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チェットベイカー 最後の秒針

濃霧が立ち込める、荒涼とした景色が広がる中、
中央にはひび割れた古びた
棺桶がぽつんと置かれていた。
チェット・ベイカーがそこに足を踏み入れると、
ゆっくりと沈み込み始めた。
片足はまだ大地に着いているが、
棺桶が彼を引きずり込もうとする力に
徐々に抗えなくなっていった。

彼の表情は虚ろで、
遠くを見つめる目には焦点がない。
生への執着を探し求めているかのようだが、
彼の体はすでに擦り切れ腐乱が進み、
死の影が濃く垂れ込めていた。

突如、視界の端に漆黒の影が現れる。
骨ばった指が大鎌の柄を掴み、
フードをかぶった不気味な姿が風に靡いていた。
ゆっくりとした歩みで、
その存在がチェットに近づく。
彼は気づいたが、身動きがとれず、
ただその迫る終焉を見守るしかなかった。

不気味な音とともに鎌が地面をえぐり取り、
死神の軋む足音が聞こえてきた。
霧から浮かび上がる骸骨の形相、
そしてひしゃげた口から漏れるうめき声。
それはまるで、
彼の来るべき最期を告げるかのようだった。
鎌が大きく振り上げられた瞬間、
チェットの瞳孔は恐怖で収縮し、
額から滾る汗が棺桶の埃と混ざり合った。
時の最後の一刻が、次々と秒針を刻んでいく。

1988年の転落死に至る前の半年、
チェット・ベイカーは
人生の重要な岐路に立たされていた。
周りは死の静けさに包まれ、
棺桶の重みが彼の運命を象徴していた。
遠くを見つめながら、
生への虚しい執着を探し続けていたのだ。 

死神の姿は、終焉を告げる大鎌を持っていた。
その不気味な存在感と鋭い視線は、
チェットに最終的な選択を迫っていた。
音楽の道を歩むように、
現実と超越の狭間に立ち尽くす彼の姿が、
この瞬間の意味を深く象徴していた。
時の最後の秒針が、
刻々と彼の運命を
歩みを進めていくのだった。


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