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【北北海道】高校野球地区予選アナリシス(分析)#第106回全国高校野球選手権大会#北北海道大会準々決勝(令和6年7月16日第三試合)#旭川志峯高校VS帯広大谷高校

さらば愛しき才能たち「帯広大谷」が敗北。


「10対3」(7回コールド)

このスコアは令和6年7月16日に旭川志峯が帯広大谷を破ったスコアである。
前日、イチロー氏が臨時コーチを務め注目を集めていた旭川東を「11対1」(7回コールド)で退けた帯広大谷が旭川志峯にコールドゲームで敗れてしまった。
それは何故か?その理由を分析する。

「掛け違う前輪と後輪」(好不調のギャップ)

一回表、一番、二番が出塁するも無得点。
三回表、一死から一番、二番が出塁するも無得点。
本来は強力なクリーンナップに繋がり得点というのが帯広大谷の鉄板パターンである。
だがこの試合は得点に結び付かなかった。

今夏の帯広大谷クリーンナップは不動だ。
<28打数、14安打、12打点、打率5割>
これはクリーンナップ3名の前試合(3試合)までの成績である。
しかし今試合はこうだ。
<9打数、0安打、0打点>
チーム全体の安打数が8本(ちなみに旭川志峯も8本)であることを考えると明らかにブレーキである。
それに対して1、2番コンビは絶好調(ちなみに1、2番も不動)。
<7打数、5安打、3打点>
全打点が1、2番コンビによるものである。

特定打者の好不調に左右されないことが帯広大谷の見えにくい強さである。
しかし、こうなると話は別だ。
前輪(1、2番コンビ)がトップギアなのに、後輪(クリーンナップ)はバックギアを掛けている。
打線の歯車が極端に噛み合わないと、流れや雰囲気が悪くなる。
そして、影響は攻撃以外にも及ぶ恐れがあるのだ。

重き荷を背負う者(帯広大谷#5)


「スキッパー」

スキッパーとは船の舵取り役を指す言葉で、MLBではチームリーダーの敬称としても使われる。
舵取り役は全ての決定権を持ち全責任を負う。一瞬の判断ミスは生死に直結するため「指示系統は簡潔、責任はシンプル」が大海原での鉄則だ。
夏の敗北は3年生の引退、現チームの解散を意味する。引退する者は甲子園を夢見る権利を剥奪される。これは高校球児にとっては死に等しい。

特に今年の帯広大谷は集大成の年である。
2年前に才能豊かな新入生たちが入部した時から3年計画で「甲子園1勝」を狙えるチームを目指してきた。
帯広大谷高校の背番号5は主将として、この「重き荷」を背負う事になる。
この「重き荷」には、かけがえの無い経験をチームの為に譲ってくれた先輩達や様々な方々の想いが3年分ベットされている。

精神的支柱として「重き荷」を背負い、個性豊かな才能軍団を力づくで引っ張ってきたのは背番号5である。
そんな背番号5のプレースタイルやリーダーシップは、「キャプテン」というより「スキッパー」という呼び名が相応しい。

悪夢のデジャヴ(北海高校戦のトラウマ)

時は少しだけ遡り令和6年5月23日札幌円山球場。
春季北海道大会(1回戦)北海高校戦
帯広大谷が2対0でリードして迎えた四回裏、鋭い正面の打球を二塁手がはじきタイムリーエラーとなる。
その二塁手が帯広大谷のスキッパーであった。

令和6年7月15日旭川スタルヒン球場。
全国高校野球選手権北北海道大会(1回戦)旭川東戦
タイムリーには至らなかったが同じ事が起きる。
これが見えざるトリガーだったのかも知れない。
大勝の影に隠れて見えにくかったが、何かが大きく狂いだす。

そして令和6年7月16日旭川スタルヒン球場。
一回裏、一死二塁の場面でセカンドゴロ。
帯広大谷のスキッパーがボールをはじいた瞬間、守備全体がフリーズする。
そのスキを突き二塁走者は本塁を陥れ先取点。

三回裏、無死一塁の場面でセカンドゴロ。
結果は皆様の想像通りである。
エラーの余韻が醒めぬ間に次打者がそのセカンド横をゴロで抜き2対0。

トラウマ発動。
一個人のトラウマでは無い。スキッパーのチョーキングは船全体に大きな影響を及ぼす。

死の四回(負の連鎖)

あくまで結果論ですが・・・。
帯広大谷の現チームが公式戦で敗北した3試合で最大失点しているのは全て4回である。
秋季(新人戦):東海大札幌戦(2対4)
<四回の失点2点>
春季:北海戦(5対4)
<四回の失点3点>
夏季:旭川志峯(10対3)
<四回の失点8点>
理由は簡単で帯広大谷の投手継投回が四回に集中していて、二番手投手の立ち上がりが不安定な時に守備リズムも乱れ複数失点に繋がるからである(しかし、全ての試合で継投策を用いている事を考えるとかなり優秀)。
これが継投策のエアポケットである。

特に旭川志峯戦は精神的支柱の主将が本来の状態では無く、それに呼応してチームの雰囲気も不安定な状態で、夏季大会登板数1イニングの2年生にスイッチした事により不安要素全てが顕在化してバグが発生した。
<4被安打、4被四死球、1失策、8失点>
旭川志峯がゲーム全体で8安打、4四死球だった事を考えると四回は「死の回」であった事がよくわかる。

一方、旭川志峯の集中力も見事だった。
「畳み掛けるというのはこういう事か」というようなスタンド応援団の盛り上がりで、完全に球場を味方につけた怒涛の攻撃を展開
打者11人で8得点。「チャンスを根こそぎ刈り取った」という印象である。

アスリートの才能勝負(旭川志峯のモンスター)

「死の四回」8点目の得点は、左柵越えスリーランホームランであった。
本塁打を放ったのはナイジェリア人を父に持つ4番打者。スイングスピード152キロ、遠投100メートル、50メートル5秒台というフィジカルモンスターだ。

アスリート同士の真っ向勝負は非常に分かりやすい。
今まで才能勝負で相手をねじ伏せてきた帯広大谷にとって、シンプルな才能勝負の残酷さを最後の試合で痛感することとなる。

しかしこれで終わらないのが「十勝の才能軍団」。
大量失点で目が覚めたか。「これから11点取る」との声が上がる。
5回からは旭川志峯の本格派エースから6安打を放ち3点を奪い返す。
走力や長打力を示す場面も複数回あり、才能軍団の面目躍如である。
あと1点届かず7回コールドとなるも、9回まで試合が縺れていたら一波乱起きそうな余韻を残し帯広大谷はスタルヒン球場から去っていった。
「さらば愛しき才能たち」
人間味溢れセオリーに囚われない彼等の健闘を心から讃えたい。

アナリシス

1回戦の旭川東戦で大胆なポジションチェンジにより大勝した帯広大谷だが、大きな代償を払うこととなる。
翌日の準々決勝もほぼ同じスタメンで臨んだことで、「奇策」のネタが明かされた形となり、旭川志峯の入念なデータ分析に攻略される。

ポジションチェンジした帯広大谷は攻撃型布陣であり、鋭い打球に対応することは難しい。そこを旭川志峯が突いた。
エラートラブルを発症させた主将は、夏季大会からは三塁を守り好守で何度も窮地を救っていた。
十勝支部予選では無失策の堅守のチームである。
それだけに悪いイメージを誘発させたポジションチェンジは凶と出た感がある。
守備崩壊が精神的支柱である選手のピーキングに発展したのは帯広大谷にとっては不運である。今まで勝利に導いていた主将の影響力の高さが、今回は災いし大量失点に繋がった。
一方、旭川志峯のデータ分析力と集中力は見事だった。
トドメの3点ホームランは相手投手の決め球にヤマを張らせ、全てフルスイングさせた結果である。
四回の大量失点が無かったら展開は全く別なものになっていただろう。
しかし「魔の回」は高校野球には付きもの。気まぐれな野球の神様が今回は旭川志峯に味方したと割り切るしか無い。

帯広大谷の主将は試合後のインタビューで「主将としてつらいことが9割5分だった」と語ったらしい。心からの本音だったと思う。
しかし残りの5分は何物にも代え難い一生の宝物となるだろう。
今は「重き荷」を肩から降ろし、酷使した心身を癒して欲しい。
君の人生はまだ始まったばかりだ。

高野連北海道より抜粋


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