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【北海道】高校野球地区予選アナリシス(分析)#第77回秋季高校野球十勝支部予選#代表決定戦Aブロック(令和6年9月28日第一試合)#白樺学園高校VS帯広大谷高校

19年連続地区代表の「白樺学園」が敗北


「2対1」

このスコアは令和6年9月28日に帯広大谷が白樺学園を破ったスコアである。

白樺学園は夏の甲子園に北北海道代表として出場したチームである。
しかも甲子園にスタメン出場した選手のうち6名が新チームに残っている。
白樺学園はこの贅沢すぎるチーム編成で春の選抜を見据え20年連続の地区代表に挑んだ。

一方の帯広大谷は「新人戦」という名称通りのチーム編成である。
投手と4番打者以外は今シーズンの公式戦出場は初。
しかもスタメンの4名は夏までベンチ入りも叶わなかった選手なのだ。

そのリアル新人チームの「帯広大谷」が王者の貫禄漂わせる「白樺学園」に勝利した。

それは何故か?その理由を分析する。

夏の甲子園出場校が敗れ地区代表が19回連続でストップ

「絶対的エースの存在」

帯広大谷の背番号1は昨秋の全道大会準決勝に先発している。全道大会(春)の北海高校戦でタイブレークを経験している。夏の十勝地区代表決定戦ではプロ注目左腕に競り勝った。夏の全道大会でも勝利に貢献する好投を演じている。

帯広大谷はエースの経験や実績だけなら白樺学園に引けを取ってないのだ。
「投手は勝敗の7割を占める」
新チームになり絶対的エースに成長した背番号1は白樺学園の強力打線を1失点、被安打5に抑え完投した。

対する白樺学園も2回途中から背番号1を投入した。
甲子園経験もある白樺学園の絶対的エースである。
しかしながら予定より早い登板の立ち上がりに1失点。

この1点が決勝点となった。

リトルモンスターが絶対的エースに成長

*リトルモンスターの回はコチラ

「エリア15」(帯広大谷の外野)

1点を追う白樺学園の9回表の攻撃。
先頭の3番打者が右中間に大きな当たりを打つ。
打った瞬間に長打コースと確信する当たりは、ウォーニングゾーン付近で帯広大谷の背番号15にジャンピングキャッチされる。

「エリア15」の発動である。

プロ野球や甲子園ではフェンス際の捕球を良く見るが地区予選では大抵その手の打球は長打となる。
帯広大谷外野陣の守備エリアは広くウォーニングゾーン付近をカバー出来る守備体形を可能とする。
特に守備固めで背番号15が加わった守備陣に飛球で安打することは困難だ。

代表決定戦ではヒット性の当たりを外野の好守で防ぐ場面が多く見られた。
捕られた打者のリズムは崩れチームの勢いも弱まる。
強力打線を封じた外野陣の働きも勝利の要因である。

帯広大谷の超守備的布陣「エリア15」

未知の恐怖(見えない敵との戦い)

帯広大谷は白樺学園にとって未知のチームである。
帯広大谷スタメンのほとんどが初出場なので分析は困難である。
打力や守備力、走力などのデータが圧倒的に少ない。

なので体格や打順、背番号などの漠然とした情報に頼るしかない。
結果として下位打線や2桁番号の小柄な選手に打ち込まれ、体躯の良い4番打者に申告敬遠するという試合運びになってしまった。

また帯広大谷の外野陣は組み難しという判断だったらコンパクトなバッテングに徹しただろう。
強豪校はデータを重視する傾向がある。
今回はそこが裏目に出た感がある。

一方、帯広大谷にとって白樺学園はテレビで観た選手達である。
メディア露出が多い分データは豊富だ。
帯広大谷の背番号1は白樺学園の打者分析に6時間ほど費やしたという。

この情報格差も勝敗のアヤとなった。

決勝打は167㎝、56kgの9番打者

球場の空気(選手の地元率)

ゲームは3回以降、ゼロ更新が続く。
さすがに7回当たりから球場の空気がざわつきだす。
「絶対王者が支部予選で消えるのか?」
「帯広大谷のジャンアントキリングが?」
様々な憶測が聞こえだす。
そんな球場の空気を味方に付けたのは帯広大谷だった。

白樺学園のスタメンに地元中学校出身者はいない。
ベンチ入りの選手でも3名に留まる。
しかも中学時代からリトルシニアやボーイズで硬式野球に慣れ親しんでいる野球エリート集団である。
彼等は球場の観客にとってもテレビで観た選手達なのである。

一方、帯広大谷は真逆の構図となる。
十勝管外の選手は僅か2名。
ほとんどが地元中学校の軟式野球部出身である。
観客にとっては「近所のお兄ちゃん達」なのだ。

そんな状況下、観客はどちらに感情移入するか?
「言わずもがな」である。
帯広大谷が勝利した瞬間、球場は我が子を見守る親のような空気に包まれ快挙を成し遂げた「近所のお兄ちゃん達」に惜しみない拍手が送られた。

アナリシス

投手起用が勝敗の分かれ目となった。

白樺学園はエースを温存してレフト起用。
代表決定戦までの過去2戦も先発せず、いづれも4回からのスポット登板。
一方、帯広大谷はエースを先発。
緒戦は野手兼用では無く6回から投手として起用。
準決勝は先発完投して代表決定戦に挑んだ。

白樺学園にとって地区予選は投手育成を加味しての通過点的な位置付けであったが、新人チームと侮っていた帯広大谷の予想外の試合巧者振りに堪らず2回途中からエースを投入。
4回からの予定が急遽2回に繰り上がり十分が準備が出来ない状態で登板したことから立ち上がりに1点を献上。
継投プランのリスケや野手併用の弊害。また長いイニングを投げるスタミナ計算などの不安がもたらした失点であると考えられる。選手層の厚い白樺学園がエースを野手として起用する必要があるのか。結果として1、2回の攻防で雌雄を決した事を考えると投手起用は見逃せない。

次に挙げられるにはチームカラーである。
白樺学園は夏の甲子園に出場した。
その時のチームカラーは「守り競り勝つ野球」だった。
そしてその時のメンバーの大半が残っている。
しかし秋季大会では強力打線の呼び声が高い。
「甲子園🟰強打」のネームバリューなのか。
実際に代表決定戦までの格下相手の試合も長打が爆発した印象は薄い。
それでも代表決定戦では強力打線としての攻め方をしてきた。

一方、帯広大谷はチームカラーが一変した印象が強い。
前チームの超攻撃型布陣からエースを中心とした守備的布陣に変貌した。
特に外野守備は特筆すべき点がある。
現代の野球では打率より出塁率や長打率が重要視されている。
帯広大谷の外野は単打よりも進塁数を意識した守備シフトを敷いていた。

「レンジファクター(RF)」という指標がある。
最新の守備評価方法の一つだが「エラー率」より「「守備範囲」に焦点を置きイニング当たりのアウト獲得数で評価する。
帯広大谷外野陣は「守備エリア」を最大限に広げるシフトを取った。
先述した「エリア15」である。
長打は封印した。
27アウトの3分の1は外野フライで獲得した。
その半分近くは安打性であることを考えると効果は十分である。

昨今、打撃重視の傾向や投手の一時的な待機を理由とした「でもしか外野」が急増している。
しかし小さい頃から外野一筋の選手には代え難い経験とスキル、そして外野手としての矜持がある。
相手の長打率を下げるためにはレンジファクターの高い外野手の起用は有効な戦術である。

なので勝敗の鍵に外野手の適材起用も付け加えたい。

陽の当たりにくい外野手の面目躍如となるゲームとなった。

9回表 守備エリアについて調整する守備職人

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