレイとアナソマビアという街で盗まれた白い果実を巡る話 白い果実を巡ってのミステリーとなるのかと読み進めていくと話は二転三転し、クレイの置かれる環境はぐるぐると目まぐるしく変わっていきます。
 鉱山で鉱石を掘り進める内に徐々に身体がスパイア石へと変わる鉱夫や独特の食べ物や生き物。
 アナソマビア、ドラリス島、理想形態市、それぞれの場で関わることになる個性豊かな面々、現在進行していると思われることも後々過去へと繋がっていたり、何度も戻っては読み返し、その度に発見があるような巻でした。傲慢で皮肉屋で救いようのない性格にクレイですがどこか間抜けな所もあり、嫌いにはなれません。

 「記憶の書」
 眠り病が蔓延する中でビロウの息子を名乗る魔物のミスリックスに出逢い、ビロウの精神世界で眠り病の特効薬を捜す…という話なのですが、ビロウの過去を知る上で大きなキーとなる物語のように感じました。

 「緑のヴェール」
 ミスリックスが綴るクレイの冒険とミスリックスの独白が交互に語られる形式。物語が進むにつれミスリックスの現状が明らかになり、彼の現状とクレイの物語が交錯していく様子が堪らなくて…この物語を全て読み終えた後の何ともいえない読後感が大好きです。

 二作目、リライトの方が結構ばさばさと削っているとの後書きを読んでまた原書で読むと全く違う印象になるのか、少し気になっています。三部作通して、リライトを担当される方によってまた全然違う色が出ていて面白かったです。

 
  

 
 
 物語の形式的には結末はクレイを殺害してしまった後のミスリックスが生み出した妄想ともクレイは現実に生きていて実際に起こっていることだともどちらとも取れる書き方をされていますが、私はこの物語の結末はミスリックスがクレイを殺害し、殺害後綴られた物語のように感じました。(1、2作と比較してのクレイの大きく美化された表現、アノタインの幻視、クレイのミスリックスの観相、現実の状況などを顧みると)
 ビロウが自分の子供と向き合うために作った美薬、お互いに美薬を打った状態でしか向き合うことができないビロウとクレイ。そしてどちらかが美薬に酩酊しきった状況で交流を深めるクレイとミスリックス。
 殊更「愛」の物語であると繰り返される本作ですが、私はクレイとアーラ、ビロウとアノタイン、クレイとアノタインなどの男女間の愛情よりもビロウ、クレイ、ミスリックス、三人の家族としての愛(決して真っ直ぐなものではない歪んだものかもしれませんが)を感じました。ミスリックスに人の世に溶け込んで欲しいという願いを込め、眠り病をもたらすビロウ(治療薬が美薬というのもまた…)そして死後、ミスリックスの中で美化され大きな使命を帯び、家族となる拠り所を見つけるクレイ。
 結末を見ると悲しくなりますが家族の物語が確かに存在します。

 三部作を読み終えてかなりクレイへ対する感情が変わると言うか、ビロウ、ミスリックス登場人物一人一人が愛しくて堪らなくなりました。
 白い果実のミスリックスとビロウの会話も素面の状態で息子の顔を真っ直ぐに見ることができない父と子の会話として見るとまた違った見え方をしてきます。

 
 ジェフリーフォード氏の著作は今回の白い果実シリーズで初めて触れたのですが、短編集等色々と翻訳が出ているようで、これから読み進めるのが楽しみです。


「緑のヴェール」でウッドが本を咥えてクレイに読むことをせがむ場面がとても印象深い


ミスリックス


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