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【短編小説】立候補声明文(仮案)

《あらすじ》
選挙の話題がかまびすしい、ある星のある国の首都。現職首都知事は過去のスキャンダルを説明することができず、立候補表明を躊躇していた。窮地を打開するために、声明文を公募することにした。
テーマは、「誰もが納得する立候補声明文」。
生活苦のライターが考えた、声明文の仮案とは……。


とある星の、とある国の、首都。
誰が立候補するとかしないとかで、騒がしい。

「学歴詐称で外国に弱みを握られているとか、公約達成ゼロとかってウワサの人だろ」
「まあな」
「もの好きだな」
「応募するだけで10万円、採用されれば100万円。俺って、めったに仕事が来ないライターだろ。仕事を選べる身分じゃないのさ」
「その気持ちもわからなくないわな。昼飯だって値上げしたし、カミさんにもボヤかれる。電気代とか肉魚、野菜だってめっちゃ高くなったんだってさ。サラリーマンだって、生活きびしくなる一方だもんな」

「しかしさ、あの知事、一時は絶大な人気を誇る大ヒーローだったよな。いまや見る影もないけど、自業自得なんだろ。誰もが納得する説明っていっても、どうやるつもりなんだよ?」
「そこなんだよね、言い訳のしようもない。詳しいことは知らんが」
「まさか確かめるわけにもいかないもんな」

「ちょっと書いてみたんだけど、読んでくれるか?」
「立候補声明文ってやつか」

このたび、主都知事選挙に立候補いたしました、大池不二子でございます。
あることないこと取り混ぜ、騒がれておりますことは不徳の致すところかとぞんじます。
これらの一々について、納得いただけるような説明をすることはできません。それなりに理由があって起こったことであり、そのことを回避するための苦肉の策が積み重なった結果なのです。

嘘をつきましたし、地位を利用もしましたし、力づくで押さえ込んだこと、公金を使って口をふさいだこと、人の職場を取り上げたこと、何ひとつ公約を実現できなかったこと……。
説明のしようがない以上、これらの批判をすべて、受け入れることにいたしました。あることないことすべて、事実と考えていただいて構いません。
私を裁き、非難し、ののしってくださいませ。

そのうえで、今回も立候補を決心するに至りました。時代の寵児ともてはやされ、あがめられた政治家として最後の職務だと考えたからでございます。
嘘をつき、地位を利用し、強権発動し、公金で私利を図り、部下を切り捨て、公約実現ゼロの政治家の末路。その姿を、皆様の前にお見せすること。
それが私がやり残した最後の使命でございます。
この使命を成し遂げるために、私は首都知事になったのだと知りました。
どうぞ、最後の使命にお力添えくださいますようお願い申し上げます。

「これ読んだら怒っちゃうぞ。最悪、消されっちまうかもしれない」
「やだよ、そんなの。でも10万円ほしいし。家賃だって3カ月払ってないし」
「スルーされて、事務的に10万円だけもらえればってことか」
「うん」

「でもさ、もし、当選したら1000万円もらえるんだろ。すべてを認めて改心したところを選挙民が認めてくれたりしてな」
「当選したら、全部忘れてるよ。喉元すぎればすべてご破算にする。そうやって生き延びてきた人だもん」
「それが現実ってことかぁ」



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