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冬のシベリア⑬ 終章

ヤクーツクから再びハバロフスクに戻ってきた。
旅も終わりに近い。
最後にどうしても訪れたい場所があった。
シベリア抑留者の墓地だ。
帰りのフライトが出る空港に向かう途中にタクシーで立ち寄る事にした。
運転手はハバロフスクでたまたま拾ったタクシーで、仲良くなったSだ。
彼は当時のスマートフォンの翻訳アプリで一生懸命世間話をしてくれる世話好きな男で、最初に乗った時は「暖かい季節になると子供を連れて泊まり込みで釣りに行くんだ」と大自然の中で釣りをしている動画を見せてくれた。
夜明け前の深夜に車は宿を出た。Sは道中に抑留者が建てた建造物があるとその都度教えてくれた。
タクシーは墓地がある敷地の入り口に停まり、ここで待ってるから行ってこいと言う。
真っ暗な雪道をひたすら真っ直ぐ歩いた。
本当にこの道で合っているのだろうかと不安になり始めた頃、慰霊碑はひっそりと佇んでいた。

およそ57万人以上の日本人が抑留され約1割の5万8000人もの人々が生き絶えたという。
防寒グッズに包まれながら合掌する私にとって、抑留者の耐え難き日々は想像を絶するだろう。

抑留者の慰霊碑
暗すぎたので明るさを補正した

Sの待つタクシーへ戻ると程なくして空港へ到着した。
見送るよと言ってSは空港内まで付いて来てくれた。

「こっちへまた来たら連絡くれよ。釣りに行こうぜ」

そう言って彼は私を見送った。

未だ彼との再会は果たしていない。



冬のシベリアシリーズ 完


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